三毛田
2026-06-06 12:45:45
1074文字
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80 【80/合言葉は?】

80日目
決めたいけれど、決めさせてくれない!

「えーと。扉なら……開けゴマってやつか?」
「よく知っているな」
「ちょっと前に観た映画にあったからな!」
「そうか」
 つい最近だから覚えていた。と口にするより前に、納得された。
 さすが丹恒センセイ。
「俺たちだけの合言葉も決めるか?」
「必要ないだろう。何の合言葉だ」
「俺が丹恒に、触れたくなった時。もしくは、丹恒が俺に触れたくなった時」
 パタンとわざと音を立てて本を閉じ、それから肩に頭突してくる。
 痛いってば。
「必要ない」
 肩に顔を埋めているので、くぐもった声。
「でも、俺はあると誘いやすいなぁって」
……俺が、お前の部屋に来た時に好きに決めるのは駄目なのか」
「いや、うん。別に駄目ってわけじゃないよ」
 丹恒が俺との触れ合いに積極的になってくれるのは、もちろん嬉しい。
 でも、なんていうか。それはまたちょっと違うんだよなって気持ちだ。
 ほら、男のプライド的に。
「なら、構わないだろう」
 俺を見上げる彼の唇は、珍しく曲げられていて。
 どうやら、合言葉を決めるのは嫌なようだ。
「わかった。わかったから、地味に俺の足を踏むのはやめて」
 そう。実は、さっきからつま先で爪先を踏まれている。
 これは、この話題を終わらせないと体重をかけて踏んでやるっていう脅しで。
 俺よりも人体のことを熟知している丹恒にかかれば、どこを踏みつけたらどうなるかとか、どこを殴れば大打撃を与えられるか。とか。
 取っ組み合いの喧嘩になった時、俺は彼に勝てない。確実に。
 だから、怒らせないようにしている。呆れられるけど。
「わかった。今回は諦める」
「ずっと諦めていてくれ」
 と言いながら、俺の胸を愛しそうに撫でてくる。
 ちょっと丹恒先生? 俺を煽ってるって都合よく考えちゃうけどいいのかな?
「明日、姫子と出かけるんじゃなかったのか?」
「体力配分を間違えなければ、平気だ」
 胸を撫でていた手は腹の上を滑り、ベルトを数回叩いて。
「手加減しないからな」
「ふっ。お前こそ、動けなくなっても文句を言うな」
 互いに挑発的な笑みを浮かべ、口付け合う。
 体を重ね合った結果? 俺だけベッドから起き上がれなくなりましたよ、ええ。
「それじゃあ、行ってくる」
 パムが届けてくれたご飯を食べ、ツヤツヤになった肌を見せ付けながら出かけていく背中を見送る。
「チクショウ……
 丹恒に格好いいところを見せたくて、ああいうことしたのに。
 見事返り討ちに合ってしまった。
「丹恒には勝てないなぁ」
 一人の部屋で、呟いた声が響く。