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みずあめ
2026-06-07 01:05:55
2859文字
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brmy
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ゆづあい
ワンライお題「カフェ制服」
「三番のデザートを頼む」
「はい。え!?」
「そろそろ前は落ち着くだろうから、少ししたら洗い物を手伝いに行く」
「あ、え、逢さん? なんで
……
」
急遽入った代行により篠信が抜けたランチタイム。揺と神家も頑張ってくれているけれど今日に限っていつもより来店が多く、ほとんど満席になっていることがオーダーを見ても明らかだった。キッチンはいつも一人だから普段と変わらず、手を止めることなく動き続けてなんとか回せるくらいだけれど、この様子じゃホールは追いついていないかもしれない、と。そう思いつつもオーダーを捌くために前を手伝うこともできずにいた俺は、突然飛び込んできた低い声に思わず大きな声を上げてしまった。
冷蔵庫から冷やしたお皿と用意してあるカットケーキを取り出し、ストロベリーソースを皿に垂らしてミントを飾る。「三番です」と言ってそれを出すとやっぱり逢さんがそれを取りに来て、デシャップ台越しに目が合った。
「あの」
「話は後だ。キッチンが落ち着いてるならドリンクカウンターを頼めるか」
「っ、はい、すぐに」
そうだ、今は呑気に話している場合じゃない。キッチンから出てカウンターに入り、神家にオーダーを確認して場所を代わる。神家はすぐにホールに出てテーブルを片付け始め、出口の方では揺が会計をしてくれていた。注文を逢さんが取ってくれて、ギリギリだった店内にようやく余裕ができる。
ピークが過ぎて落ち着いてきた頃、キッチンとドリンクカウンターを行ったり来たりしていた俺のところに、逢さんが「おつかれ」と声をかけに来てくれた。さっきまでは忙しい中でチラチラと盗み見るしかできなかった逢さんのカフェ制服姿を真正面から見つめ、思わず口元を押さえて「おつかれさまです
……
」と小さな声で返す。不思議そうに首を傾げる逢さんを上から下までじっくり見つめてギュッと目を瞑った。
「良い、ですね
……
」
「は?」
「いえ、すみません。思わず。えっと、逢さん、どうしてカフェに?」
「相沢が抜けた分のシフトを埋められていないと弥代に聞いた。弥代はランチの時間は他で予定があって入ることができないということも」
「はい。だから俺もできる限り前をフォローしながらやろうと思っていたんですが、今日は普段よりお客様が多くて。神家も揺もすごく助かったと思います。ありがとうございます」
「どうにもならなくなる前に、声をかけろ」
コツンと頭にぶつけられた拳は優しく、そのまま俺の頭を撫でて「おつかれ」ともう一度柔らかい声が俺を労ってくれた。たったそれだけで、さっきまで感じていた疲れが吹き飛んでいく。じわりと温かくなった胸に手を当てて頭を下げた。
「逢さんこそ、お疲れ様です。カフェに出るのはずいぶん久しぶりでしたよね? 大丈夫でしたか?」
「問題ない。
……
というには、まあ、少し疲れた。普段からこれをやっているヤツらは大したもんだな。今度更衣室に差し入れを置いておく」
「あはは、みんな喜ぶと思います。本当にお疲れ様です。ありがとうございます」
「
……
由鶴は」
「はい?」
「いつもキッチンを一人で回して、手が足りない時にはホールにも出て、疲れるだろう」
「今日みたいに混んでる日はもちろん疲れたなって思う時もありますけど、料理も接客も好きなので。それに一人じゃなくてみんながいますから」
「
……
そうか。ならいい」
「?」
「
……
疲れているようなら労ってやろうかと」
「疲れてます、すごく、もう立ってられないくらい」
「
……
」
「今すぐ逢さんに癒されたいなあ」
「
……
はぁ。少しなら抜けても平気か?」
逢さんはチラッとホールの方を見て、落ち着いた店内で神家と揺が隣に立って話している様子を確認すると、俺の手を掴んで更衣室へと引っ張り込んだ。
誰の視線も届かない場所で体を寄せて唇を重ねる。ちゅ、と可愛らしい音を立てて離れた逢さんに、俺からもキスを返す。エプロンの紐を引っ張って緩め、ベストの隙間に手のひらを滑らせて。ピクッと震えた逢さんが目を眇めて俺を睨んだ。
「由鶴さん、一番のデザート、あれ?」
「っ」
「すみません、先に出ます」
囁きついでにちゅっと唇を奪ってから、俺は急いで更衣室を出た。キッチンを出て行こうとしていた神家に慌てて声をかける。
「ごめん、ちょっと抜けてた。オーダー入った?」
「あ、そっちにいたんだ。うん、一番のデザートお願いします。
……
なんかあった?」
「え? どうして?」
「ううん、なんとなく。なんもないならいいんだ。あ、タイがちょっと緩んでるかも。後で鏡見てみて」
「
……
うん、わかった、ありがと。デザートすぐに出すね」
「お願いしまっす」
にこっと笑った神家がキッチンを出て行き、俺はすぐにデザートを盛り付けてデシャップに出した。揺がありがと、と言ってそれを運んでいく。ふぅと息を吐いたところで静かに扉が開く音がして、俺は後ろを振り返った。
「
……
間に合ったか?」
「はい、大丈夫です」
更衣室から出てきた逢さんの制服はきちんと元通りになっていた。いくら興奮したからって良くなかったな、と反省している俺に逢さんの手が伸びてくる。
「わるい、さっき俺が引っ張った」
「あ
……
。
……
神家に気付かれたかな
……
」
「
……
何か言ってたか?」
「いえ、ただ緩んでるよと教えてくれて。でも、更衣室から出てきたのにタイが緩んでるなんて不自然でしょう」
「
……
アイツなら何か気付いたところで突っ込んではこないだろう」
「
……
ですね。恋くんとか明星じゃなくてよかった」
「アイツらがいたら絶対にこんなことしない」
「ふふ、そうですね。じゃあ神家には感謝しないと」
「
……
俺はもう事務所に戻る。残りは三人でなんとかなるだろ」
「はい、ありがとうございました」
キイッと音が鳴って振り向くとホールから揺が顔を覗かせていた。逢さんとしばらく睨み合ったあと、揺は疲れた声で「ありがと、逢」と言った。その後ろから神家も顔を出して「逢さん、めちゃくちゃ助かりました! ありがとうございました!」と言ってくる。逢さんは二人を見据えて、ふんっと息を吐くと、俺を振り返った。
「アイツらにデザートを。支払いは後で俺がする」
「ふふ、はい、了解です」
「本当!? 逢さんありがと!」
「逢、明日もカフェ入る?」
「入らないし、デザートも今日限りだ。今日はお前たち二人とも、よくやった」
ぱぁっと嬉しそうに笑う二人を見て笑っていれば、逢さんは俺にだけ笑みを向けて小さな声で囁いた。
「お前へのご褒美は、さっきので足りるか?」
「
……
もうすこし、ほしいかも」
「了解。仕事が終わったら請求してくれ」
「
……
」
「あとは任せた」
「「はーい」」
神家たちと同じくらいなら、デザート一品に釣り合うだけのご褒美はもうさっきので十分だろう。だけど、もっと良いと言うのなら。神家たちには俺からも追加でデザートを一品出しておくから、もう一皿分、欲しがってもいいだろうか。
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