仕事してたらローエンがやってきた話

※実装前作成のため、口調の捏造などにご注意を

「それでは戻るまでの間、よろしくお願いしますね」
「分かりました。いってらっしゃい!」
 姿勢を正し前で手を組んでお辞儀をする彼女――キャサリンに手を振り送り出してから、私は冒険者協会の受付へ立った。


 朝でも昼でも夜中でも、どんな時間に立ち寄ってもモンドの冒険者協会受付係として立っているキャサリンが、休憩に入るのを偶然見たことがきっかけだった。長年冒険者をしている私が『正体』を知った時にはとても驚いたが、納得もした。どこへ『休憩』に行くのか……と言うところまでは聞き出せなかったけれど、彼女の休憩時間中で不在となる間に受付業務を代わることを申し出てみたところ、快諾された時は嬉しかった。
 それから、ごく偶にではあるが個人的に依頼を貰って、簡単な冒険者受付業務だけ担当することになった。

 必要な書類やペンなどを準備して、キャサリンは使わないので普段は用意されていない私用の椅子に腰掛け、ここへ寄るはずの冒険者たちを待つ。とはいえ、依頼時間中に数度来客がある程度なので、さほど忙しい仕事ではない。私で答えられない案件はキャサリンに引き継ぐ約束なので、メモだけしっかり取れれば問題では無い。
 読書でもして待機しようかと本を手に取ったところで、近くでこちらに向かってくる足音が聞こえた。開きかけた本を閉じて机の隅に置く。椅子から立ち上がり顔を上げ、あの台詞だ。

「星と深淵を目指せ…………え?」
「あ? お前、何でこんなとこにいんの?」

 なんと、初手から知り合いとは運がない。いやまぁ、この形式的な台詞を言うのが少し気恥ずかしいだけ、だが。
「ローエンじゃん。……何って、アルバイト。冒険者協会からの依頼みたいなものだよ」
 この男は結構な頻度で依頼が一緒になる奴で、まぁそこそこ……仲が良い……んじゃないかと勝手に思ってる。なお、毎回先陣切って敵を葬ってくれるのはとても助かっている。
「へぇ……、いつもの受付嬢は?」
「休憩中だね」
「ふーん」
 聞いてきたくせに全然興味なさそう。なんなんだ。
「それで、ここには何の用事?」
「依頼受けに来たに決まってんじゃん。……そうだ、いいこと思いついた」
……一応聞くけど、なに?」
 そう聞き返すとローエンは、受付台に載せていた書類をザッと横にどかして私の方へ身を乗り出してきた。受付台に肘を乗せて頬杖をつく。落ちかけた書類に慌てて手を伸ばす私を、下から見上げるような角度で彼がニヤリと笑う。

「今日の依頼、お前が選んでくれよ。なんか良さそうな奴」
「え? それはまぁ仕事だし、良いけど……ちょっとローエン。顔が、近い!」
「いいじゃねぇか、減るもんでもなし」
「減る減らないじゃないよ、ほら……下がってってば」

 だんだん顔を寄せて来て全然話を聞かないローエンは、私の顔を見つめながら目を細めて笑う。その顔を見て思わずドキッとしてしまったが、それを悟られないように、私は冷静を装う。
 彼をどかすのは諦めて、狭くなった机で依頼書のファイルをパラパラとめくり、彼向けの内容を探す。あぁ、これなんか良さそう。
 
「はい、これとかどう?」
「街道沿いで暴れてる大型ヒルチャールの討伐……ねぇ? へぇ、しっかり俺の好きなやつじゃん」

 私から依頼書を受け取って確認したローエンは、分かりやすく楽しそうな声を上げた。……私だったら絶対受けたくないこの依頼を、彼は鮮やかに達成して戻ってくるのだろう。
 依頼書から顔を上げたローエンは、ふいに私の方へと手を伸ばしてきた。何かと思って身構えたが、その手は私の頭上へと移動し私の頭をワシャワシャと撫ぜた。

「ん、偉い偉い。仕事のできる受付嬢で助かった」
「ちょ……やめてっ。あぁもう、ローエン! 私は仕事中なんだってば!」
「別にそんぐらい構わねぇだろ」

 ローエンの腕をペチペチ叩くと彼はようやく離してくれはしたが、私の頭の上はきっと鳥の巣になっていることだろう。……諦めて後で直すことにする。
「そうだ、この仕事は何時までやってるんだ?」
……へ?」
「いつまで受付嬢やってるのかって聞いてんだよ」
「あぁ、なるほど? んー、夕方ぐらいまで……かな?」
 頭の鳥の巣を少しでも直そうと、手櫛で髪を解かしながらそう答える。するとローエンは小さく「……へぇ」と呟いた。

「んじゃ、お前が受付嬢やってる間に依頼終わらせて来てやるから」
……やるから?」
「ご褒美、用意しとけよ?」
…………は⁈」

 そう告げた彼は頭の後ろで手を組み、混乱してる私を置いて城門へ向かって歩き出してしまった。ご……ご褒美って何⁈
「あーあ、お前が受付嬢やってなかったら討伐依頼にも付き合わせたんだけどなぁ」
「断固としてお断りします‼︎」


 ***


「ほらよ、しっかり夕方には間に合ったぜ?」
「はいはい、お疲れ様でした。――こちらは依頼に対する報酬です、どうぞ」
「おう。……で?」
………………ん?」
「ご 褒 美 は?」
 
 あぁ……ローエン、しっかり覚えてたかぁ。仕方ないなぁ……どう誤魔化そうか。……いつもので良いか?
……仕事終わるまで待ってくれたら一杯奢る……とか?」
「おっしゃ、んじゃ今から行こうぜ」
「ぅわっ、待って! 私の話聞いてた⁈」

 ローエンがいきなり私の腕を掴んで、受付台からひっぱり出そうとする。んな無茶なっ!
 私が暴れていると、彼は一旦腕を離してくれた。そしてローエンが「ん、」と呟き、自身の背後へ親指を向けて指し示す。
 あ、向こうからキャサリンが歩いて来ている。……あぁ、そういうこと?


 分かってはいたけれど、一杯で終わる訳はなんてなくて……やっぱりいつもの流れとなった。
 そして空が明るくなる頃まで、私はローエンに付き合わされることになりました。



『振り回す/振り回されるのも悪くはないけれど?』