ゆべし
2026-06-04 23:32:42
3573文字
Public 銀色の夢
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いい女に酌を

gntk夢(今回はtksg多め)
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さくらさくらさくら 困ったことになっている。私は今、宇宙にいるからだ。手荒な真似をされた訳ではないけれど、強引に連れてこられた。目の前には派手めな着流しを着た男がひとり、片目には包帯を巻いている。好いた男の古き友人だ。
「別にちゃんと頼まれたらお酌くらいしますよ」
「アッチじゃ酒もおちおち呑めねェ」
「きっと、銀さん怒ってる」
「知るかァ……テメェで奪い返しに来いってんだ。なァ?」
「私に聞かないでください」
「つれねェなァ」
 高杉さんは世間を騒がすテロリストで、真選組の土方さん曰く史上最悪の亡霊だそう。天人との戦争で銀さんたちと共にこの国を守るため刀を振るった人。それが今や拗れに拗れて、闇に身を投じるとんでもない男だ。
 私はいつもの日常を過ごしていた。朝の仕込みからお店を手伝い、開店時刻ぴったりに暖簾を出す。お昼のピークを過ぎて、三時のおやつ前にひと息つこうと外の長椅子で新作菓子を食べようとしていた。そこに高杉さん本人が現れた。
 ちょっと面貸せって言われたけど、新作菓子の感想も考えなきゃいけないし、これからの時間はまたお店が忙しい。日を改めていただけますか?と丁寧にお願いしたけれど、問答無用で俵担ぎされて現在に至る。高杉さんのお部屋だと思うけど、和室で畳の良い匂いがする。
 要望はただひとつ、お酌をしてほしいというものだった。お膳に簡単なおつまみと徳利にお猪口が乗っている。おかわり用の徳利は冷水を張った水桶に数本並べられていた。本当にお酌をするだけで、高杉さんがお猪口を差し出したところに注ぐだけ。お仲間にも女性の方がいたはずなのに、わざわざ身を危険にさらしてまで私を呼びつけたのは……
「高杉さん」
「なんだァ」
「怪我、してるんですか?」
「どうしてそう思う?」
「消毒液の匂いがします。高杉さんは煙の匂いしかしないのに」
「鼻まで利くようになったか」
「ちょっと失礼しますね」
 着流しの襟をガバッと開けば、胴体が隠れるほどサラシでぐるぐる巻きにされていた。しかも、薄っすらと血が滲んでいる。まだ治ってもいない。ここまで知って、察した。私がこの船に招かれた本当に理由は、この怪我が原因で高杉さん本人が動いたわけじゃない。鬼兵隊のみなさんが苦肉の策で私のところへ来させたんだと判断できた。
 サラシを剥ぎ取れば、ロクに変えていないガーゼが赤黒く固まっていた。こんなにくっついてしまったら剥がす時も痛みを伴ってしまう。なんでこんな風になるまで放っておいたのか、ジロッと睨んでも高杉さんは飄々とした顔をする。
「このまま剥がしてもいいんですね」
「酷ェ女だなァ
「自分が放っておいたんでしょう? 自業自得です」
 笑ってる場合じゃないでしょうに。すみませーん!と声をかけるとすぐに鬼兵隊の方が来てくれた。準備してほしいものをアレコレお願いしている最中、残ってたお酒に手を付けようとしたからペシッと叩く。
 そのまま寝転んでもらい、ぬるま湯を用意してもらった水桶に新しい手ぬぐいを浸す。緩めに絞ってから、まずはこびり付いたガーゼをふやかすように押し当てる。抑えると新しい血が滲んでくるから、傷はまだまだ治っていない。傷口は縫ってあるのに、これじゃあ何の意味もない。
「どうして、あなたたちは自分を大切にしないんですか」
「どっかの糖尿と一緒にすんじゃねェ」
「同じです! こんな状態でお酒なんて飲んだら余計に血が出てしまうでしょう?」
「ッ、手荒いな」
「よかった、手持ちの軟膏があって。置いていきますから傷が塞がるまで一日一回必ずガーゼ交換してください」
「そんなもん、よく持ってたな」
 このくらいの量じゃ足りないくらいの怪我をすることだってある。それでも気休めにはなるから、持ち歩いているのだ。大切な人が護りたい何かを護って拵えた傷なら、なおさら癒してあげなければ。
「どなたかいますか?」
……はいッス」
「えっと、」
「来島また子って言います」
「はじめまして、さくらと申します。来島さんに手当の仕方を伝えてもいいですか?」
「余計なことすんな」
「高杉さん?」
……
「来島さん、ここへどうぞ」
「は、はい!」
 とても素直で純粋な方でした。何よりも高杉さんのことを心配してくれているのがヒシヒシ伝わってきた。こんなに素敵な方がそばにいるのに、どうして男という生き物は天邪鬼なんだろう。
 手当の伝授も終えて、やっと解放されとお猪口に手を掛けようとする高杉さんの手元を叩いたのは本日二度目の出来事。来嶋さんは驚いていたけど、部下であろうとダメなものはダメって制しなくちゃいけませんよ。
「この傷が癒えるまでは禁酒です。来島さん、絶対にお酌してはいけませんよ」
「は、はいッス! 晋助様、少しの間の心房ッスよ」
……
「お返事は?」
……アァ」
「素直じゃないですね」
 絶対痛かっただろうに。片付け終われば私の役目も終了のはず、今日は疲れたからお店に戻らず家に帰りたい。とはいえ、地球に降り立ってもらわなければ帰ることができない。高杉さんにお願いしたところで埒が明かないのは目に見えているから、来嶋さんに頼んでみようかと声をかける。
「来島さん、これで私の役目も終わったと思うので地球に帰らせてください」
「何言ってんだァ……この船の進路を決めるのは俺だぞ」
「じゃあ、高杉さん。地球に戻ってください」
「聞けねェな」
「じゃないと、そろそろ……っ!」
 その時、宇宙船が大きな音を立てて揺れた。良いほうに転べばは誰かが助けに来てくれたのか、悪いほうに転べば敵襲でもきたのかもしれない。来島さんは飛び出していった。他の部下の方が駆け込んでこないところを見ると、結構な大騒動になっているのかも。
「わざわざ辰馬んところの船、呼びつけるたァ……くくっ、銀時も相当焦ってるなァ」
「元はと言えば、高杉さんがこんなことしなきゃよかっただけのことでは?」
「つれねェこと言うんじゃねェよ……いい女に酌してもらいたかっただけだ」
「いるじゃないですか。あなたを心底心配してくれてるいい女(ひと)が」
 あの人も、高杉さんのことは言えないですけど、それでも繋ぎとめるための行動は起こしてくれていた。迷っても、悩んでも、手放してからじゃ遅い。それを分かっていてしないのは怠慢というものだ。
「晋助様! 準備整いました。行きましょう!」
「俺ァ、アイツを迎え撃つつもりでテメェを攫ってきた。逃げも隠れもしねェよ」
「その怪我じゃ、真剣勝負にもなりません。来島さん、連れて行ってください」
さくらさんって、本当に強いんスね」
……あなただって、同じでしょう?」
「! はいッス!」
「今度、地球に来るときはうちのお店にも遊びにきてくださいね」
 そう伝えて二人を送り出したものの、この場所にいて果たして助かるかどうかは別問題。高杉さんが置いていったってことはきっと大丈夫なんだろう。爆発音と戦闘による叫び声が響く宇宙船で捕らわれの身なんて、いつぞやか銀さんの彼女として攫われた時のことを思い出した。
「あの時はまだ、だったけど……
「随分と余裕そうじゃないの、お嬢さん」
……そう見えるなら、銀さんの目は節穴ね」
 つつましく重ねた手は震えていた。どうなるかもわからないこんな場所にひとりきりなんだから普通の反応でしょう。やっと来てくれた安心感に腰が抜けるのだって普通の話だもの。泣いていないだけ、いいほうだと思ってほしい。駆け寄ってきた銀さんに縋りついて、声もあげずにポロポロ泣いてしまう。
……ッ」
「悪い。平気なわけねーよな」
「そ、ですよ!」
「あ~~泣くなって。銀さん、その涙には勝てねーの」
「なら、動けないので運んでください」
「はいはい」
 抱き上げられたその腕から伝わる温かさに、やっぱり涙が溢れる。どうしたって、私はこの腕の中に帰りたいのだ。それから、お酌をするのもこの人がいいと、そう思ってしまった。

「銀さん! さくらさんは無事ですか?」
「いた。アイツ、一番奥の部屋に連れ込んでたわ」
「お姉、大丈夫アルか?」
「気ぃ抜けて、寝てるだけだ。おい、坂本。さっさと地球まで送ってけ」
「ほんに、人使いが荒いの~金時は」
「銀時ね。こんなとこから、さっさとおさらばしたいんだよ」
「陸奥~ 退散じゃ!」
「銀ちゃん、お姉の挿してる簪、見たことないネ」
「あのヤロー散々な目に合わせといて、挿し一本どころじゃ解決しねェっての」
「さくらさんの胸のとこ、何か挟まってませんか?」
……坂本、これ船代ってことで」
「別にいらんが……なんかイイもん拵えて届けるき。貰っとくか」