黎明(れめゆみ)の小話です。「#RTの早い5人に落書き投げつける見た人も強制でやる」タグで、Blueskyにて投げていたもの① です。もちさん、ありがとうございました! (初出:2026/05/28)
極限まで明かりを落とした自室で、叶黎明は大きなモニターに向かっていた。
カーソルが画面を滑り、不規則にキーボードが叩かれる。カチ、カチとクリック音が響くたびに、友人達の笑顔が動いたり止まったりした。
編集しているのは、先日の村雨邸で撮影された動画だ。低圧室、またの名をスーパー健康マシン1号で、村雨をワンヘッドレイジくんに、獅子神をチワワに変えた、その後の続き。
白い翼をつけた隻眼の神父が、艶然と微笑んでいる。
『私に神々しい翼を生やすことは可能かっ⁉』
浮き立った、楽しそうな声が、耳の奥に残っていた。
「私、なんて言っちゃって、さぁ
……」
その場のノリで、動画の流れでしていたことだと、わかっている。
でも、本気で楽しんでいたのも、同じくらい強く知っている。
——弓彦は、本当に翼が欲しかったのだ。
「
……もいじゃおう、かな」
カチカチ、とクリック音が速くなる。タタタ、と長い指が立て続けにキーボードを叩く。
複雑な形状のはずの翼が、みるみるうちに点線で囲まれていく。明滅する斜線が翼を覆い、不気味に輝いた。
翼。飛び立つもの。離れゆくもの。
作られた画像の中でさえ、彼がそのようなモノを纏うことを、黎明は許せない。
心のどこかで、馬鹿馬鹿しいとわかっていても。
もう白には見えなくなった翼が、最後の一押しを待っている。これで、跡形もなく消える。あとは空いた場所を埋めればいい。自分の、好きなように。
変わらぬスマイルを乗せた眼で画面を見据え、にたりと口の端を吊り上げて、黎明はマウスに乗せた指先に力をこめようとした。
しかし。
「
……やーめた」
急に面倒臭さが勝って、黎明は指を離した。頭の後ろで手を組み、椅子の背にもたれて、暗い天井を見上げる。
怒り心頭に発する彼の様子は、平素の美しさは何処へ、と言いたくなる豹変ぶりで、なかなかの見物ではある。が、その後を収拾するのも自分だと思うと、割に合わない気がした。
どうしようもない戦いならまだしも、こんなコトで。
「はぁ
……」
ため息をついて、黎明は姿勢を戻した。椅子に座り直し、再びマウスを握る。
輝く斜線を消して、別のコマンドを選択した。白さを取り戻した翼に、光をまとわせていく。彼の望み通り、神々しく。
翼は、与える。
でも、何処にも行かせない。
「オレに好かれるってのは、そういうコトだぞ?」
白い翼にきらきらと、光の粒が増えていく。途切れとぎれの鼻歌を愉しげに歌い、空いた手でエナジードリンクの缶を掴んで、黎明は画面の中の男の美しい笑顔を見つめ続けていた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.