果南(カナン)
2026-06-07 06:36:39
1095文字
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白い翼

黎明(れめゆみ)の小話です。「#RTの早い5人に落書き投げつける見た人も強制でやる」タグで、Blueskyにて投げていたもの① です。もちさん、ありがとうございました! (初出:2026/05/28)



 極限まで明かりを落とした自室で、叶黎明は大きなモニターに向かっていた。
 カーソルが画面を滑り、不規則にキーボードが叩かれる。カチ、カチとクリック音が響くたびに、友人達の笑顔が動いたり止まったりした。
 編集しているのは、先日の村雨邸で撮影された動画だ。低圧室、またの名をスーパー健康マシン1号で、村雨をワンヘッドレイジくんに、獅子神をチワワに変えた、その後の続き。
 白い翼をつけた隻眼の神父が、艶然と微笑んでいる。
『私に神々しい翼を生やすことは可能かっ⁉』
 浮き立った、楽しそうな声が、耳の奥に残っていた。
「私、なんて言っちゃって、さぁ……
 その場のノリで、動画の流れでしていたことだと、わかっている。
 でも、本気で楽しんでいたのも、同じくらい強く知っている。
 ——弓彦は、本当に翼が欲しかったのだ。
……もいじゃおう、かな」
 カチカチ、とクリック音が速くなる。タタタ、と長い指が立て続けにキーボードを叩く。
 複雑な形状のはずの翼が、みるみるうちに点線で囲まれていく。明滅する斜線が翼を覆い、不気味に輝いた。
 翼。飛び立つもの。離れゆくもの。
 作られた画像の中でさえ、彼がそのようなモノを纏うことを、黎明は許せない。
 心のどこかで、馬鹿馬鹿しいとわかっていても。
 もう白には見えなくなった翼が、最後の一押しを待っている。これで、跡形もなく消える。あとは空いた場所を埋めればいい。自分の、好きなように。
 変わらぬスマイルを乗せた眼で画面を見据え、にたりと口の端を吊り上げて、黎明はマウスに乗せた指先に力をこめようとした。
 しかし。
……やーめた」
 急に面倒臭さが勝って、黎明は指を離した。頭の後ろで手を組み、椅子の背にもたれて、暗い天井を見上げる。
 怒り心頭に発する彼の様子は、平素の美しさは何処へ、と言いたくなる豹変ぶりで、なかなかの見物ではある。が、その後を収拾するのも自分だと思うと、割に合わない気がした。
 どうしようもない戦いならまだしも、こんなコトで。
「はぁ……」 
 ため息をついて、黎明は姿勢を戻した。椅子に座り直し、再びマウスを握る。
 輝く斜線を消して、別のコマンドを選択した。白さを取り戻した翼に、光をまとわせていく。彼の望み通り、神々しく。
 翼は、与える。
でも、何処にも行かせない。
「オレに好かれるってのは、そういうコトだぞ?」
 白い翼にきらきらと、光の粒が増えていく。途切れとぎれの鼻歌を愉しげに歌い、空いた手でエナジードリンクの缶を掴んで、黎明は画面の中の男の美しい笑顔を見つめ続けていた。