紫よか
2026-06-05 07:39:23
2262文字
Public FE蒼炎暁
 

可惜夜に願う

セネリオ×ラティ 初夜の事後。一応R15

 ふたりは融け合っていた。秘部同士は深く絡み合い、まるでそう誂えたかのように。
 境目もなくどろどろになって、このままふたりではなくひとつになってしまうのではないか。そう錯覚するほど、歓喜と恐怖が押し寄せる。そしてそのどちらも甘美であった。

 もう朝が近い夜、セネリオは眠れないでいた。

 ベッドの周りにはふたりの脱いだ服や下着が無造作に捨ててあって、ほんの少しだけ彼の胸に羞恥心がよぎった。
 ふたりは先ほどまで、『初夜』というものを行っていた。裸になって、自らの心も体も明け渡す行為。どちらからともなく安眠に効く薬草茶の香りがする口づけをした後に、この人ならば良いと思ったのだろう、抱き合って、ベッドに押し倒し、押し倒された。

 上手くできたのかはわからない。けれど、セネリオに触れられた彼女──ラティがその度に甘い声を上げ必死にしがみついてくるのを見て、失敗してはいないのだなと、セネリオは一応は安心することはできた。

 その、彼の横で裸のまま(セネリオもそうなのだが)丸くなって眠っているラティを、セネリオは見る。彼女の額に前髪が汗ではり付いているのを見たセネリオは、そっと指でそこをかき分ける。すると、ふにゃふにゃと言葉にならないあえかな声を出し、ラティはそっとまぶたを開けた。眠気でぼんやりとした緑色の瞳がセネリオを捉える。

「あ……セネリオ……?」
……起こしてしまいましたか」
「ううん……なんか、ふわふわして起きちゃっただけ……

 寝起きで呂律が回っていないラティは、寝返りをうってセネリオの指に自身の指を絡ませた。普段は見せない幼さすら感じる甘えた姿を、彼は受け入れその手を握り返した。

「眠れないの? もういっぺん、する……?」
「いえ」
「じゃあ、どうしたの? ……嫌だった……?」
「それも、違います」

 セネリオはもう片方の手で自身のしなやかな黒い髪をかき上げ、そしてラティの瞳をじっと見つめた。相変わらずの温度のない目つきのようでいて、ほんの少しだけやわらかいその眼差しに、ラティはゆるりと微笑む。

……ラティ、怖くはありませんでしたか」

 ラティはその問いかけに、微笑んで答える。

「ううん。私、とっても幸せ……
……そうですか」
「セネリオだからなのよ? 他の人じゃダメなの。自分の体を明け渡すって、すごく怖いことだから……

 セネリオはその言葉に、少し沈黙を重ね、そして口を開いた。

「あなたがここにいるということが、まだ現実味がありません」
……ふふ。私、ここにいるわ。あなたが望む限り、あなたのそばにいるわ」
……それが、怖いのです」
「私が怖いってこと?」
…………はい。あなたは、どこまでも僕を赦すから」
「それは、あなたもそうでしょう。……ねえ、こっちに来て。あなたの顔が遠いと寂しいの」

 彼女が入って? と言いたげに布団を広げる。セネリオが存外素直にそこに横たわり、そしてその手の甲で頬を撫でてきたことに、ラティは心から幸せそうに目を細めた。

「もっとさわって、セネリオ」
「どうして、そこまで僕を受け入れるのですか」
……わかってなかったの? ひどい」
……
「冗談よ。……大好きだから。それ以外に無いわ」

 セネリオはその言葉にしばし逡巡した。言葉なんて、いつもは簡単に出てくるのに。互いに受け入れて、赦し合って、触れ合って。──セネリオも、幸せを感じていた。ラティを、いつの間にか愛していた。だからこそ、怖かったのだ。ずっと世界に拒絶されてきた自分が、こんなにまで幸福を与えられて、いつか罰を受けてしまうような気がして。
 言葉が出ない。すると、ラティはセネリオの胸元に顔をうずめた。

「ねえ、私たち……夜が明けても一緒よね」

 窓の外を見れば、淡く空が白んでいた。朝が近い。ああ、彼女も怖いのだ。セネリオは──ほんの少しだけ安堵し、ラティの背中を撫でた。

「一緒です。……一緒が……いいです。でも……まだ、夜が続けばいいのに」
「あら、あなたがそんなこと言うなんて」
「何ですか。……この夜が惜しいんです。ラティ、僕はあなたのことを……きっと、あなたが思っているよりずっと──」
……セネリオ」

 セネリオは息を飲み込む。彼女の背中を撫でていた手を止めて、今度は強く抱きしめる。そうすると、ラティもまたセネリオのことをぎゅっと抱きしめた。ラティの髪にセネリオの頬が触れる。この気持ちを言葉にする勇気がほしかった。ほしかったから、裸のまま抱き合った。

……あなたを愛しています。ラティ」

 すり、と少年のその短い言葉を聞いた少女が、彼の胸元に頬ずりをした。その仕草すら愛しくて──こんな気持ちは、セネリオは初めてであった。これがきっと、恋というものなのだろう。アイクへの愛とも違う色の、ずっと一緒にいたいと思う、もっと幼い、けれど強い気持ち。

……だいすき」

 震えた声でラティは呟く。その瞳には涙がにじんでいた。けして悲しいからではない。嬉しくて、優しい気持ちから来る涙。けれど、彼を失いたくない、ずっと一緒にいたいという切なる気持ちの涙。
 
 彼女のその震え声すら彼は抱きしめ、もうすぐ来る暁へ思いを馳せる。互いに言葉が見つからないけれど、ただ、重なった体の愛しい感触も手探りの言葉もふたりがふたりでいるからこそで、けしてひとつにならなくても幸福なのだと、ふたりは目を閉じた。