眞鍋先生(まふなべ)の小話です。「#RTの早い5人に落書き投げつける見た人も強制でやる」タグで、Blueskyにて投げていたもの②です。塩水さん、ありがとうございました! (初出:2026/05/28)
くたくたになった体で、眞鍋瑚太郎は玄関の扉を開けた。ただいま、と口の中だけで呟いて、暗い家に入り扉を閉める。
廊下、洗面所、居間、と順に明かりを点けていく。手を洗いうがいをして、風呂に湯を張り始めてから、寝室に入った。
今朝早く、眞鍋が仕事へ出かける時にはまだ眠っていた彼は、いつもどおり姿を消している。僕より後に出るならせめてベッドは綺麗にしていきなさい、と口を酸っぱくして言い聞かせた甲斐あって、最近では上掛けを畳み、枕の形を戻すくらいはしてくれるようになっていた。
もっとも、彼らしい不器用さが祟ってか、畳まれた上掛けは四隅すべての端がずれているし、枕は膨らみが足りないままで斜めに置かれていた。及第点とはとても言えないが、前向きに努力している点は褒めなければ、と眞鍋は思う。それに、この雑な片付けゆえに、確かに今朝彼が居た、と確信をもって感じられるのも事実なのだった。
「
……疲れているな」
ため息をついて、眞鍋は首を振った。
彼の存在を、笑顔を、わざわざ反芻するなんて。
当てにできるような人物ではないのに。
彼は気まぐれで、優秀な、美しい若者だ。たまたま興味が今、自分に向いているだけで、いつ気持ちが変わるかわかったものではない。自分から学べるだけのものを学び取ったら、彼はまた次の楽しみへと向かうだろう。それが、真経津晨だ。
それでもいい、と眞鍋は思っていた。
自分は、教師だ。
生徒が成長するのは、自分にとっての喜びだ。彼が立派な大人になってくれるなら、それでいい。
もう一度寝室を見渡して、眞鍋は電気を消した。暗闇に沈んだベッドから眼を逸らし、踵を返す。
そこでふと思い出して、キッチンへ向かった。
冷蔵庫を開けると、シンプルな四角い箱が入っていた。一段を占領するほどの高さがある紙箱だ。その箱を取り出し、食器棚から平皿を取り出すと、まとめてテーブルに運んで椅子に腰掛けた。
箱の蓋を開けると、シュークリームが五つ入っている。美味しいお店を教えてもらったんだ、と言って、彼が買ってきてくれたシュークリームだった。昨晩は食べるタイミングが無かった(主に彼の我儘のせいで)のだが、その時見たのと同じように、今も手付かずで綺麗に並んでいる。てっきり自分が仕事に出た後で、半分以上は食べられていると思っていたので、拍子抜けだった。
シュークリームは、二方が開いた半透明の四角い袋に一つずつ入って、綺麗な焼き色を見せている。その一つを取り出して皿に載せ、眺めながら眞鍋は考えた。
彼と、一緒に食べられるだろうか。
——何となく、大丈夫な気がした。
「
……晨だからな」
名を口にしながらつい、苦笑が滲む。同時に紛れもない嬉しさが混じったのが、自分で可笑しかった。
かぷりとシュークリームに噛みついて、眞鍋はスマートフォンを取り出し、メッセージを開く。今食べている、晨も来ないか、と打つのと同時に、来客を告げるインターホンの音が鳴った。
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