らい
2026-06-06 23:28:37
868文字
Public レオいず
 

クランクアップ

レオいず(レオ→泉)※同棲解消


 子どものころ、ベッドの下にはモンスターが住んでいる気がして、ひとりで眠るのは怖かった。
 おかあさん、うたって。
 柔らかい手を握っているうちに、いつのまにか朝になった。そうして、泣き虫の妹が産まれてからは、すっかり平気になった。
 わらって、わらって。にこにこしてたら、こわいのとんでくよ。
 幼少期の記憶がぷっつりと消えて、静寂の夜がなだれ込んでくる。いつまで電気を点けてるの、もう寝なよ。やかましいお小声が聞こえなくなった一室は、まるで映画館だ。薄がりに照らされる思い出のレイトショーが、ひたすらにフィルムを垂れ流す。レオは寝返りを打った。右に、左に、幾度も転がっては、古びた映像に挟み撃ちにされる。
 ピコン。急激にスマートフォンが点灯する。通知欄に現れるセナの文字。人差し指でめくったら、お節介な台詞がひとつ。


『もう寝てるかな。明日はパン屋さん、二個おまけの日だね。ひとり暮らしは大変だろうけど、ちゃんと食べなよ』


 返信はせずに、閉じた。
 おまえが終わりにしたくせに、どうして続けようとするんだよ。後ろから抱き締めて不貞腐れようにも、ベッドにはひとりぼっち。「巣に帰れ!」と蹴飛ばされることはないし、「怒ってるの?」と頬を突かれることもない。
 ほんとに終わっちゃったんだ。
 頭のてっぺんまで毛布をすっぽり被った。無音の空間に、時計の秒針だけが響き渡る。大事なものを失ったとて、地球は変わらず回り続けるのだ。得体の知れない恐怖がベッドの下から迫ってきて、レオはわんわん泣いた。
 二十歳になって酒を飲めるようになっても、こどものままだ。どれだけ格好つけたって、真っ暗な夜には手を握ってほしいんだ。
 けれども、そんな泣き言を連ねていても、大好きなあいつは帰ってこない。鼻水まじりの涙を手の甲で拭いて、レオは液晶画面に指を滑らせた。

『おれ、がんばるよ』

 料理も、掃除も、仕事の管理もこなせる一人前の男になって、おかえりって迎えたいから。
 笑って、笑って。にこにこしてたら、怖いの飛んでくよ。