Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
かなざわ
2026-06-07 18:55:09
4677文字
Public
Clear cache
蒼い鳥のお導き
よだつかワンライ第12回お題「学校、本音」で参加&投稿作品。作成時間3h15min。
アニメ公式のエイプリルフールネタで、司が体育教師、純が理科教師、慎一郎が国語教師のパロ。慎一郎視点です。
以前ワンライで書いた「もっと見せてよ」の続編ですが、この話だけでも読めます。
鴗鳥慎一郎は国語教師である。
穏やかな物腰、丁寧な物言い、誰が相手であろうと節度のある態度で、生徒からは勿論同じ学舎で働く教員たちからも尊敬されていた。
そんな慎一郎の元には、所謂相談事が持ち込まれることが多かった。ただ話を聞いてほしいだけの雑談めいたものから、学生らしい進路の悩み、友人との関係修復をどうしたらいいか、などなど。
慎一郎に相談してくるのは生徒だけではない。教師とて人間である以上、そして多くの生徒たちと向き合う立場であるからこそ、悩みが涌き出てくるのは当然とも言える。時に励まし、時に背中を押し、時に話を聞きながら自身も奮起する。
そんな日々の中で慎一郎はここ最近、同じ学舎で働く友人で理科教師の夜鷹純から度々相談を受けるようになった。
「彼がどんな顔するのか、もっと見てみたいと思って」
「ドーナツが好き? 分かった、買いに行ってみる」
「家に誘うのは早い? 外で食事
……
うん」
「飲酒はあまりしないみたい。無理には勧めてない。僕も飲めないし」
「頬のホクロを突ついてたら、会うと隠されるようになった。なんで?」
一部を除いて思春期男子からの恋愛相談めいているが、純はれっきとした成人男性である。なんなら慎一郎と同い年だ。
純の発した言葉の先にいるのは、彼らと同じ学舎で教職に就いている明浦路司という青年だった。司は純と慎一郎より年下で、体育を教えている。明朗快活という言葉を体現したかのような性格の持ち主だが、決して押し付けがましくはなく、相手との距離感を測れるだけの思慮深さもある。
純は慎一郎とお互いに親友と自負している程に付き合いが長い。慎一郎は純が優しいことを知っている。言語出力が上手く出来ず、かつ表情筋もあまり動かないせいで誤解されやすい性格だということも。
その親友が、太陽のように眩しい笑顔の青年に心惹かれたのだ、と言う。純に心情を打ち明けられた時の慎一郎の心境はと言えば、国語教師としてあるまじきことだが筆舌に尽くしがたいものだった。
司に探りを入れたところ、現在未婚かつ恋人もおらず、片想いをしているわけでもなく、かつ同性間の恋愛にも偏見はないと判明した。彼は恋愛に重きを置くタイプではないようで、「機会があれば、ですね」とはにかんでいた。
ここまで分かり、慎一郎は俄然親友の恋を応援する立場になった。
誤解されやすく、最低限の人間関係さえ築けていればいい、と諦念していた純が誰かに隣りにいてほしいと望むことなどこの先あるかないかだ。
純の背を押し、報告と相談を何度か受けるようになり暫くした頃。
慎一郎は、件の司から「夜鷹先生のことで相談があるんです
……
」と持ちかけられたのだった。
「夜鷹先生から大量のドーナツの差し入れがありまして。俺一人だと消費できない量だったので、夜鷹先生に許可いただいて皆で分けました
……
」
「夜鷹先生って少食ですよね? 食事に誘っていただくのは嬉しいんですけど、俺ばっかり食べてるからちょっと申し訳ないなって」
「最近、その
……
ここのホクロを触られることが多くて
……
距離も近くてちょっと、あの、嫌ではないんですけど、驚くといいますか
……
」
慎一郎は司から相談がと言われた時点で、ある程度の予想はしていた。けれどまあ、出るわ出るわ、純のしてきたことが悉く伝わっていなかったり噛み合っていなかったり、という事実に内心で頭を抱えていた。
司から伝わってくるのは戸惑いが大きく、現状では純に対してマイナスの感情を抱いているわけではなさそうなのが、唯一の救いだった。純のしてきた諸々が悪意に基づいていないと、司にもそれは伝わっているからだろう。
さて、どうしたものか。
板挟みの中間管理職とまではいかないが、今の慎一郎はちょうど二人の中間にいる立場だ。純の恋心を応援したい気持ちはあれど、可愛い後輩である司からの相談も無碍にはしたくない。
暫しの思案の後、慎一郎が切り出したのは。
「明浦路先生がお嫌でなければ、一度純くんと話してみませんか? 私も同席しますので」
◆
そんなわけで、日曜の昼下がり。場所は鴗鳥邸の庭先のガーデンチェアにて「第一回・純くんと明浦路先生の距離を縮めようの会」の開催である。
尚、この会の名前は慎一郎の脳内で呼称しているものであり、渦中の二人には一切知らされていない。第二回以降の開催があるかどうかは、今後の二人の関係性がどうなるかによる。
会の開催にあたって慎一郎は二人に、腹を割って話すこと、困ったことや言いたいことが伝わらないと思ったら、慎一郎にヘルプを求めることを言い含めてある。基本的に慎一郎が口を挟むことはないが、場が白熱して度が過ぎる発言などが出た際には止めに入るとは言っておいた。
勝手知ったる鴗鳥家でいつも通りの表情のままポケットからタバコを取り出す純と、その正面に座り緊張した面持ちの司と。
慎一郎が二人の前にそれぞれお茶を置いていくと、タバコを咥えた純がゆっくりと吸い込み、ふうっと煙を吐き出した。純が手にしているライターの蓋を閉めた、カチンという小さな音が開幕の合図のように庭先に響いた。
「それで、君は何を聞きたいの」
開幕一番、これである。言葉だけならば決してキツいとも言えないが、純の表情と眼光が合わさると詰問されているようにも受け取れてしまう。
初手でこれか
……
いや僕には分かるよ純くん、緊張してる明浦路先生から話し始めるのは荷が重いだろうなって、そう思って水を向けてくれたんだなってことは。でも君はもう少し、自分の眼力の強さを自覚した方がいいよって、前も言ったんだけどな
……
それとなく司の様子を伺う。司は虚を突かれた顔をしてはいたが、すぐに気を取り直したようだった。夜鷹と向き合っているだけあって、彼は胆力が強い。
「夜鷹先生は、よく俺に声をかけてくれますよね?」
「そうかもね」
「毎週誘ってくれるのは、そうかもねってレベルじゃないんですよ
……
」
「迷惑だった?」
「迷惑に思ったことはないです。先に予定があった時はお断りもしましたけど」
「そう」
純から司へのアプローチは、慎一郎が考えていた以上に熱烈だったらしい。まさか毎週誘っているとは思ってもいなかった。
純くん、お付き合いしている仲でも毎週はなかなか会わないよ。そもそも平日は学校で毎日顔合わせるよね?
司からもたらされる情報と、純から聞いていた話とで差異があり過ぎる。二人が順調に会話をしている為口を挟まなかったが、慎一郎は段々と司に対して申し訳ない気分になってきていた。
純はその見た目や言動から淡々としているように見られがちだが、一度決めたら貫き通す、いわば直情的な性格をしている。その性質が発揮される範囲がごく限定的なせいで、あまり気づかれないだけの話だ。
対人関係に対してその性格が向くとこうなるのか、と胸中で一人反省をする。純がどんな誘い文句を告げていたのかまでは分からないが、毎週ともなればさすがに何かあるぞと思ったのだろう。その上で慎一郎に相談してきたのだと思えば納得しかなかった。
「夜鷹先生は、俺に何か聞きたいことがあるんじゃないですか」
「どういう意味」
「そうでなければ、毎週声をかけてきたりしないかなと思っただけです」
「
……
」
司の言葉に、純は暫し黙った。
指に挟んでいたタバコを咥え、一秒、二秒。純の語彙の中から何をどう言えばいいのか、考えている表情だった。一見すると無表情でしかないのだが。
内心でハラハラしながら、慎一郎は二人を見守るしかなかった。どちらからもヘルプが入らない以上、今の慎一郎に出来るのはただ座っていることだけだ。
タバコを口から離した純は、手元に置いていた携帯灰皿に吸い殻を入れる。純は司の目をまっすぐに見つめて、ほんの僅かに首を傾げた。
「君の顔が見たかっただけ」
「学校でほぼ毎日会ってますよね
……
?」
「学校で見せてるのとは違う顔が見たかった」
「え」
純は基本的に言葉を取り繕うことをしない。あまりに端的すぎて誤解されることもしばしばあるが、放たれる言葉に嘘はない。
司は純の言葉が予想外だったようで、ぱちぱちと瞬きをしていた。目蓋が少しだけゆっくりと下り、二度、三度。
慎一郎には司の瞬きが、どこか咀嚼のように見えた。聞かされた言葉の意味を反芻し、理解をするための仕草。
「え、えええ」
意味を理解したのだろう、司が困惑の声をもらした。その頬がじわじわと赤くなっていく。
ともすれば純の言葉の真意が伝わらない可能性も危惧していたが、過分な心配だったようだ。
司の担当する教科は体育だが、読書が趣味だと聞いたことがある。人との距離を推し測れる司にとって、純の抱く感情を推測するのは難しくはなかったのだろう。
「どうしたの」
「ど、したもこうしたもないっていうか、あの、それって」
「顔赤いね」
「逆になんで貴方はそんなに冷静なんですか
……
」
「君が今まで何も気づいてなかったことに驚いてはいるよ」
「ぜ、全然表情変わってないじゃないですかぁぁ」
耳まで赤くした司は、とうとう耐えかねたようでテーブルに突っ伏してしまった。そうしたところで耳は隠れていないし、何なら短く切った襟足のおかげで首まで赤くなっているのが丸見えだった。
「首まで赤いけど、平気なの」
「やめてくださいってぇ
……
」
「純くん、少し落ち着く時間をあげて」
これ以上突っつくとこの場から逃走しかねない。そう判断した慎一郎は、とりあえず純の言及を止めておくことにした。
見ていて心配になるほどに真っ赤になって震えている司だが、純から向けられている感情に気づいても拒否や嫌悪の感情を抱いた様子はなかった。むしろこの反応は大分好感触なのでは、とすら思う。
純はしばらく顔を隠してしまった司の様子を見ていたが、あまりに動かないのでやがて慎一郎に目線を向けてきた。
何も言ってこないが、そこにあるのは「彼はこのままで大丈夫なのかな」という心配だ。
「明浦路先生、そのままでいいのでお話は出来そうですか」
「
……
はい」
テーブルに伏せたまま、頭が軽く上下する。頷いてくれたことに安堵し、返答もあったからそう間を置かずに顔を上げるだろうと判断した。
「冷たいお茶を淹れて来ようと思うのですが、席を外しても構いませんか? ここに居た方がよければ、遠慮なく言ってください」
「ぃ
……
行っていただいて、だいじょうぶ、です」
「純くん、少し離れるよ。五分くらいで戻ってくるからね」
「分かった」
盛大に照れてしまった司には冷たいお茶がいいだろうという考えは、勿論彼への気遣いからだ。あとはオブザーバーがいない方が話しやすいこともあるだろう、という老婆心もある。
純が今までに見せたことがないほどに心を砕いている相手だ、悪いようにはしないだろう。親友に春が来ている、それは慎一郎の心を暖かく揺らした。
五分後、お茶を手に庭に戻った慎一郎が見た光景はというと。
司の隣の椅子に移動した純と、慎一郎が離れる前と変わらずテーブルに突っ伏した姿勢のままの司だった。
「純くん、明浦路先生は大丈夫そう?」
「一度起きたけどまたこれ」
「
……
何か言った?」
「君はいつうちに来るのかって聞いただけ」
「純くん
……
」
親友の春は、まだ前途多難のようだ。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内