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都
2026-06-07 18:26:48
3381文字
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小説
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蜘蛛の言い分
拓歪。事後表現があるのでR-15ぐらいで…。えっちではないです。
流され肉体関係な両片想いから、ちょっと一歩踏み出すぞ、ぐらいの感じ。
また可愛い可愛いと言いあっているだけ。
「結局その蜘蛛のマークってなんなんだ?」
臓器があちこちに描かれた、気味の悪いデザインの羽織にもすっかり見慣れていた澄野は、その中で小さく左右対称にあしらわれた図柄を指して言った。
所用があって面影の部屋に入ったところだった。壁にも大きなネオンサインがあって、同じマークだと気づく。
ネオンサインは三つあった。蜘蛛、ムカデ、そして旧漢字の蟲を崩したデザインの文字
――
と、壁を見つめていた澄野に面影は説明してくれた。
「ちなみにムカデと蟲の文字は着物にあしらわれているよ」
見る? と羽織を脱ごうとするのを制する。止めておかないと、どこまで脱ぎ出すかわかったものではない。
「この蜘蛛はね、羽織に入っている場所から見て察するところがあるかもしれないけど
……
面影家の家紋だよ」
カワイイでしょ? と面影は満面の笑みを浮かべた。こうしてにっこり笑うと普段纏っている怪しさが薄れ、年相応の少年に見えなくもない。
(いや、やっぱり怪しいか)
甘い言葉で近づいてきて、全て奪っていく奴の顔かも、と澄野は思い直した。
じっくり蜘蛛のマークを見つめてみるが、可愛いとは思えなかった。生物薬品室の人体模型がセクシーだと興奮したり、排泄を淫靡だと言ってトイレに張るような奴だ。面影は本気で可愛いと思っているのだろう。
尤も、特防隊の面々を些細なことで
――
しかもそんな空気でない時もカワイイと愛でる面影だから、そのカワイイという言葉にどれほど重みがあるのかはわからない。
「蜘蛛か
……
」
澄野は臓器を可愛いと思ったことは勿論ない。虫は幼い頃に捕って遊んだりもしたので怖くはないが、可愛いと思って捕まえていたわけではない。むしろ捕まえるまでが遊びで、捕まえて虫カゴに入れた後も、動きが面白いと思って見ていただけだ。
「眉間に皺が寄ってるよ、澄野君。はぁ
……
こんなに素敵なモチーフなのに、傷つくなぁ
……
」
芝居がかった調子で肩を落として溜息をつくので、慌てて否定した。
「いや、別に嫌がってるわけじゃない。なんか
……
殺し屋っぽいかもと思うし、似合ってるよ」
すると面影は、目を眩しそうに細めた。
独特の、普段よりも高音な、甘ったるい笑い声が部屋に落ちる。
「私も、蜘蛛というのは殺し屋家業に相応しい図柄だなと思うよ。蜘蛛の巣のように獲物を捕らえて決して離さないという事なんだろうね」
立ち話もなんだし座ろうか、と面影はベッドの端に腰掛けた。まだ一人分の余白がある。
まさかと思っていると案の定、澄野を手招きで誘う。そして空いている場所をぽんぽんと掌で叩いた。
(近くないか?)
と思ったが、変に拒否するのも意識しているようで癪なので、澄野はおとなしくその場に腰を下ろした。
刹那、
「捕まえた♡」
するりと腕を伸ばしてきた拍子に羽織ごと着物が肌を滑り、白い肌が露出する。
その腕は澄野の首に回されて、胸を押し付けられて、熱っぽい吐息が澄野の耳をくすぐった。
「油断しすぎだよ、澄野君」
「仲間相手に警戒するのもおかしいだろ
……
」
「最初は私相手には随分警戒してたと思うけど?」
「ぐっ
……
」
図星だった。だが怪しげな殺し屋が会うたびに「薬を飲むだけ」「人間やめてみない?」などと言ってきたら、警戒しない方がおかしい。
それでも日々を過ごすうちに、彼の仲間に対する心配りを見せるごとに、本人の望む望まないにかかわらず澄野の信頼をこの男は勝ち得ていたのだ。
「今はお前のこと信じてるから、大丈夫だよ」
「なんだ、つまらない。じゃあこのまま押し倒してもいいって事だね」
「そうは言ってないだろ! 今日は薬の相談をしに来ただけだって!」
「だったら私が生物薬品室にいる時にしたらいいのに。夜になって私の部屋に来るなんて、うふふ
……
。まるで自ら蜘蛛の巣に飛び込む蝶のようだね?」
「やめ、どこ触ってんだ! あっ、んぐっ」
「ふふ、ちゃんと素直に反応してくれてカワイイなぁ
……
♡ 澄野君って敏感だよねぇ」
「それはお前が!」
「私が?」
「
……
上手いから、だろ」
火照った顔に、面影の冷たい指が触れる。何が可笑しかったのか、楽しげに喉を鳴らして笑う。
「違うよ。澄野君が私に馴染んでしまっただけ」
嬉しいな、と欲に蕩けた声が響いた。
・
・
・
散々好き勝手に身体を弄られて、それでも乱暴さは欠片もなくて、甘やかす方がお前には効くだろうと暴かれているようで、恥ずかしかった。
だがこの心地良い気怠さは嫌いではない。気持ちが良くて、煽情的な相手に流されてしまったのが現状。いつものことだ。
もしかすると他意はないと言いながら、面影の指摘どおり少し期待もしていたのかもしれない。言われてみれば、夜にのこのこと面影の部屋にやってきて、無事で済むわけがないことぐらいわかる筈だ。
自分から誘っておいて、たっぷりと楽しんだ様子の面影はぐったりとベッドに横たわり呼吸を乱していた。
(エロいな
……
)
甘ったるい毒気が抜けていても、潤んだ瞳と乱れた髪がやたらと婀娜っぽい。澄野はその乱れた髪を手で梳いてやった。
「ふふ、優しいね
……
。でも澄野君に触れられたら私、またシたくなっちゃうよ
……
」
「そんな体力ないくせに」
そういえば薬の話って、どんな用事で来たの? と今更ながらに聞いてくる面影は、澄野の胸に指を這わせていた。
「どさくさに紛れて乳首をいじるな
……
」
「澄野君だって私を抱く時、たくさん苛めてくれるけど?」
「オレは嫌なんだよ
……
」
ずるいなぁ、と気軽な調子で言って、今度は腕に腕を絡ませる。
このぐらいは構わない。むしろ恋人っぽくていいかな
……
と澄野は思った。おさまった筈の熱がまた上がってくるのを、咳払いなどしてやり過ごす。
「いいや、もう眠いし明日にする」
「ふふっ、急ぎでもないのに来たの?」
やっぱりこうしたかったんじゃない? と揶揄されて、「思い立った勢いで来ちゃったんだよ」と誤魔化すも、段々面影の言うとおりだという気がしてくる。
視線を彷徨わせた先に、例のネオンサインがあった。
澄野がそれを見つめていると、面影は言う。
「蜘蛛って、悪者のイメージがあるかもしれないけど、地域によっては神様として祀られてたり朝の蜘蛛は縁起がいいって言われたりするんだよ。他の虫を食べてくれる益虫だから殺しちゃいけないっていうところもあるし」
「そうなのか、知らなかったな。なんか妖怪とかいたよな? そんなイメージだった。なんとなく怖いし」
「東京団地にいる野生の蜘蛛で毒性のあるものはなかったよ。なのに可哀想だよね、理由もなく忌み嫌われるのは。カワイイのにさ」
「ふぅん。なんかお前みたいだな」
面影が目を丸くして、澄野を見つめる。
「えっ? なんか変なこと言ったか?」
「それって、澄野君は私のことカワイイと思ってるということ?」
「は? え、ああ、そうか、いや、そうだな、そうかも
……
」
「煮え切らないね
……
」
指摘されてようやく気付いた。澄野としては怪しげな容姿や言動と自分は殺し屋だと言って憚らない図太さから、初手で皆に警戒されがちな彼と「忌み嫌われるのは可哀想だ」というセリフが重なっただけなのだが、面影は仲間たちから嫌われているわけではないし、可愛いのところはあまり気にしていなかった。
だが目を丸くして驚いていたかと思ったら、嬉しそうにはにかみながらこちらを窺ってきて、曖昧な返事にしょげてみたりして。
「可愛いな
……
」
思わずその単語が口に出た。
「カワイイと思ってるの
……
?」
「う、うん。可愛い」
「そう
……
」
俯いて押し黙った面影に、ますます愛しさが募ってしまう。
いつも流されて身体を重ねる関係。
嫌ではないから流されていた。その程度の覚悟。
だったけれど、今は。
「巣に捕まえたからには、ちゃんと責任持って食べてくれるんだよな?」
ぎゅっと手を握り迫る澄野の声に、面影は漸く顔を上げる。
「た、食べないよ」
大切にしたい、と顔を真っ赤にして呟いた。
そんな蜘蛛のあまりの「らしくなさ」に、澄野は笑う。
「やっぱりお前って可愛いよ」
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