しらかば
2026-06-06 21:52:44
4933文字
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霹靂閃電

鷺内和希、望月大和で過去話。和希誕2026。

 ハピバ和希2026!
 幼い和希と警察官時代の大和の過去話。
※和希なのでお馴染みの和希の過去に関する本編(3部1章)のネタバレ過多です
※途中暗いです
※割と勢いで書きました


泡沫夢幻 追想「鷺内和希・望月大和」
【霹靂閃電】

「望月さん、おはようございます。今日は定時退社なんですね」
 6月6日。朝。
「別にいいだろう」
 いつものように喫煙所で煙草を吸いながら、目の前の煙草を吸わずにコーヒーを飲む青髪の青年に視線を移す。
 望月大和の日常は変わらない。
 後輩であり絶賛指導中の水無月舜と喫煙所で他愛ない会話をし、パトロールに向かう。
 しかし、その日ばかりはため息も深い。
……望月さん、寝不足です?」
「まあな」
……和希の事ですか?」
 舜は大和の顔をじっと見つめると言い当てた。
「正解ですね。顔に出てますよ」
「うぐっ」
「あの市民の為なら残業すら厭わない望月さんが定時退社を希望した、どうやら和希が誕生日だそうだ。朝から館内でもっぱらの噂ですよ?」
 どうして広まっているのか、大和は驚きで噎せた。
 素直に理由を答えたのがまずかったのか、などといろいろ考えていると舜が再び口を開いた。
「息子の誕生日に定時退社、いいパパじゃないですか」
……それはあいつにとって、誕生日が幸せな日ならの話だが」
 大和は再び深いため息をついた。
 去年のこの日、大和は一人の少年を息子として迎え入れた。魔物に自身以外の家族を喰われ、自身は能力が暴走した結果生き残った少年。名を、鷺内和希。
 誕生日とは本来、その人物の生まれてきた日だ。生まれてきてくれてありがとう。この日を今年も迎えられ、年を重ねおめでとうと祝う日。
……分からないんだよ、和希をどう祝えばいいのか。いや、祝っていいのか」
 目を閉じれば、あの日の出会いが鮮明に蘇る。
 鷺内和希という少年にとってのこの日は自身の誕生日であると同時に、家族を喪った日でもあった。
……すいません」
「俺も困っていてな。家族の命日、誕生日を盛大に祝おうにも過去のトラウマがフラッシュバックする可能性がある……魔物の被害者によくある事だ。それも6歳の少年、今日は朝から無言だったよ」
 和希はと言うと、今日は朝から目を腫らしていた。最近ではまともな会話も頻繁にしていたのに。どうしたのかと聞けば「別に」と答えて終了だ。
 その心の声は酷く悲しみに包まれていた。
【どうして俺を置いていくの、俺が生まれてこなければ良かったの?】
【行かないで、ねえ父さん、行かないでよ】
……駄目だ。こんなわがまま言ったら駄目だ、父さんがいなくなっちゃう】
 そんな声を隠して、彼は布団に戻っていく。
……その顔、何か聞こえたんですね」
 自身の能力を知る数少ない存在である舜は大和の表情から全てを悟ると、空の缶を捨てた。
「でも、誕生日ですよ。望月さんが和希が年を取るのを幸せに思うなら祝っていいんじゃないですかね?嬉しいものですよ、いくつになっても祝われるのは」
 大和自身も、家族と良好な関係を築いてきた訳では無い。むしろ、この能力のせいで人とよい人間関係を築けた事がなかった。
……そういうものだろうか」
 俺の考えすぎだろうか、大和が何度目かの深いため息を零した時、舜は何かを思いついたように勢いよくくるりと振り向いた。
「そうだ!望月さん、一つ提案ですが――

 
 普段ならパトロールの時間帯だ。
 しかし、そのルートを大和は後輩ではなく和希と共に歩いていた。
「いや……これはさすがに駄目だろ、舜」
「たまにはいいじゃないですか。俺がやるので、望月さんは親子で散歩してください。パトロールのルート、俺がパトロールを済ませた後を辿るのなら安全でいいでしょう?」
……全く、勤務時間内だが?」
「じゃ、退勤だけは定時で代わりに押しときますんで。お疲れ様でーす。和希、楽しんでな。誕生日おめでとう」
 要するに、「お前の仕事は代わりにやるからお前は帰ってくるな」ということだ。
 管理職に見つかればただでは済まされないのだが、後輩の優しさに甘えることにする。
……何処か行きたい所は?」
……別に」
 しかし、どうしたらいいのかが分からない。
 和希も困惑している。自分が父親としてどう動けばいいのか、大和も分からない。
……じゃあ、とりあえず歩くか」
 突然の事に驚きを隠せない和希の手を引き、いつもの見慣れた道を進む。このルートなら、と頭の中で計画を立てながら。
「まさかパトロールの道をお前と辿る日が来ようとは……普段はこうして歩いて、悪いことをする人がいないかを見て回るんだ」
 歩いていると、顔なじみの人々からいつものように声をかけられる。当然だ、格好は制服、このルートはいつものパトロールのルートだ。
 和希がいるからか、お菓子にジュース、米や野菜といつも以上に渡されていく。
「そ、その!これも……いつもの事なんだ。その、断れなくて」
 和希は大和の顔を見ていた。
……ふふっ」
 彼はなぜか、小さく笑った。
「今日は水無月くんだけで来たけど、望月さんは子連れだったんだねー」
……ま、まあな」
 八百屋を営む老齢の女性は和希の目線に合わせ座ると、彼の頭を撫でた。
……っ!?」
「いい子だねえ、パパに似て」
 和希は驚きで小さく跳ねるが、次第に繰り返される行為に顔を緩めていた。
 思えば、こういったスキンシップは少なかったかもしれない。ゆえに、彼にとっては懐かしい感覚なのかもしれない。
「パパのことは好き?」
 和希は長い沈黙の後に、恥ずかしそうに小さく呟いた。
……ん」
 大和にはそれだけで救われた気がした。
 和希の握る手の力が、少し強くなった気がしたのが微笑ましい。
 そして一通りの道を進み、辿り着いたのはケーキ屋だった。
「ついでだ、予約していたケーキを貰うよ。一緒に見よう、何か食べたいものがあったら教えてくれ」
 子供といえばケーキだろう。最終目的地をここにしていて良かったと思う。
「えっと……ここで待ってていい?」
 しかし、彼は店に入る事なく足を止めた。
「あ、ああ……じゃあ、待ってろ」
 子供がケーキ屋に喜ばないとは、珍しいこともあるもんだな。早くケーキを買おう。大和は店に入り、誕生日の為に買ったホールケーキを確認していてふと、思う。
「いや……もしかして」
 ――鷺内和希。魔物による鷺内家惨殺被害の唯一の生き残り。被害は息子の誕生日パーティーの最中であったと推測される。
 
【嫌だ行かないで来ないでたすけて誰か誰か誰か!!】

――和希!!」
 店を飛び出し、待つ少年を抱きしめた。
 彼の心の叫びは大きくなり、何かに恐怖するようにずっと助けを求めていた。
「大丈夫、大丈夫だよ和希。落ち着け、大丈夫だから」
 少年は震え、青くなった顔からは涙を零していた。
【嫌だ置いていかないで一人にしないで死なないで俺は――
 祝い方ばかりを考え、息子を見ていなかったのは自分ではないのか?
 息子の深い傷を見逃したのは自分ではないのか?
 後悔している暇はない。
 バチ、と音がする。身体が静電気に触れたような、そんな感覚だ。
「うっ……あぁ、ぁああああ!!」
 最悪の事態。
 次第に身体は痺れ、そこで漸くこれは和希の能力だと知る。そしてそれが、一年前の今日を思い出させてしまったということも。
……お前を一人にはしない、絶対に」
 それでも、離さない。
「嫌だ殺さないで死にたくない一人にしないで俺を置いていかないで嫌だ嫌だ嫌だ、ぁ、うぁああっ!」
 恐怖に顔を歪め、少年の慟哭は響く。
 きつく身体を抱き寄せ、頭を撫でる。
「大丈夫だよ和希、俺は絶対に……お前と一緒にいるから、お前を離さないから。何があっても絶対に」
 こんなことしか出来ない自分が嫌だ。本来の家族なら、父親なら、和希の救いになれただろうに。何をすればいいのかが分からない。これが正しいのかも分からないのだ。
 自分は父親失格だろう。それでも、大和は手を離さなかった。
「ううっ……
……疲れたよな、帰ろう和希」
 腕の中で眠りに落ちた息子に安心すると、一気に全身に痛みが押し寄せた。
……舜なら、格好がついたのかな」
「えー……そこの仲睦まじい親子の方。良かったら乗って行きますか?」
 そこに、タイミングよくパトカーが止まった。
「水無月から聞いてますよ、上には内緒です」
……助かるよ」
 大和は後輩に感謝しつつ、車に和希を乗せると目を閉じた。


……これでいいか」
 夜。
……多分、ここが和希とご家族の繋がりでもあるんだ。今の和希には怖いものでも、忘れたらいけない思い出も沢山あるだろうから」
 ケーキは悩んだが、そのまま置く事にする。
……俺が一緒に、乗り越えよう」
 オードブルを買おうとしたが、そんな余裕はなく、あるもので軽く料理をする。唐揚げに、スパゲッティに、オムライス。お子様ランチのように旗を立てて。
……ん、父さん……その」
 和希が目を擦りながら現れる。申し訳なさそうな顔をして、顔を背ける。
「ご飯にしよう、和希。頑張って作ったから――
……さっきはごめんなさい!」
 小さな身体で、深く頭を下げる。
「和希は何も悪いことをしていないだろう?悪かったのは俺だ、だから謝らなくていい」
「だって、父さんにビリビリってしたし……
「あれくらいなんともないさ、大丈夫だよ」
 それでも和希の声は震えていた。
「で、でも!俺は化物なんでしょ!?と、父さんも俺といたら……
 
【お願い捨てないで一人にしないで何処にも行かないで!でも!こんなわがまま言ったら俺はまた一人に――
 
「和希」
 大和は和希に目線を合わせるようにしゃがみ、頭に手を置く。
「俺はお前を置いていかない、一人にしない。だから、和希も俺を一人にしないでくれ。俺にとって、和希は大切な息子なんだよ」
 子供になんと難しい言葉を使うのか。親として失格だな。己を嘲笑うと、濡れた瞳がまっすぐにこちらを見据えた。
……父さんと俺は、親子だよね?俺、父さんの子供でいいんだよね?」
「うん、親子だよ。だから、俺には沢山わがままを言え。父親だろう?」
 血の繋がりなど関係ない。
 この感情は、不安は、確かに愛情なのだろう。
 自分は和希を想い、悩む不出来な父親だ。
「まあ……ちゃんとした父親になれているか分からないが……一人ぼっちだった俺は確かに、お前の存在に救われた。俺は和希と出会って、毎日が幸せになったんだよ」
 ああ、息子に何を言っているのか。言葉の意味は子供には理解できなかっただろう。
 それでも、間違いなく、大和の人生はあの日から大きく変わった。
 一人の少年の人生と交わる事で、このクソッタレな世界は確かに幸せな日々に変わった。たった一人の誰よりも守りたい存在が出来たから。
 だから、和希には幸せになって欲しい。
「だから大丈夫、2人でちょっとずつ進もう。ずっと、ずっと……

――望月さんが和希が年を取るのを幸せに思うなら祝っていいんじゃないですかね?

 ふと、思い出す。
 また後輩に助けられたな。
 それでも、不格好な父親でも、彼にとって幸せではない日でも。言う。
 
「お前が生まれてくれた事に感謝しているよ、和希」

 来年も、またその次も、ずっと。
 俺はお前と出会えた事に、生きていてくれる事に、感謝しているから。
 だからずっと、お前の幸せを祈る。
……和希の幸せは、これから沢山積み上げられていくんだろうな」
 生きてきてくれて良かったと彼が思えるように。
 親として、一人の大切な存在として。
「さあ、ご飯にしようか」
「うん!……俺、ケーキ、食べたい。父さんと一緒に!」
「そうだな、一緒に食べよう」
 それはほんの少し前に進めた親子の、記念日。
 
……誕生日おめでとう、和希」