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はらす
2026-06-06 16:23:05
3213文字
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バチ
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20260605国柴 国重誕2026
2026/06/05 国重誕生日の国柴です。国柴なんですけど、国重と柴さんにロマンスはありません。柴さんの片思い。千晃出てくる。薊もちょろっと出てくる。
俺と六平の誕生日を決めよう、と言い出したのは千晃だった。
あいつはその日も、石垣に腰をかけたかと思えばすぐ飛び降り、地面を蹴りながら、急にそんなことを言い出した。
孤児だった俺たちに正確な生年月日はない。当時の俺はまだ流しの妖術師のおっさんとみみっちい仕事をこなすことで食いつないでおり、自分の生まれた日のことなぞ考える暇は特になかった。自分の妖術の強さが界隈で噂となり、スカウトという名目で妖術局に囲われたのはその日付を決めたすぐ後のことだったように思う。俺と別れた後のおっさんは妖術師では食っていけず、名前ばかりが大げさな強壮剤を売るようになったらしい。よう知らんけど。
六平は出自も仕事もよく分からない、正真正銘の天涯孤独のようにみえた。六平という名字も本当に生まれた時に授かったものなのかも分からないし、誕生日なんてもちろん分かるわけがない。でも六平には、誰から、どう生まれたのか分からなくても、地面から直接生えてきたんだ、と言われても、信じてしまいそうな勢いがあった。その馬鹿みたいな活力だけで、本当なんてどうでもよくなる。付き合っとって面白ければそれでいいのだ。六平もそう思っていたのか、自分のことは何も話さなかった。話といえば、刀か、飯か、俺たちと馬鹿やって遊ぶための算段ばかりだ。
そんなわけで俺たちは、お互いのことは知らないまま、ただ街で出会う同年代として遊びつづけていた。そしてふとした瞬間に、薊と千晃には当たり前にあるものが、俺と六平にはないのだと明るみに出ることがあった。それがその時は誕生日だった、という話だ。
その日は話し合い、ふざけ合い、笑い合ってひとしきり時間を過ごした後、誕生日がある薊と千晃が、ない俺たちに日付を決めてやることになった。
問題は、誰が誰を担当するかだ。俺と六平は順番を決めろと言われ、素直にグーを作って向かい合い、拳で決着をつけようとした。力こそパワー。男なら己の一撃に勝負をかけろ、と。
しかし、それでは日が暮れても決まらないだろうという薊の指摘をうけ、俺たちは一旦、腕を下ろした。なにしろ、その頃のふたりは腕っぷしではそう変わらなかったし。
「じゃんけんにしなよ、じゃんけん。ね?」
千晃はそう言いながら、待ちきれなさを隠さないまま俺と六平の間をぴょこぴょこと行き来した。小動物がぐるぐると駆け回るような姿がおかしくて、俺は腹をくくった。よっしゃ、まかせろ。
グーを作り直して向かい合い、そして、全力でじゃんけんをした。
俺は、それはもう、真剣に、ありったけの念を込めて拳を繰り出す。絶対に勝たねばならなかった。千晃が六平に誕生日を贈りたくて、この話を言い出したからだ。
そんなんみんな分かってたやろって?
いやいや、薊はどうだか知らないが、その頃の六平はまったく分かっちゃいなかった。
朴念仁を人の形に固めたような六平は、千晃がどれだけがんばって気を引こうとしても、奴を見つめていても、なにも、なんにも感じていなかったらしい。
俺だって分からないままでいたかったけど、同じ視線で同じ男を見る奴がいたら気づかないわけにいかないだろう。でも、恋敵として争えるような立場でもない俺は、自分の気持ちは見なかったことにして、とにかく千晃の気持ちがあいつに届くように気を配った。
だからこの時も、俺が勝って薊を選べば、千晃は六平を選べるからと、体中の気合いを振り絞り、俺は拳で勝利をもぎ取った。くそが!
そうして苦労して選んだ薊ときたら「柴の誕生日なんて、正月でよくね?忘れねえだろ、一月一日」などと適当なことしか言わなかった。
「なんやねん、お前。適当なことするなら、もっとおもろいこと言えや」
俺がそう言ってやったのに、まったく悪びれない薊は代案を考える素振りも見せなかった。結局、千晃の提案で俺の誕生日はくじで決めることとなった。適当に文字を書いた地面に石を投げ、当たったところが誕生日だ。最初に千晃が投げて十を当て、薊の石は十五のところにめり込んだ。こいつらが作り出したんだ、俺の誕生日は。十月十五日だ。
一方、めでたく六平の誕生日命名権というか指定権を得た千晃は、なんのためらいもなく「六月五日」と元気よく叫んだ。前々から決めてあったらしい。千晃にとって、その日は特別な日だからな。あいつにとって特別な日ということは、俺にとってもそうだ、ということだけれども。
六月五日といえば、たぶん、いやきっと、俺たち四人が初めて一緒に遊んだ日だ。初夏に差しかかった暑い日で、曇り空の隙間から、薄い雲に傘を差されたみたいな太陽がぼんやりと光っていたのを覚えている。あの後、雨が降ったんちゃうかったっけな。電気屋のテレビに流れる天気予報を見て、もう六月になって五日も経ったんやなって、思っていたのをなぜか鮮明に覚えているから。
千晃のデカい声に六平は大きな口を開けて笑い、「ろくがついつか!ろくがついつか!」と飛び回っていた。楽しそうで、嬉しそうだった。
はあ、じゃんけんに勝ってほんまによかったな、俺。
チヒロ君が生まれてから、誕生日の意味を知った気がする。四人で日付を決めた思い出は、それなりに大事なものではあったけれど、その数字自体はただの日付以上の意味を持たなかった。妖術局や神奈備に所属し、国の世話になるからには、氏名住所生年月日が必要だ。あの時決めておいて便利やったな、とせいぜいそのぐらいのものだ。
誕生日がきたところで、その日に歳をとるわけでもない。歳を重ねたところで、何かが変わるわけでもない。書類に書くためだけの日付だったはずなのに、チヒロ君が生まれ、無事に一年が経って一歳になり、次の一年が経って二歳になるのを見ていると、そんなことも言っていられなくなった。安定した時の流れと、山で彼らと過ごす日々が、戦争を経た俺にとって重要なものであることは間違いなかったから。小っ恥ずかしいことを考えるだけでも尻の奥がむず痒くなるから、できるだけ考えないよう、適当なことばかり言うようにはしていた。けれど、チヒロ君の誕生日がくるたびに、平和と成長をありがたく思わずにはいられなかった。たとえそれが、すべての犠牲のうえに危ういバランスで浮かんでいるものだとしても。
物心がつき、言葉を発するようになったチヒロ君は賢く、利発で、父親にはてんで似ることなく、妙な分別と配慮を身につけていた。なんなら母親の千晃にも似ていない。あの落ち着きはどこからやってきたんだろう。まあいい。そうして、チヒロ君は誕生日のたび祝われ続け、賢くもある日、気がつくわけだ。父さんにも誕生日はあるのだろうかと。
「俺?俺の誕生日はなあ、六月五日!だな!」
胸を張って答える男に、息子はさらに重ねて問う。
「父さん、六月五日に生まれたの?」
「誕生日だからな」
ゲラゲラと大声で笑う六平に混じり、俺も一緒になって馬鹿声で笑う。生まれたわけではない誕生日を決めた日と同じように大声で。
その六平も死んでしまった。大地からそのまま生えてきたかのような強い活力の男も、妖刀と妄執に操られた男たちに殺されてしまった。雫天石の因縁はどこまでも続き絶えることがない。俺はチヒロ君に剣を仕込み、ふたりで復讐の旅に出た。
重い旅の日々の中でも、六月になるとチヒロ君はささやかな祝いの食事を用意する。
「父さんの生まれた日に」
そう言いながら、暗い部屋で飯を食う。「昔みたいに、この日に柴さんと飯を食えることだけは嬉しいです」とも言っていたが、その台詞は適当な相槌で受け流した。
生まれたわけじゃない誕生日を決めた奴も、決められた奴も、もういない。いるのは復讐を抱えた息子だけ。そして、あの日のことを思い出せるのも、俺と薊だけだな、と思いながら、俺はチヒロ君の用意した飯を口の中に押し込んだ。
〆
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