水樹
2026-06-13 12:00:00
27003文字
Public
 

140字SSまとめ

今まで書いたものを一部除き展示用にまとめました
※成長ifが混ざっています
※ラブコメ程度の表現をしているものがあります

【どうか思い出さないで】
君は誰?ゼイユに似てるね。その言葉を理解できずに、彼女に詰め寄る。俺を忘れたの。なんで俺だけなの。本当に、記憶がなくなったの。肩を掴んで、揺らしたくなった。できなかった。忘れたのならまた、ゼロから始めればいい。そう思うと同時に、欲が出た。「俺はスグリ。君の、恋人だよ」……嘘つき。

【手をつなごうよ】
何もつけていない左手が、ゆらゆらと揺れている。触りたいな。そっと手を伸ばす。だけど触れる寸前で、離れていってしまう。自分の右手が、不自然に宙を彷徨った。気付かれないうちに引っ込めようとしたのに、どうして気付くの。俯いていた顔を上げれば、満面の笑みが目の前に。「私も同じ気持ちだよ」

【あめふらし】
冷たい雨が、頬を打つ。服が、水分を得て重く張り付く。アオイに勝つために、考えて、考えて、考え抜いた選出。戦法。俺は間違ってない。俺は変わったんだ。弱いおれは、いらない。強い俺がいればいい。対峙し、見据える。彼女の思考を読むために。アオイの頬に当たった雨が、まるで涙のように見えた。

【メイドの日】
ふわふわのフリル。ひらりと翻るスカート。ヘッドドレスにはちょこんとリボンもあって。きっと君には、とてもよく似合うと思うのだけど。「負けたんだから、スグリが着てね?」天使のような笑みで、悪魔みたいなことを言う。俺は、メイド服を着た君が見たかったのに。こんな提案、するんじゃなかった。

【嫉妬にかみつく】
胸倉を掴んで引き寄せる。それでも埋まらない身長差が憎らしくて、目の前の鎖骨にぢゅ、と音を立てて吸い付いた。自分で付けた鬱血痕に満足して顔を上げると、影が差してくる。うっそりと微笑む蜂蜜色がどろりと溶けて、近付いて。「アオイ、君が、悪いんだからな?」いや、元はと言えば君のせいだよ。

【ひざまくら】
柔らかくて、あったかい。けどいつもと違ってすべすべしてて、いい匂い。重い瞼を頑張って開けば、映り込んだのは榛色。大好きな、あの子の色。ぱちぱちと瞬きを繰り返しても、視界と思考が鮮明になっていっても、これは現実だよとしか教えてくれない。「おはよう、スグリ」発火するまで、あと、一秒。

【背中ぐらいは押してあげる】
きっかけは、ちょっとした悪戯心からだった。「スグはほんと、アオイのことが大好きよね」そこから始まった盛大な惚気の数々。モルペコだって食べやしない激甘な言葉のオンパレード。これがアオイ本人の前では言えないんだから手に負えない。手始めに、後ろに本人いるわよって教えてあげるべきかしら?

【外堀は埋めてあるから】
アオイは男運がないらしい。モテる割に、付き合う男が軒並みダメ男なんだとか。「別れた。やけ酒付き合ってよ」そんなメッセージをもらう度、呆れは一瞬で過ぎ去って、歓喜で満ち溢れる。今度はどんなダメ男だったんだろうな。俺のほうがずっとアオイを大事にするのにな。な、アオイ。俺にしときなよ。

【パルデア流じゃなくて君流だよな】
アオイ、俺とのまた約束破ったな。これで一体何回目だと思ってんの。俺、もうそろそろ限界なんだけど。だってもけども聞いてやんね。わっかんねえかなあ。俺怒ってんのがさ。ほんと、いい加減にしてほしい。アオイ、何度も言いたくないんだけども。サンドイッチって、そうやって作るもんじゃねえから!

【罰ゲーム、の、はずなんだけど】
私のそれより少しだけ骨ばった指が、するりと絡んでくる。されるがままにされていると、指の付け根の、水かきみたいなとこを撫でられた。「……んっ」「ふふ、くすぐったい?」そりゃあ、まあ。返事代わりにキッ、と睨んだって、君にはいまひとつどころか効果なし。あとどれくらい、このままなのかな。

【嫌いになれたらよかったのに】
嘘吐き、うそつき、嘘つき、ウソツキ。友達だって言ったのに。初めてできた、友達だったのに。俺を焼いた輝きが、煌めきが。焦げ付いて、こびりついて、離れない。掻きむしっても、振り払っても、それは変わらずそこに在り続ける。こんな、こんな思いをするのならば。ねえ、いっそのこと、君のことを。

【ぬいぐるみだけが知っている】
なんだか似てるなと思って衝動的に買ってしまったオタチのぬいぐるみ。今はもっぱら、勇気の出ない告白の練習台になってくれている。「スグリ、好き。大好き」……なんてね。綿の中には、言えない気持ちがたくさん詰まってる。「……俺も、だよ」突然、背後から返事がきた。「ねえ、もう一回言って?」

【ウタカタ】
冷たい、苦しい、息が、できない。必死に手をのばしてみても、水面から差す光は無情にもどんどん遠ざかる。やだ、やだよ。助けて。(……スグ、リ)貴方を想うことが罪で、これが罰なんだとしたら。こんなのあんまりだ。忘れるから、捨てるから、だからお願い。意識を失う直前、金色が瞬いた気がした。

【超絶激重ラブレター】
昨日の俺は、一体何を考えてこれを書いたんだろうか。びっしりと数枚にわたって書かれているその一部に目を通せば、目覚めたばかりの頭が痛くなる。こんなのもらってもアオイは迷惑に決まってるべ。書いてあるのはすべて正直な気持ちだけれど、これは俺でもわかる。重い。わや重い。よし後で捨てよう。

【-273℃→100℃】
「何、これ」絶対零度の視線が下から突き刺さる。バトルの時でさえなかなかお目にかかれないそれに、不謹慎ながらゾクゾクしてしまった。視線が示した先には、俺の首筋に残る鬱血痕。もう少しだけ浴びていたいけど、正直に言うしかないかな。犯人は、昨日でろでろに酔っ払ったアオイ自身なんだよって。

【嘘一つだってない気持ち】
かっこいいと思ったのは本当。憧れたのも本当。主人公みたいだと今でも思う時はある。けど、それでも。他でもないアオイが、この気持ちを否定しないでよ。かっこ悪いところも、主人公っぽくないとこも今は知ってる。知ってもなお、君を想うことをやめることはできないんだ。アオイ、俺、君が好きだよ。

【熱を切り取って】
「アオイクン、キミにいいものをあげよう」ニヤリと笑うサザレさんから渡された、数枚の写真。そのどれもが、私とスグリのツーショットで。うそ、嘘だ。だって、こんな。「どうしたのアオイ」驚いた拍子に写真が散らばる。「スグ、リ」だって知ってしまったから。その月色の瞳が、甘くとろける瞬間を。

【だって明日は】
明日が楽しみだなと、眠れなくなった夜がある。明日なんて来なければいいと、眠りについた夜がある。今は、どうだろうか。わやドキドキして、わやワクワクして、ソワソワして。寝なくちゃいけないのに、眠るのがもったいない感じ。早く明日にならないかな。でも、まだこないでほしいような気もするな。

【ゼロから、また君と。】
傷ついて、傷つけられて。ぶつかりあって、思いを交わして。そして見つけた小さな宝石に、まだ名前はないけれど。きっと素敵なものだと思うから。いつか名前がついたとき、君が隣にいるのなら。君の隣にいていいのなら。そのときはまた、言葉にして伝えるよ。ねえ、スグリ。なあ、アオイ。私は。俺は。

【祭り囃子は終わらない】
「送ってくれてありがとう。また明日ね!」「……ん、また明日」もう何度、このやり取りをしただろう。数えるのを止めたのは何回目だったかな。気付けば、着ていたはずのじんべえが制服に変わって、いや、戻っている。理由はわかんねけど、何故か祭りの日を繰り返してる。りんご飴、おいしく、ないな。

【いつものアオイのが好き】
りんごの香りのヘアオイルに、つやつやぴかぴかのネイル。仕上げに、ほんのり色のついたリップグロスを唇にのせたなら。ほら、女の子としての装備ができました。全ては、君に意識してもらいたいから。めんこいって、言ってもらいたいから。なのに、なんで、そんなこと言うの。ひどい、ひどいよスグリ。

【落とすつもりで提案したから】
偽装。つまり、偽って装うこと。お互い言い寄られて困っているしよし乗ったと始まったはずの、嘘の恋人関係。ところがどっこいどういうことでしょうか。「アオイは今日もめんこいな」「好きだよアオイ」「ほら、俺は今、アオイの彼氏だから」好意の爆撃が止まらない。ね、ねえ。虫除けのはずだよね!?

【五分くらい眺めてた】
金色を隠す睫毛が、頬に影を落とす。少年と青年の間に座する輪郭は、まだ柔らかさを持っている。机につっぷして眠るその顔に、ふとイタズラしたくなって。そっと指をのばしたけれど、触れる前に掴まれた。「スグリ、起き」「アオイ、ずるっこだな」どっちがだ。のびる二つの影は、やがてひとつになる。

【スグリには共有済でした】
写真の整理をしていたら、身に覚えのない動画ファイルがあった。消すにしても中身を観ないと、と思い再生してみて。「ーーーー!?」声にならない悲鳴があがる。だって、画面の中で、私とスグリが、キ、キキキ、キスを、していた、から。「ゲッ、ゲンガー!!」イタズラっ子との追いかけっこ、開始だ。

【サムシングブルーは俺にだけ見せて】
「サムシングフォー、一つ足りなくない?」そう指摘されて、言葉が詰まる。理由はもちろん、きちんと身につけているからだ。ただその、人に見せるには若干抵抗のあるところだから、言い淀むしかなくて。それがある場所を気付かれないよう撫でる。青いリボンと豪奢なレースでできた、ガーターリングを。

【シスターエールってとこかしら?】
スグはアオイが好きだ。そして多分、アオイもスグが好き。え、なんでわかるのかって?そんなの勘よ、勘!あたしとしてもアオイが義理の妹になるのはやぶさかじゃないし、スグには頑張ってもらいたいところね。早いとこ告って捕まえちゃいなさい。手遅れになっても知らないわよ?スグ、けっぱりなさい!

【君色コーディネート】
鏡の中で、あやめ色がひるがえる。柔らかな素材でできているから、羽みたいに軽くてふわふわ。差し色は黄色。金色は、少しやりすぎかなと思うから。買い出しだけなんだけど、でもスグリと二人きりだから、ちょっと背のびしてみる。めんこいって、言ってくれるかな。似合ってるって、褒めてくれるかな。

【舌で舐める】
無意識だった。アオイの肌を伝う汗が、なんだか、美味しそうに見えて。気付いたら、体が動いて、それを舐めていた。甘くはないな、しょっぱいなって、思って。……あれ、俺、今、何を。「ス、スグリ……?」「…………」「今あの……汗、舐め…………」「ご」謝罪。土下座。言い訳できない。ごめん!!

【真っ赤っ赤】
アオイはくるくるとよく表情を変える。笑って、泣いて、拗ねて。鮮やかなそれは見ていて飽きない。もっと見たい。俺が知らない顔、見たい。ある日偶然見てしまったまだ知らない表情は、まさに恋する女の子のそれで。「……わやじゃ」多分俺も、今同じ顔してる。ねえアオイ。今度はそれ、正面で見せて?

【想い合うなら効果ナシ】
おまじないもジンクスも、この恋を叶えるためならなんでもやってみた。だけど結局、そのどれもが空振りで。でも諦めきれなくて。そんな時、怪しい人から貰った惚れ薬。いかにもー、などぎついピンク色。さ、流石にこれは、良くない、かな。別の方法探してみよう!それが無駄に終わるのは、まだ先の話。

【恋患い「人魚姫」】
泡になる、風になる。終わりの姿は異なるけれど、その結末は皆同じ。王子を想ってその身を滅ぼす。世界から、いなくなる。美しい声と引き換えに足を手に入れた、恋する人魚のおとぎ話。悲しい結末。でもきっと、本人は幸せなのかも。私も、そう思えるかな。痛む足は、出ない声は、おとぎ話と、重なる。

【恋患い「眠り姫」】
見えない壁があるみたいって、ねーちゃんは言ってた。誰も彼をも拒む壁。それが、アオイの周りを覆ってるみたいだって。近付けないんだって。なのに、どうして俺は、アオイの前に立てているんだろう。拒まれないでいられるんだろう。ねえアオイ、俺。俺は、君の、王子様、に、なって、いい、の、かな。

【それはもう言ってるのと同義】
手をとって。目を合わせて。今日こそ言うって決めたんだ。だから、言うんだ。けっぱれ、俺。大丈夫、俺ならできる。言え。言うんだ。「ア、アオイ!あの、お、おれ、俺!ア、アオイの、こと……すっ、す、すす、す……!!」だめだ、やっぱり言えね。手は繋いだままに、俯いた。明日は、明日、こそは。

【恋患い「カエルの王子様」】
起きたらオオタチになっていた。わやじゃ。今日はアオイが部屋さ来るのに。服もヘアバンドもここにある。つまり俺は今、裸なわけで。いやその前にオオタチなんだけど。戻れるのかな。一生このままだったらどうしよう。「スグリ?」「キュッ!?」抱き上げられて、目が合って。元に戻るまで、あと少し。

【恋患い「親指姫」】
アオイが、手のひらに乗るくらいに小さくなってしまった。原因も心当たりも多すぎて、特定できないらしい。元に戻るかもわからないとか。「このままだったらどうしよう」「アオイ……」「こんなんじゃスグリと恋人になれないよ……」は?今何て?翌日無事元に戻ったので、追い詰めて、問い詰めました。

【似て非なるもの】
アップル、カシス、ブルーベリー。黒、紫、黄色に金色。前までは、そんなに気にしてなかったのに。今では目につく度に見つめて、手に取ってしまう。それもこれも全部ぜんぶ、君のせいだ。皆みんな、君を連想してしまう私の心のせいだ。スグリも同じだったらいいのになって、りんご味の飴を口に入れた。

【恋患い「灰かぶり姫」】
朝起きると、部屋の中にガラスの靴があった。それもなぜか、片方だけ。恐る恐る履いてみると、驚くほどぴったり。ええっとこれは。もう片方を探した方がいい、のかな。置いていくわけにもいかないし、そっと包んで抱きかかえる。魔法の靴、だったのかな。だってほら、スグリに会ったら、消えちゃった。

【ご飯サンドは遠慮します】
故郷で見慣れたものが、あろうことかパンの上に乗っている。炭水化物オンザ炭水化物。「ア、アオイ?これは?」「え?キタカミではお米よく食べるって聞いたんだけど……違った?」「や、その、違わねっけど」ぼとぼとと他の具材が乗る。上のパンはどっか行った。俺はこの日、料理を覚えようと決めた。

【酩酊メロメロ】
とろんと溶けた眼差し。ほんのり染まった頬。空いている左手は、私の手をすりすりと撫でてくすぐったい。「スグリ、あの」「んー?」「は、離して」「や」そう言うと頭をぐりぐりと押しつけてくる。好きな人に触れられて嬉しいけれど、相手が酔ってるのと供給過多でキャパオーバーしそうです。助けて。

【「スグリと結ばれますように」】
アオイが髪を伸ばしはじめた。願掛け、だと言っていた。何を願ってるのかは、教えてくれなかった。腰に届くほど長く伸びたその髪は、今、花飾りと共に編み込まれている。「願い叶ったし、切ってもよかったんだけどなあ」「もったいない。せっかくここまで伸ばし……え?」ねえアオイ。願い聞かせてよ。

【顔と態度と行動にでている】
アオイに内緒にしてって言われたから、我慢、我慢。嬉しすぎてどうにかなっちまいそうだけど、我慢、我慢。「バレバレですね」「わかりやすいわよね」「からかっていいかねぃ?」「ハァ!?ダメに決まってるでしょ!」「同感」「え何?何の話?」「アカマツくんはそのままでいてね?」「……?はい!」

【タンクトップ禁止令!!】
鎖骨、脇、二の腕。太もも、ふくらはぎ。薄着のアオイは目のやり場に困る。「スグリ?どうしたの?」「え、な、なな、なんでもな……」ふにゅ。……ふにゅ??「!?」「!?!?」やわ……じゃなくて!!「これ!着て!」「はっ、はい!」マシュマロみたいだった……じゃなくて!!わやじゃあ……

【可愛いのはきみのほう】
「まほ?」「ゆーにらー」「らみぃ!」「わ、ちょっと、あは、ふふ。くすぐったいよ!」道具を拾って戻ってきたら、アオイがポケモンっこ達に囲まれていた。声をかけるのも忘れてただただ見入る。「あ、スグリ!」「!」「見て見て!みんな可愛いね!」「……うん、わやめんこい」何よりも、君が一番。

【ラベル名は「好きな人」】
ネモは?ライバル!ペパーは?親友!ボタン?悪友、かな!それはどうなんだべ。じゃあねーちゃんは?んー、面白くて美人で、頼りになるお姉さん?……そっか。じゃあ、じゃあ俺は………………。アオイ?…………えっと、その、な、なんだろうね……?ライバル、じゃ、ない、の?それもあるけど……

【残暑お見舞い申し上げます】
「あつーい!」「だなぁ」今年は特に残暑が厳しい。日は大分傾いてるけど、涼しくなる気配がまるでない。「!?アオイ!?何して!?」「だって暑いんだもん」顔を扇いでいたはずのアオイの手が、シャツとズボンの裾をばたばたとはためかせている。日に焼けていない肌が眩しくて、俺は意識を飛ばした。

【あれから一年】
初めて会った日のこと、覚えてる?もちろん。初めてスグリとしたバトル、楽しかった!うん、俺も。初めて友達とケンカ、したんだよ。え、あれをケンカで済ませるんだ……?ふふ、ね、スグリ。何?私もっと、スグリとの思い出が欲しいな。……俺も。……欲張りだなって思わないんだ?おあいこだからな。

【俺の理性が飛ぶ前に!!】
「スグリ見て見て!彼シャツー!」「!?」好きな子が、俺の、シャツを、羽織ってる。体格差故にぶかぶかだ。「おっきいねー。ここまですっぽり!」「あ、アオイ?そ、その下は、き、着てるん、だよな?」「……」「……?」「……」おい待て顔を隠すな赤らめるな。ま、まさか。「今すぐ着替えて!!」

【受け取ってくれるかな】
この思いに形があるならどんな形なんだろう。この感情に色があるならどんな色をしているんだろう。砕けたこともあっただろう。濁ったこともあっただろう。けれどきっと、それすらも愛おしいと思えるのかもしれない。心にしまっておくには惜しいから、いつか、アオイに渡すよ。君が好きだって気持ちを。

【起きたのは昼前】
目の前の、スグリの胸板に顔を寄せて、心音を聞く。規則正しいリズムと彼の体温が心地良くて、夢の中へと落ちていく。やりたいことが山積みだけど、少しくらいはいいでしょって言い訳して。久しぶりに二人共休みなんだもん、たくさん甘えさせてよって。昨日セットしたはずのアラームは、まだ鳴らない。

【四季を知る】
「竈の面のオーガポンって、紅葉っぽくもあるよな」「紅葉?」「知んない?葉が赤とか黄色になんの」「へー!」綺麗なんだろうなって笑うアオイ。そっか。知らないのか。見せてあげたいな。紅葉だけじゃない。冬の雪景色や、春の桜吹雪。他にも沢山。俺が好きな景色をアオイにも、好きになってほしい。

【隣は俺であればいいな】
「わ、綺麗……!」「最近はめっきり減っちまったんだけど」「そうなの?」「里の外さ出ちまうからな」神前式の写真。写っているのは俺の両親だ。「この帽子?みたいなのは何て言うの?」「ああ、それは角隠しって言って……」説明しながら頭に浮かぶのは、花嫁衣装を着たアオイの姿。似合うだろうな。

【食欲の秋】
お芋に栗に、ぶどうに梨。甘くて美味しいそれらの誘惑には、きっと誰もが抗えない。かくいう私もそうだから。「太っちゃった……」「そう?傍目にはわかんねっけど」「わかるよ!お腹ぷにってするもん!ほら!!」「え」シャツを捲ってスグリの手を当てる。「ね?」「わやじゃ……」スグリ?顔赤いよ?

【中秋の名月】
「月が綺麗だね」「……」「スグリ?」「そ、う、だな」まん丸なお月様は、パルデアよりも大きく見える気がした。「ふふ。スグリの目の色に似てる」「そ、かな」「そうだよ。私、スグリの目、好きだもん」「っ!」あ、まん丸。やっぱり似てる。「……死んでもいいや」その意味を知るのは、まだ先の話。

【アオイロス】
交換留学が終わって。アオイが学園からいなくなって。探したってどこにもいないなんてことはわかってるのに、つい探しちまう。嬉しかったこと、楽しかったこと、今すぐにでも話したいのに、それができなくて。もどかしくて。何度も空き部屋の前に足を運ぶ。アオイ、アオイ。話したいことがあるんだよ。

【分からせてやる】
アオイは無防備だ。そんなに脚さ晒しやがって。そんなカッコで俺の部屋まで来て。目の前の男が一体どんな思いでいるかわかってんのか。せめてもの優しさでベッドに押し倒す。「下、履いてると思う?」なんて言ったんだ、何されても文句言えねえよな?「ご、ごめんなさい……」ぜったい許してやんねえ。

【ノーブラノーパン彼Tシャツ】
「ア、アオイ?それ……」「これ?もう着ないって言ってたから、部屋着にしたんだー」その場でくるりと回るアオイは、着古した俺のTシャツを着ている。ギリギリ股下。襟はよれて広がっているから、鎖骨がしっかり見える。「し、下は?」「……」「アオイ?」「えへ」ぷつんと、俺の中の何かが切れた。

【分からせられる】
どうしてこうなったの。なんでこんなことに。私を見下ろすスグリの瞳が、獰猛に輝いている。思わず裾を握った。スグリの、彼のジャージの裾を。好奇心と悪戯心からだったのに。こんなことになるだなんて思いもしなくて。逃げたい。逃げられない。スグリの指が、内ももを這う。「ひっ」なんかやらしい!

【確信的犯行】
一糸まとわぬ素肌の上に、スグリのYシャツを羽織る。第一第二ボタンを残して、後は閉める。玄関の開く音。「スグリ、おかえり」「っ」ささやかに育った胸に視線がささるけど、すぐに顔ごとそらされてしまう。「……俺のシャツ勝手に着ないでって、何回言わせんの?」んー……君が私を襲うまで、かな。

【オーガポンを宥めつつ】
アオイは運動神経が良い。反射神経も多分良いんだと思う。じゃなきゃモモワロウの餅さひょいって避けられねえもんな。……今もひょいひょいって避けてっけど。「モモワロウ!めっ!」「モワ……」ちなみに投げられた餅は、鋼タイプのポケモン達が食べている。それを横目に、オープンサンドを頬張った。

【一概に下手とも言い難い】
「アオイさん、スグリくん。何してるんですか?」「ポケモン絵しりとりだよー」「……」「タロ?」「ど、どっちも独創的で、可愛い、ですね……?」「えへへ、そう?」「無理して褒めなくていいよ……」見ないで描くって難しいんだなって思った。それ抜きでも、俺達の絵は、だいぶ、その、アレだった。

【控えめだけど主張強め】
甘い香りがする。「なんかいいにおいするね?」「ああ、金木犀、かな」「キンモクセイ?」「ほら、これ」こんなに小さい花なのに、香りがしっかりしている。「秋になると、この辺においでいっぱいになるんだ。好き嫌いわかれっけど、俺は好き」「うん、私も好き!」「えっ……あ。あー、香りが、な?」

【寝言、ふいうち】
待ち合わせ場所のコーストエリアに行くと、アオイは木によりかかって眠っていた。気持ちよさそうなので、起こさないようそっと隣に腰掛ける。時々笑っているから、いい夢でも見てるのかな。「すぐり……」「!」「すき……だいすき……」アオイの頭が、俺の肩に乗った。「……わやじゃ」顔が、あつい。

【鈍感にぶちんお前だよ!!】
アオイはモテる。とにかくモテる。性別も年齢も飛び越えて、誰も彼もを虜にしてしまう。けど肝心のアオイには、好きな人がいるらしい。アオイに好かれる人なんて、想像もつかない。それをこぼすと、ねーちゃんもカキツバタもボタンも、信じられないって顔をした。何でそんな顔されなきゃなんねえの??

【無自覚にアピール】
スグリはときどき、ずるい笑顔を向けてくる。胸がきゅうってなって、どきどきしてしまうような、ずるい笑顔。そんな顔のときは、決まってふんわり柔らかい響きで私の名前を呼ぶものだから、こっちとしてはたまったもんじゃない。いっそこの胸の鼓動を、君に聞かせることができたらいいのに。なんてね。

【スキンシップ過剰】
手をとって。肩に触れて。必要以上に近づいてみたり、後ろから抱きついてみたりなんかもして。それでもなんだか手応えはない。やっぱり直接言うべきなのかな。でも、それはちょっと勇気がいるなあ。だから今日も私は、スグリにアピールをする。他の人には絶対しないもんこんなこと。だから、気づいて。

【噛み癖と予約】
左手をとって、薬指の根元にがぶりと噛みつく。「……っ!?」ん。跡さついたな。「……予約。いつかここに。指輪さ贈らせてほしい、な?」「へぁ」キスマークでもよかったんだけど、まだつけ方よくわかんねえから。でも、上手くつけれるようになっても、きっと俺は、アオイを噛んでしまうんだろうな。

【猫が私で私が猫で】
「にゃうー」「アオイ?どうしたの?」「んにゃにゃう」「わっ」抱きつかれて。顔が近づいて。鼻と鼻が触れ合う。そして。「待ってマスカーニャそれ以上はだめぇ!!」「にぃ」「え」ま、マスカーニャが喋ってる!?シンクロマシンが故障して、アオイとマスカーニャが入れ替わっていたらしい。え、怖。

【冗談だと言って】
ニュースをチェックしていると、とある見出しが目にはいった。「ねえスグリ。今日っていい夫婦の日らしいよ」「いい夫婦?」「そう。語呂合わせ」「ふうん……んだば、夫婦らしいことでもする?」「……夫婦らしいこと?」そっくりそのまま言葉を返すと、スグリはにっこりと笑って。「子作り」「!?」

【それはまるで番のように】
「ポケモンにも、夫婦ってあるのかな」「なんだべいきなり」「ほらこれ」「『いい夫婦の日』……?」「番がそれにあたるのかな」「さ、さあ……?」アオイの腕の中には、ポケモンのタマゴ。生まれてくるのは、たぶんカジッチュ。俺とアオイのカミツオロチが、ぴったりくっつくように、寄り添っていた。

【さんびき?よんひき?それ以上?】
「わ、なつかしいこれ」「ん?あー、それかあ」アオイの手にあるのは、ワッカネズミのペアキーホルダー。所謂カップル用のやつだ。学生当時、アオイと付き合ってるって物証がほしくて、俺から言ってみたんだ。ちょっと恥ずかしい。「ねえスグリ」「ん?」「そろそろ、イッカネズミに、なりませんか?」

【お酒も本音もこぼれまして】
掃除も料理もてんでだめ。女の子らしいところなんて何一つなくて。子どもの頃は、それでもいいと思ってたけど。「こんなんじゃ一生独身だよぉ……」「俺はアオイならいつでも、嫁さもらえっけどな」「……へっ?」「え…………あっ!?!?」アルコールに強いはずのスグリの顔は、見事に真っ赤だった。

【きっとバレてるだろうけど】
かじかむ手を吐息で暖めていると、横からのびてきた手に包みこまれた。右手はそのままコートのポケットへ。左手には、オーバーサイズの手袋が渡される。「なんで、手袋さ持ってねえの」「こんなに寒いとは思ってなかったから」もちろん嘘。こうすれば、君とくっつけると思ったの。絡めた指は、暖かい。

【捕食、もちもちほっぺた】
腹減った。寒い。バッグあさっても出てくるのは空箱に空の袋ばかり。夢中になりすぎて昼飯を忘れるとかばかにも程がある。ああでも、今何か食べたら、今度は夕飯が入らなくなりそう。腹減った。肉まん食べたい。あんまんでもいい。あ、やばい幻覚が見える。うまそう。「す、すぐい……?」「!?!?」

【チラリと見えるは所有の証】
アオイは寒々しいポーラエリアでも夏服で駆け回る。……タンクトップの俺が言えたことじゃないけど。聞けば、パルデアの雪山ですらその格好で登ったという。そんなアオイが今は、ジャージをきっちり着込んでいた。下はハーフパンツだけど。「珍しいなあ」「……誰のせいだと」「……俺のせい、だな?」

【寒さのせいにして】
「スグリ!」名前を呼べば。「アオイ!」ほら、大好きな声が返ってくる。足元に集まってきていたチラーミィ達を軽く撫でて、こっちへ走って来てくれる。私もユニランを撫でて、走る。「……顔赤いけど、寒い?」「……そうだね。そうかも」本当は、君を想う恋心のせいだよだなんて言ったら、どうする?

【判明したのは数十分後】
洞窟の外は猛吹雪。炎タイプのポケモンもいない。どうしてこんな時に限って。ドームの空調システムがいかれて。ボックスシステムはメンテ中で。ちら、と奥を見るとアオイが震えていて。「……くそっ」「す、すぐり……?」「少し、我慢してて」抱きしめあって、体温を分け合う。復旧まで、あと、数分。

【下心が得だと言っているので】
「スーグリ!」「わぎゃ!?あ、アオイ!いきなり抱きつかねえでっていつも言ってるべ!?」「えへへ、ごめんごめん」勘弁してほしい。抱きつかれる度に腕や背中に当たるやわこい感触に、俺がどれだけ困らされてるか知らないんだろうな。「うー……」「でも離れてとは言わないよね」「そ、それは……

【無香にプラスきみの香り】
「あっ」「どうしたのアオイ」「ハンドクリーム出しすぎちゃった……スグリもらってくれる?」「い、いいけど」「ありがとう!」そういうとクリームを塗り広げはじめる。何で?って思ってたらその手が俺のにのびてきて。「えっ」「はい、おすそ分け!」クリームがにちにちと音を立ててなじんでいった。

【気付かれたので間接キス失敗です】
「スグリ、唇切れてるよ」「ああ、どうりで」ちょびっと血の味がするわけだ。「リップクリーム使わないの?」「んー、ベタベタする感じが苦手で」「もう!私が使ってるやつ貸してあげる。はい」「え?アオイの……?」「あ、使いかけは嫌だよね!新しいやつあったかな……」「……ううん。それがいい」

【食べれるけど拒否しました】
刻んで溶かして冷やすだけ。たったそれだけのはずなのに、どうしてこうも失敗し続けるのだろうか。「ゴンベ……」ふるふる。「ゴクリン……」ふるふる。そうだよね。いくら君たちでも限界はあるよね。「これ、アオイが作ったの?」「え」きっとおいしくない歪なハートは、スグリの口へと消えていった。

【寝ぼけてたは言い訳にすぎず】
「何してんのあんた」「ゼイユぅ……助けてぇ……」ただ眠ってるスグリを起こそうとしただけなのに、なぜかがっちりホールドされて身動きがとれない。その上スグリはまだ起きそうもない。「……大丈夫じゃない?」「どこが!?」「ん、んん……?」「!」お互いオーバーヒートするまで、あと、すこし。

【即答で草by確信犯】
とろんと溶けた眼差し。淡く色づいた頬。……ほんのり香る、お酒のにおい。「あ、ゴメン。このチョコ酒入ってるやつだった」「ボタンん……!」「しゅぐりー、ぎゅー、して?」「〜〜っ!!」わやめんこい。わやめんこいんだけど、手を出すわけには……!「ぎゅー、してくれないの……?」「します!」

【手をつなぐ口実】
「なんだかドームの中風強いね」「んだな」「いたっ」「どうしたの!?」「うう、目に砂かなんか入っちゃったみたい」「わ、こすったら傷が」「でも……」「っ」涙目。思わず生唾を飲み込んだ。「えと、ブルレクやめて医務室行こ?」「じゃあ、連れてって?」「えっ」「だって目開けられないんだもん」

【真っ赤な顔は熱ではなく】
目を覚ますと目の前に好きな子の、アオイの顔があった。「!?」「ん……すぐぃ……?おはよぉ……」「お、おは、よ……?」な、なんでアオイが?確か俺、風邪ひいて……?「……」「……アオイ?」「〜〜っっ!!」アオイはのけぞったものの距離はとれず。そこで俺は抱きしめていることに気がついた。

【きっかけはジンクス】
最近、アオイに避けられている。目が合うとそらされるし、話しかければ逃げられる。思い返すと、カジッチュを渡してからだった。「ガラルでは想い人にカジッチュを渡すと両想いになれるってジンクスがあるんだ。素敵だよね!」「!?せっセイジ先生詳しく教えて!」「お安い御用よ」……わ、わやじゃ。

【感触までも覚えてる】
腹にまわされた腕は、思いのほか力強かった。「アオイ放して」「いや」「俺に構ってないで四天王んとこ行ってよ」「やだ。スグリがちゃんと寝るまで放さない」「……」力が強まって密着度が増す。「……はあ、わかったよ」「寝るまで離れないから」今となってはなぜ平気だったのか、疑問でしかたない。

【眠り姫に目覚めのキスを】
すやすやと眠るその顔が、あまりにも心地よさそうで腹が立つ。こんなとこで寝るなんて無防備にもほどがあるだろ。そんな怒りで魔が差した。……そう、魔が差したんだ。ちょっぴり空いた唇の端、ぎりぎりほっぺた。そこに口を押し当てる。「……ざまあみろ」アオイが起きていたことを知るのは、数分後。

【アオイ限定鈍感覚】
「スグリ、背伸びたね?」「うん。成長痛わや痛かった」会わない間に広がっていた身長差。多分、頭一つ分くらい差がありそう。ただ本人も急に伸びたものだから、まだ感覚がよく分かってないらしく。「うわわ!?」「わや!?ごっごめんアオイ!」抱きついてきた勢いそのままに、押し倒されてしまった。

【キビキビ×パニック】
「モモワーイ!」正確無比に放たれたくさりもち。運悪くその先にいたのは。「もが!?」「スグリ!?」「……」「だ、だいじょう……ひゃ!?」「アオイ……」へ?え?あれれ?なんで私、スグリに抱きしめられてるの……!?「アオイはわやめんこいな。すき。わやすき。だいすき」「!?」えっ?え!?

【猫の手を借りて】
「にゃー」ニャオハ?それも色違いだ。ドームには生息してないはずだから、誰かのポケモンかな。「迷子?トレーナーは?」「にゃう!」「わや!?」しゃがんだ俺の膝に飛び乗ってさらにジャンプ。頬をペロリとなめられた。「あ……行っちまった」シンクロしたアオイの仕業だなんて、知りもしなかった。

【次の瞬間しぼみました】
ゆさゆさたゆたゆと揺れるそれから、必死で目をそらす。「わあ、制服破けそう」やめて言わないでとりあえずじっとして何もしないで。ビルドアップを食らってしまったアオイは、なぜか胸だけが大きくなってしまった。「ねえスグリ」「な、なに」「……もんでみる?」「もっ!?な、なっ、えっ……!?」

【無意識って怖い】
「アオイ、ほっぺにクリームさついてる」「え、どこ?」「そっちじゃね。じっとしてて」「んむっ」「ん、取れた」もったいないなと舌でなめ取る。「……アオイ?」「……っ、〜〜っ!?」顔真っ赤だ。さっきまで普通にしてたのにどうかしたのかな。「な、なっ……!」あれ、俺、今、何したん、だっけ。

【光源氏計画(失敗)】
アオイが小さくなってしまった。記憶もないらしくきょとんとしている。わやめんこ、ではなくて。「ど、どうすれば……」「おにーちゃんだあれ?」「おっ、俺はスグリ、だよ」「すぐり、おにーちゃん?」こうかはばつぐんだ!そんな幻聴がする。「えと、きみの面倒、俺がみてもいい……?」「?うん!」

【見栄っ張りな文字たち】
スグリの字はとてもきれい。一線一線がとても丁寧で、彼の人となりを表しているよう。手紙を読むたび、そう思う。……そう、思っていた。「これ、スグリのノート?」「そうだよー」「だ、だよね?」そこに書かれている文字は、知っているものと少し違う。だけどそれは、間違いなく、スグリの字だった。

【大人になったら】
「将来の夢、かぁ」「アオイなら何にでもなれそうだよな」「えー?何にでもは無理だよ。一つは相手ありきだし」「……相手ありき?」「そう」なんだべ。予想も想像もつかねえ。「教えて、ほしい?」「教えてくれる、の?」特別だよ、と寄せられた唇が告げる。「……スグリの、お嫁さん、です」「!?」

【まだ恋じゃない】
アオイと一緒にいるのは楽しい。……楽しいんだけど時々、胸の辺りが締めつけられるように痛くて苦しくなるときがある。林間学校のときも、四天王に挑んでいるのを見ていたときも、そして今も。心臓が、「はねる」を繰り返しているみたいだ。ただ技とは違って、俺の中で何か起こっているようだけれど。

【夢で会えたら】
夢のアオイは、俺にどこまでも都合がいい。なんでも許してくれるし、なんでもしてくれる。俺の思う反応をしてくれる。本物のアオイは、どこまでも自由な鳥ポケモンのようなのに、夢のアオイは、俺に捕らわれてくれる。俺の側にいてくれる。本物のきみは、遠い遠い海の向こう。……ずっと、ずっと遠く。

【ブルレクは一旦お預け】
「やっほースグリ。今日暑いねー」「うん。……うん!?」なっ、あ、アオイなんてかっこしてんだ!?タンクトップにショートパンツって……!!そ、それに見間違いとかじゃなきゃその。む、むむ、胸に、とと突……!!「これ!!今すぐ着て!!」「やだよ。暑いもん」「いいから着て!!」「……あっ」

【知らないとでも思ってた?】
「ねえスグリ。熱中症って、ゆっくり言ってみて?」「ん?いいけど。……ね、ちゅー、しよー?」アオイはなぜか動かない。「……ふふ。なあアオイ。ちゅー、しねえの?」「えっ!?」んだば、俺からしかけてあげる。逃げられないようそっと、でもしっかり頬と腰に手をそえて、おいしそうな唇を食んだ。

【梅雨明けはまだ遠い】
湿気の混ざった風が、肌を撫でていく。パルデアとは違う暑さには、いまだに慣れない。すう、と大きく息を吸いこめば、土と草、それと雨のにおいがした。「……アオイ」手の甲に触れた、しっとりとした手のひら。「……スグリ」友達から恋人になったきみの温度も、湿度にも、まだ慣れそうにはないなあ。

【湿気ではねちゃって】
逃げた背中を捕まえて、おでこにくっついている手をはがす。普段は大人しい前髪が、ぴょこりとはねて存在を主張する。「すっ、スグリにだけは、見られたくなかったのに……っ!」必死に顔をそらして、なおも隠そうとしているアオイ。「……かわいい」「!?」撫でつけてみても、前髪はやっぱりはねた。

【恋患い「美女と野獣」】
ドームに突然、化け物が現れたらしい。なんとかしてくれと頼まれてしまい、それと対峙するはめになった。その獣の瞳は、わたしのよく知る金色ととてもよく似ていて。「ぐるう」「……スグリ、なの?」「がる」頷く獣。頭の中に、とあるおとぎ話が浮かぶ。希望をこめて口づけを贈る。そこに、いたのは。

【イタズラ失敗しっぺがえし】
じりじりと無防備な背中に近づいて、いちにのさん!で飛びこんだのは白じゃなくてなぜか赤色。期待してた悲鳴も聞こえない。その代わりに。「にへへ。アオイつかまえたー」「え……?んぇ……?」背中に回った腕。ぴったりくっついたおなか。「俺だって、いつもやられっぱなしじゃいられねえからな?」

【下着のラインがくっきりと】
今日のコーストエリアは一段と暑く、じっとしているだけでも汗がふきだしてくる。「アオイ。もう切り上げよう?」「だめ。もうちょっと」ああ、これじゃ目的果たすまで動かねえなあと、わずかに視線を落とした先にあったのは。「っ!?」「スグリ?どうしたの?」「アオイ!これ着てひきあげよう!?」

【彼女じゃなくて妻がいるから】
「あの!スグリ先輩って、彼女いるんですか?」「彼女?……彼女、は、いねえけど」「じゃあわたし、先輩の彼女に立候補していいですか!」「あー……それはちょっとできねえ相談だな」「え」困ったように笑う先輩は、グローブの片方、左手側を取り外す。その薬指に、輝いているの、は。「だって、俺」

【恋患い「白雪姫」】
「恋をしたら、りんごは食べちゃダメだからね」小さい頃、ママにされた忠告。その時はなんのことだかわからなかった。けど、サンドイッチに挟んだりんごをひとかじりして思い出した。こくりと飲み込んだとたん苦しくなる呼吸。にじむ視界。遠のく意識。……そっか。やっと気づいた。わたし、スグリに。

【天の川すら障害にならない】
「織姫と彦星って、一年に一度しか会えないんだ……」「俺、アオイとそんなんなったらさみしくて生きていけね……」「スグリ……大丈夫!止められたって会いに行くよ!」「アオイ……!うん、俺も!俺も会いに行く!」今なら引き離した神様の気持ちがわかる気がする、とは一体誰の言葉だったのだろう。

【キスの練習(なお失敗)】
じっと目を合わせて。そっと顔を近づけて。もう少し、あと少し。「スグリー!遊びにきたよー!」「わぎゃああああ!?」俺の口が触れる直前だったぬいぐるみは宙を舞い、あろうことかモデルとなった人のもとへ。……アオイの、俺の好きな人の手の中へ。「スグリ?何かしてた?」「なっ、何もしてね!」

【きみから好きって言ってほしいの】
好きなタイプ?うーんとね。普段はおっとりしてるんだけど、バトルのときは真剣で食らいついてくれる、背中を預けられるくらい強いひと。あとはそうだなあ。優しくて気が利いて、でも案外頑固で負けず嫌いで。それと甘いもの……特にね、りんごあめが好きなの。……ふふ、ねえスグリ。顔が真っ赤だよ?

【どう転げたらこうなんだ!?】
目の前の棚に意識を集中させる。そうでもしないと、両頬と後頭部のやわい感触にどうにかなりそうだからだ。「よい、しょっと……取れた!肩車してくれてありがとね」「う、うん。じゃあ気ぃつけて降り」「うわ!?」「わぎゃあ!?」アオイを守ろうとしたのが悪かった。両手と顔に、さっきの感触、が。

【なお、アオイはけろりとしていた】
「わっ、て、停電?」「だな。今日外大分天気荒れてるらしいから。でもすぐに復旧す……っ!?」左腕がぐん、と引かれる。見えないけど、そこにいるのはアオイしかいない。え、俺今、アオイに頼られてる……!?心なしか震えてる気がするし。わ、わやじゃ……!「あ、安心して?な?」「ゃみ」「!?」

【意味を知るのはそう遠くない】
「ん?わあ、昔のスグリだ!かわいいー!」突然現れた謎の女性。なんかどことなくアオイに似てる……?「ってうわ!?」「えへへ。ぎゅーってしちゃお!」わぎゃあ!?これ、おお、おっぱ……!?や、やわ……!?「は、離し……っ!」「……ごめんね」「え」謝罪の意味を聞けないまま、彼女は消えた。

【我らランデブーポケモンなので】
それはアオイと二人、コーストエリアで泳いでいるときだった。「見てスグリ。ラブカスがいっぱい!」「わやぁ、ほんとだ。大量発生?」「んー?そんなお知らせなかったけどなあ」俺たちの周りをくるくると泳ぐラブカスたち。「ひゃっ!?」「アオイ!」よろけたアオイを支えきれず、水しぶきをあげた。

【日を改めて、もう一度言わせて】
「俺、アオイのことが好きなんだ」その言葉は、告白と呼ぶにはあまりにも軽く、しかし友人に対してというには、特別な色を持ちすぎていた。口に出したつもりはなかった。ただスグリの中で「自分はアオイに恋をしている」ということが、ストンと落ちてきたから。気づいたら、それが口からこぼれていた。

【舌で舐める】
アオイの頬を伝う汗が、きらきらしててまるで飴みたいに見えた。あ、このままじゃ落ちちまう、もったいないなって、気づいたら顔を近づけて甘くはないそれを、舐めとっていた。「す、すぐり……!?い、いいい、今何して……?」「……?〜〜っ!?わやじゃ!?ごっ、ごめん!な、なんか無意識に!!」

【見られたのはキスシーン(健全)】
終わった。アオイさんに、僕の描いた漫画を見られてしまった。「これ、わたしとスグリ?」「……はい」「すごい!そっくりだね!」「アリガト、ゴザイマス」お願いします、その先は見ないでください、その言葉は出てきてくれない。「……えっ?あ、あの、これ……」「すいまっせんでしたぁぁぁぁ!!」

【俺が今持てる唯一の物証(激重)】
……にへへ」部屋の鍵に付けた、ワッカネズミのキーホルダーをゆらゆらと揺らす。ただのキーホルダーじゃない。アオイとお揃いの、磁石でくっつくペア仕様……否、カップル仕様だ。……にへへ、アオイが俺の、彼女。夢みたいだけど、夢じゃない。このキーホルダーが証明だ。「……スグ、あんたそれ」

【危険<好奇心】
『生徒の皆さんへ。台風接近のため、エントランスを封鎖します。繰り返します――』「台風だって。怖いね」「んだな。けどその辺はしっかり対策してあっから安心し……アオイ?なんかうずうずしてねえ?」「えっ?あー、ええと。天気荒れるなら、ぼうふうの威力上がるのかなって、思っただけ、だよ?」

【建前だったと後に知る】
「演技の練習?」「うん。どうしてもって頼まれちゃって」「まーた安請け合いしたんか」「えへへ……」「んでも俺、演技とかできねっけど」「それは大丈夫!」アオイが取り出した台本の演目は、白雪姫。「スグリはそこに寝転がるだけでいいから」「……え?」「わたしね……王子様役なの」……はい??

【ぬいぐるみのお呪い】
いつものようにスグリの部屋に遊びに行くと、主はいなかった。そのかわりに、そっくりのぬいぐるみが。拾い上げて、誰もいないことを確認する。そして本人には絶対にできないこと……キスを、ぬいぐるみにおくる。「な、なーんちゃって……」すると、ぼわんと音を立てて、ぬいぐるみがスグリになった。

【つまり俺もずるっこだ】
アオイはずるい。ずるっこだ。出会ったときからずっとずっと、俺の心はアオイにかき乱されている。今だってそうだ。ただ話をするだけなのに、肩と肩がぴったりくっつくくらい近い。俺から触れれば顔真っ赤にするくせに。「好きだ」って言えれば、解決するのかな。でも、もう少し、このままでいたいな。

【なおバレバレだったもよう】
最近、スグリがわやわやしてくれない。その代わり、私ばかりがドギマギさせられてる気がする。……面白くない。ので。一計を案じてみることにした。「ただい……なに、そのかっこ」「ん?」ふっふっふ。ちゃんと服は着てるけど、スグリからはエプロンしか見えないはず。さあさあわやわやしちゃってよ!

【目に毒水浴び水遊び】
ニョロトノのみずでっぽうが、アオイを直撃した。「……あはは!暑いって言ったから涼しくしてくれたんだね?ありがとう!」「トニョーロ!」「いや笑ってる場合じゃねえべ!早く着替え……」ああああもう!アオイをまともに見れねえ!!何っでこんなときに限ってアカデミーの夏服さ着てんのかなあ!?

【景色ふたりじめ、きみをひとりじめ】
「わあ、きれい……」バルビートとイルミーゼが作り出す光の景色よりも、出会ったばかりのきみの横顔ばかり見ていた。「喜んでくれてよかった。ここ、おれしか知らねんだ」「そうなんだ。教えてくれてありがとう!」だけど、帰り道も来た道も、アオイは知らない。その事実になぜか、胸がぞくぞくした。

【歯磨きちゃんとしようね?】
「スグリ」「……」「スグリさーん?」返事をしようと口を開こうとするも、はしる痛みでそれは叶わない。けど、この痛みを治すには、あそこに行くしかなくて。でも、行きたく、ない。だって絶対痛いし。「……わたし、虫歯がある人とはキスしたくないな」それがとどめになって、俺は歯医者を予約した。

【蝉(?)時雨】
「ねえスグリ。キタカミでさ、ミーンミーンとかジジジジジって聞こえてきてたけど、あれってポケモンの鳴き声?」「ん?あー、あれな。俺もよく知らねんだ」「えっ」虫ポケモンだとは思うけれど、でもキタカミにはそれらしいポケモンはいないらしい。え、待って待って。じゃああれは何の鳴き声なの!?

【妬いてくれて、わやうれしくて】
ぷくっと膨れた頬をつついてみても、そこの空気は抜けない。「……アオイ、機嫌さ直して?」「嫌。わたし怒って……スグリ、どうしてにやにやしてるの?」「えっ」とりあえず隠してはみるものの意味はなく、アオイの頬はますますぷくりと膨れる。わやじゃ。どうしよう。口角さ上がるの、おさえらんね。

【(声、また聞きたいな)】
わやじゃ!連絡先なぞってたら、アオイに電話さかけちまった!「スグリ?どうしたの?」「あっ、や、その、ええと。そ、操作、間違っちまって……」「……そうだったんだ?気にしないで。早く慣れるといいね」「うん」「じゃあまた」電話越しのきみの声は、いつもより近くて、なんかくすぐったかった。

【とりあえず着替えてください】
「あのね、あおね、すぐりおにーちゃん、すき」「……ありがとな」「ちゅーして、いい?」「えっ」返事をする間もなく重ねられた小さな唇。瞬きをひとつする間に、小さかった、小さくなってしまっていたアオイは元の姿に戻っていた。「……」「……お願い。忘れて」「えっそれは無理」「どうして!?」

【いちごアイス(練乳入り)】
「あつーい!」「んだな。はい、アイス」「ありがとー」二人並んで縁側に腰掛け、溶け始めているアイスを頬張る。「わ」「アオイどうし……っ!?」「あはは、こぼれちゃった。べとべとだあ」そう笑うアオイは、口も胸元も白い液体……練乳で汚れていた。「っ、た、タオル持」「舐めてみる?」「!?」

【契約は破棄されました】
「恋人契約?」「そう。期間は俺がイッシュさ帰るまでの間」お互い面倒なお誘いを断る、いい言い訳になるべ?……確かに、それはいいなとは思うけど。思う、けれど。私は、すぐに頷くことができなかった。結局はイエスと返したけれど。長く長くおさえ続けた思いは数ヶ月後、あっけなく叶ってしまった。

【風呂上がり、タオル一枚】
……アオイ」「あ、スグリおかえりー」「……何回も、言わせないでほしいんだけど」「えー、だって暑いんだもん。それに鍵はかけてるから他の人入ってこないし」「……俺、男なんだけど」「……?それはわかってるよ?」……わかってない。全っ然わかってない。とりあえず!早急に!服を着てくれ!!

【恋患い「灰かぶり姫」】
「アオイ、ここさ足のっけて」「でも」「いいから」靴がぽーんってすっぽぬけて、たまたま居合わせたスグリに見つけてもらった。まさかはかせてもらうだなんて思ってもみなかった。「よし、できた」「ありがとう」当たり前だけど、それはわたしにぴったり。なんだか、まるで。「……シンデレラみたい」

【わがまま姫におやすみのキスを】
「すぐりぃ、だっこ」「だめ」「じゃあぎゅーして」「一緒だべ。だーめ」「むぅう。けち」「アオイ今風邪さひいてんだから。薬飲んでたくさん休んでさっさと治さなきゃ」「はーい……」呼吸が穏やかになる。どうやら眠ったようだ。そっと髪をどけて、まろやかな額に口づける。「……はやく、気づいて」

【気付いてないのはお互いだけ】
アオイには好きな人がいるらしい。スグリ、好きな人いるみたい。だからって諦めるわけじゃないけれど、好きな人には恋を成就させてもらいたい。でもやっぱり、落ち込むものは落ち込むわけで。……一体、どんな人なんだろう。きっと素敵な人なんだろうな。……ねえ、どうしてみんな、変な顔してるの??

【俺はきみにずっとメロメロ】
メロメロの流れ弾をくらったスグリが、なぜかわたしに抱きついてきた。引きはがすこともできずそのままでいると、ほっぺた同士をすり合わせてきたり、じっと目を合わせて微笑んだりしてくる。あうう。ど、どうしよう。「ねえ。アオイも俺に、メロメロ?」「ふえっ!?」「だって、わやドキドキしてる」

【「なににやにやしてんの気持ち悪い」】
戻ってきたスグリは、以前にましてだいぶわかりやすくなった。「アオイのことが大好きです」をそれはもう誰から見ても気付くくらいには。ま、本人は隠してるつもりらしいけどな。キョーダイにはバレてないのが不思議でならねえや。端から見てると、じれったいが面白い。あー、ちゃかしてやりてえなー。

【こたえあわせしよう】
「アオイ」するり、指が絡め取られる。「アオイ」もう片方の手が、そっと頬に触れる。「……嫌なら、逃げていいから」満月の瞳と、甘い香りが近づいてくる。逃がすつもりなんてないくせに。……逃げるつもりは全くないけど。返事の代わりに、瞼をおとす。息をのむ音。増す香り。唇に、ふれたのは、何?

【ただのじゃれあいだったはずなのに】
どうしてこうなったんだっけ。確か、アオイがくすぐってきて、仕返ししてて、それで。なんか、俺がアオイを押し倒したみたいになってる。上がった息。ほんのり赤いほっぺた。うるっとした瞳。……なんだろ、これ。なんか、よくないこと、してる気分になる。「……すぐ、り?」「!!ごっ、ごめん!!」

【結婚前提お付き合い】
「俺、アオイのことそんなふうに思ったこと、ない」昨日、その言葉で恋心を砕いた張本人に、神妙な面持ちで呼び出された。「あれからずっと考えてた。そんで気づいたんだ。俺、アオイのこと愛してるんだって。だからアオイ。俺と、結婚してください!」「え、お、お付き合いからでお願いします……?」

【きみの手を待ってるのに】
「しゅぐりー。ふふ、しゅーぐりー」平常心。平常心だ俺……!ぐりぐり押しつけられる頭も、腹に感じるやわこい感触も、さっきから香る甘くていい香りも、全部全部理性がどうにかなりそうだけど。ここで負けたらダメだ。吹っ飛びそうな理性をギリギリで繋ぎ止めなければ。「……スグリ。手、出してよ」

【あほ毛は口ほどにものを言う】
最近気づいたことがある。アオイのぴょこんとはねた髪、あほ毛というらしいそれ。それが、アオイの感情とリンクしているようだということに。驚けばぴんとのびるし、嬉しいときにはぴこぴこ揺れる。ころころ変わる表情と同じで、見ていて飽きない。惑うように揺れるときは、一体どういう感情なんだべ?

【(アオイに近づくな)】
「チャンピオン様はほんとーに、キョーダイがだぁい好きでやんすねぃ」「……」無視かい。ツバっさん泣いちゃうぜ?だが肯定しないが否定もしない。まあ肯定ととっていいだろう。だってほら、キョーダイに話しかけてる男子、おっかねえ顔でにらみつけて。おー怖い怖い。……なあもしかして、無自覚か?

【熱視線の真相は】
最近、スグリとよく目が合う。彼に恋心を抱いている身としては、舞い上がるくらいに嬉しいことではあるけれど。にこっと笑ってそれで終わることがほとんどだから、何か話があるからとかでもなさそうなんだよね。「ねえ、どういうことだと思う?」「簡単なことよ。スグがあんたを見てるってだけでしょ」

【ゆっくりでも一歩ずつ】
アオイに好きだと伝えて、お付き合いがはじまって。恋人繋ぎで手を繋いだり、友達とはたぶん違うハグをしたりした。「ね、スグリ」「ん?なに?」「えっと、えっとね?わたし達そろそろ、恋人としてステップアップしていいんじゃないかな」「え」それってどういう?「きっ……きす、したいなあ、って」

【「見たでしょ嘘つき!ばか!すけべ!へっ、へんたい!」】
一際強い風が、アオイの紫色のスカートを舞い上げた。時間が止まったかと思った。実際はほんの一瞬だったわけだが。「……見た?」「見て、ない、です」嘘である。日焼けしてない白い肌と、明るい黄色の……ぱ、ぱぱ、パンツ、を、俺はしっかりと見てしまっている。なんなら目と脳裏に焼きついている。

【「そんな忠告、絶対聞かない」】
アオイが近くにいると、俺、だめなんだ。触れたくなる。抱きしめたくなる。……キス、したくなる。その先だって。でも俺は前に、自分勝手なことして迷惑かけて、傷つけたから。もう、そんなことはしたくない。アオイのこと、大事にしたいんだ。だから、だからアオイ。今は俺に、無防備に近づかないで。

【あまいかおり】
女の子は甘い香りがするのだと、誰かが言っていた。当時の俺は、それを信じなかった。だってねーちゃんからも他の人からも、そんなの感じたことなかったから。でも、アオイは違った。アオイから感じるのは、頭がわやふわふわぐらぐらして、これ以上はダメだと思うのに、もっともっとと欲しくなる香り。

【いい風呂の日】
どうしてこんなことに。どうして俺は今、アオイと風呂に入ってるんだ。「スグリ、目つぶってたら危ないよ?」「だっ、だだ、だいじょうぶ!俺絶対目ぇ開けねっから!」見たら死ぬ!色んな意味で!「そ、そう……?」案の定滑って転んで、アオイの胸にダイブするはめになったのは、わずか数分後のこと。

【次忘れたら恋人繋ぎの刑】
「うう、寒い……」「手袋は?新しいの買ったってこの前言ってたべ?」「えっ?えっと、忘れちゃって」「……ふーん」温めようとすり合わせていた自分の手が、少しだけ大きくて温かい手に包まれる。「……嘘つき。今度わざと忘れたら……わかってるよな?」「えっ」「……冗談だべ」目が笑ってないよ?

【(まあ、嘘なんだけどな)】
一際強い風が、アオイのスカートを翻す。「……見た?」「……ごめん」「〜〜っっ!!」ぽかぽかと叩かれるけど、全然痛くない。熟れたりんご色の顔も相まって、ただひたすらにめんこいだけ。「ね、アオイ」「……なに」「一瞬だけだったから。だから、もっと、よく見せて?」「なっ、ば、ばかっ!!」

【愛妻に拍車がかかった日】
「愛妻の日?」「そう。語呂合わせ」「へえ」自分にはてんで縁のない話だな、とアオイの言葉を聞き流す。俺にとっては毎日が愛妻の日で、毎日愛を伝えているのだから。「ねえスグリ」「ん?」「ママになっても、私を愛してくれる?」「それはもちろ、ん……ん?え?まっ、ママ?」「よろしくね、パパ」

【春風にキスはできないもん】
「アオイって、春風みたいだよな」「え、どういうこと?」「あったかくて優しくて、でも時々強くなったりする。あとつかまえられないとことか」なにそれ。スグリにはわたしが、そんな風に見えてるの?「スグリ。わたしはちゃんと、ここにいるよ?」「わやじゃ!?……いたずらなとこも、追加しとくべ」

【「かっこいい……」】
見慣れた景色の中を、見慣れない子が駆けてきた。あの子にとって、ここは知らないはずの場所なのに、たった一人で。それが、長い間一人で過ごしててもへっちゃらって感じの鬼さまと、重なった。ずっと憧れ続けている、伝承の鬼さまと。ねーちゃんの背中から、そっと見てみる。思わず、言葉がこぼれた。

【「いけ!オタチ!」】
うれしい……!夢みたい……!アオイと戦えるの!きっかけは、ねーちゃんの余計なお世話だったんだけど。二つ返事で「いいよ!」って言ってくれたの、うれしい!公民館の前でアオイと向かい合って、ボールを構える。心の中で「よろしくな」って、おれの相棒に声さかける。二人同時に、ボールを投げた。

【「スマホロトム、わや便利じゃ……」】
アオイの目の前でふよふよと浮かんでいる、スマホロトムをのぞき込む。使い方はねーちゃんのでなんとなく知ってっけど、うまくできっかな。「えっと……目的地ってのに登録?するべ」地図の上、おれの家の辺りにピンがささった。「ありがとう!」アオイの笑顔がまぶしくて、つられておれも笑顔になる。

【「いっこあげる」】
「ちょっと待ってて」スグリのその言葉通り、その場を動かず待つ。辺りからはいろんな香りといろんな音がして、あれもこれも見たくなってくる。待ちきれずスグリの背中を追うと、何かを買っているようだった。振り向いたスグリが持っていたのは、きらきらでまるくて、甘酸っぱい香りの……。「アオイ」

【「本当は、逆なんだよ」】
ユキノシタさんのその言葉から始まった話は、看板のものとは本当に逆で。だとしたらあの子の手にたった一つ残ったこのお面、早く返してあげないと。「この話、スグは知ってるの?」「いいや。いずれ話そうとは思っているが……あの子は鬼が好きだろう?」きみが聞いていただなんて、思いもしなかった。

【「いけ!カミッチュ!」】
スグリに、嘘をついてしまった。秘密を抱えてしまった。言いたいのに言えない。嫌だ。苦しい。「……ごめん」「……なにが?」罪悪感から出た謝罪の返事は、低く、冷たい。「アオイ。おれとバトルして」「……いい、よ」ボールから出てきた子は、昨日きみがくれたりんごあめに、とても、よく似ていた。

【なりたかった、なれなかった】
……わかってた。アオイに勝てないってことくらい。だけど嫌だった。鬼さまが、オーガポンが、アオイを選んだことが。オーガポンがアオイを認め、ボールへとおさまる。「……スグリ」今、きみの顔、見たくない。きみの声、聞きたくない。「……おれ、アオイ、みたいに」きみみたいに。主人公みたいに。

【変わってしまったきみ】
「どうしてこんなこともできないんだよ!!」突然響いたその声は、忘れるはずもない声で。だけどその声色は、聞き覚えのないもので。階下に見つけたきみは、雰囲気ががらりと変わっていた。遠くから伝わってくる空気は、ぴりびりと刺すように痛い。「忙しいみたいだし、代わりに書いてやるよ、退部届」

【声を……
「違う……俺はまだ……負けてない……。今度こそ……俺、俺が、勝って……」ふらつきながら立ち上がるスグリは、今にも倒れそうで。消えてしまいそうで。対するわたしはバトルに勝ったのに、楽しくも嬉しくもなくて。スグリに近づきたいのに、足がうまく、動かない。……ねえ。近づいて、どうするの?

【「スグリ!一緒に!」】
目の前の光景を、ただ呆然と見つめる。ボールに戻らず暴走したテラパゴス。倒されたねーちゃんのヤバソチャ。一人で戦い続ける、アオイの背中。「スグ!あんたも戦いなさい!」「む、むりだよ…………おれなんか……」からっぽのおれなんかじゃ、何もできないって諦めたとき。アオイが、振り向いた。

【ゼロから、また俺と】
……アオイ!」前を行くきみの、名前を呼ぶ。振り向いたきみの、三つ編みが揺れる。うまく、言えるだろうか。うまく、伝えられるだろうか。言葉に詰まる俺を、アオイは待ってくれている。アオイはずっとそうだった。深く息を吸って。ありったけの勇気を振り絞って。一番伝えたかったことを、きみに。

【「キビキビー!」】
いなくなったネモさんを探しに、アオイと二人で外に出た。見渡してみても、その姿はなく。見つけたのは、知り合いのおじさんとおばさんだ。「アオイ。あの人たちさ聞いてみるべ」「うん」話しかけても返事がない。聞こえてない、のか?「……キ」「え?」「キビキビー!」わぎゃー!?な、なんだあ!?

【片や避け、片やおでこに】
「あ!あれ!」指さした先には、ピンクの何かがいた。「うちが見たやつ!ドローン?」「いや、ポケモン、か?」その何かが二つに割れる。「モゲゲー!」そして、何かを飛ばしてきた。「もがっ」「むぐっ」反射的に防御の姿勢をとる。もちっとした何かが、おでこに当たった。えっと、アオイ…………

【「背中は任せた!」】
ともっこプラザでようやく追い詰めたポケモン?は、今度はネモを盾にした。……なんか、ちょっと、自我残ってる……?「キビキビー!」「えっ」「わやじゃ!?」振り向くとそこには、キビキビしている人達が集まってきていた。「アオイ、俺がみんなの足止めさする!」「わかった。それじゃあスグリ!」

【「んだば俺は、カジッチュさ出すな」】
「俺、アオイとポケモンっこさ交換したい!」「いいよ!じゃあわたしは……」ボタンにその話をしたところ、「ふーん?へーえ?」と意味深な笑みとともに、あるジンクスを教えてくれた。ガラル地方で有名な、とあるジンクスを。ねえスグリ。この子にまつわるジンクスを……きみは、知って、いる……の?

【ゼロから、また君と】
「いよいよ始まるね、スグリ!」「んだな。わや楽しみ」「……でも、今回で終わっちゃうんだって……」「うん。だけど、これで全部終わりってわけじゃねえべ?」「……うん!ねえスグリ、写真撮ろう!」「えっ?なんで急に?」「えへへ、なんとなく!」この先も、きみと一緒なら。きっと、何度だって。

【新しきは真っ白な靴】
サムシングニュー。何かひとつ、新しいものを。花嫁の未来を示すもの。「スグリ……これ」「あのドレスに似合うと思って、買っておいたんだ」彼から差し出されたのは、汚れひとつない、真っ白な靴。それは、私の足に驚くほどぴったりだった。「アオイと一緒に、いつまでも、どこまでもいけますように」

【古きは母の首飾り】
サムシングオールド。何かひとつ、古いものを。花嫁の先祖への繋がりを示すもの。「アオイ。これ」「ネックレス……?」「それはね、昔パパからもらったものなの」「ええっ!?そんな大事なものもらえないよ!」「平気よ。それにあなたの幸せに繋がるなら、きっとパパも喜ぶと思うから。だから、ね?」

【友から借りるは菖蒲の手巾】
サムシングボロード。何かひとつ、借りたものを。既に結婚している人から借り、幸せにあやかるのだという。「アクセサリーやハンカチが多いみたい」「みたいですね。では、このハンカチをお貸しします」「ありがとうタロ。わあ、綺麗な刺繍だね。……ねえ。この花って」「……あやめ、です」「だよね」

【青は朱子織の飾り紐】
サムシングブルー。何かひとつ、青いものを。花嫁の純潔をあらわし、人目にあまり触れない場所につけることが多いという。「……きれい」ふと目についたのは、サテン生地のリボン。一目で気に入り買ってしまった。「これ、どこに着けようか?」「俺にいいアイデアがあっから、任せてくれる?」「え?」

【靴に銀貨は入れずとも】
新しいもの。古いもの。借りたもの。そして青いもの。サムシングフォーはそれで全部。だけどもうひとつあるらしく。「……銀貨?靴に?」「うん。これにはそう書いてあるね」「銀貨かあ」「……あのね、スグリ。たとえジンクスにあやかれなくても、これから先隣に君がいるなら、それで私は幸せだよ?」