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氷
2026-06-07 17:09:38
1406文字
Public
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万屋街に行ったくりつるの話
※セリフのあるモブが出ます。
鶴丸は恋刃と連れ立って万屋街を訪れていた。しかし、その相手
――
大倶利伽羅は今隣に居ない。単独行動をしようと別れたわけではなく煙のようにふっ、と消えてしまったのだ。周りの景色は先ほどまで立っていた場所に似ているがどこか違和感を肌に感じた。神隠し、と考えてそんなはずがないと考えを打ち消す。周りは一応万屋街の景色を保っているし、他の人々もそこに居る。神隠しをするならそこまで街並みを再現する必要がないように思われた。
「大丈夫か?」
大倶利伽羅が駆け寄ってきた。彼も迷い込んだのだろうか。はー、と疲れが滲む息を吐いた彼をじろじろと観察する。
「お前、伽羅坊じゃないだろ」
見た目は生き写しのようにそっくりだが騙される訳がなかった。
「何を言っている」
眉間に皺を寄せ、かぶりを振る。
「言い訳しなくていい。こっちも聞く気がないからな」
隙を突いてぷつ、と黒い髪の毛を一本抜く。男はぎょっとして身を後ろに引いた。
「そーら、やっぱり。あいつの神気が感じられないし、香りもない」
化けることを諦めたのか大倶利伽羅の外見は闇に溶けた。残されたのは人のように二足歩行で振る舞う狐だ。
「妖狐か
……
」
万屋街にはあやかしの類も出入りする。大体は善良で刀剣男士や人間とも良好な関係性を築いているのだが、時折こういったタチの悪い悪戯を躊躇いなく行える個体が存在する。店を商う側も頭を悩ませていることだった。
「何故こんな馬鹿なことをした」
狐が観念して話した事情によると、鶴丸達がふたり連れで居るところをたまたま見て連れ合い同士と確信し、それぞれを騙して何か買い物でもした所をさっと姿を消せばそのまま物品が奪えると考えたらしい。浅い思考だなあと呆れた。その場に居た仲間の狐と共謀してわざわざ一振ずつを陥れるための空間まで作る能力の高さを別の機会に活かせばいいものを。
「完璧に化けたつもりだったのに。お前が言った香りとはなんなんだ。さっき本刃を見掛けたとき、そんなものはなかった」
自身の嗅覚に間違いはない、と怒鳴ってくる。
「俺だけが感じられる甘い匂いがあるんだよ。ああ、そちらさんが知る訳ないか。悪い悪い」
どんな匂いかは勿論内緒だ。鶴丸がからからと笑った。しかし、次の瞬間金の瞳から光が立ち消える。
「さぁて、連れ合いをだしにしやがった奴をどうしてやろうかね」
愛しい相手に化けた相手への怒りは根深い。とは言え斬るのではなくちょっと叱ろうぐらいのつもりだったが妖狐は勝手に遁走した。
「ふん」
空に向かって悪態を吐く。逃げ足だけは早かったようでもう狐の姿も見えなかった。いつの間にか、元居た地点に何事もなかったかのように戻っている。時間はしっかりと経っていたから元通りとは行かないが。たたっ、と地面を駆け寄る音がする。大倶利伽羅だった。
「伽羅坊! 大丈夫だったかい」
「ああ。妖狐があんたに化けて誘惑してきたがすぐ逃げてきた」
恐らく仲間同士の狐の仕業だろう。もう懲り懲りだと言うように大倶利伽羅が溜め息を落とした。
「俺だとすぐに気付いたのかい」
「
……
あんたの瞳の輝きは何者も真似できない。ただの金色ではないからな」
大倶利伽羅は大倶利伽羅で彼なりの方法で気付いたようだ。俺達お似合い同士だな、と鶴丸が口端を上げた。本来の目的である買い物をやり直すため、もう一度店の軒先を覗いてゆく。
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