夜に触れる指先は最初はいつも壊れ物に触るように慎重な気配を纏う。まるで宥めるように優しく頭を撫で、ついで頬に触れる手はあやすようにやわやわと触れるものだから、ベッドに座る立香は思わず笑声を漏らした。
「……なんだよ」
「もう少し強くしても平気なのにな、って」
丈夫さと我慢強さには自信があるというのに、それを聞いてかえってジョンが深いため息をついてしまうのを見る。
どうしてだろうと小さく首を傾げていれば、背後から緩く抱き締めている人が笑うのを聞いた。位置的に顔は見れないが、きっと仕方がないなと言いたげなそんな声。
「リチャード、どうしたの?」
「なに、いつもは察しがいいのにこういった事はそうではないのだなと。ジョン、立香は言わないとわかってくれないようだぞ」
「兄上に言われずともわかっております」
眼前に座るジョンがむすりとした顔で背後のリチャードに言い返した後、頬に手を添えて目線を合わせられた。常であればここまで近くで見ることのない瞳は凪いでいるようで、けれども微かに熱を宿しているのを見る。
「立香。お前の丈夫さと我慢強さは確かに美徳だとは思っているが。こういった場ではそうではないのはわかるか?」
「そうなの?同じ男同士だから、気を遣わなくても大丈夫かなって思ったんだけど」
女の人ならまだしも同姓であるなら、そこまで傷つけないように慎重になることもないと思うのだが。もしかしてサーヴァントであるから気を遣ってくれているのだろうか。確かにサーヴァントの力は人よりずっと強いからそれならば納得が行く。
「ううん……もしかして俺が生身だから気を遣ってくれてるとか?それだと確かに俺が丈夫と言っても限度があるよね」
これだと思ったことを話すのにジョンは呆れたように眉間に皺を寄せ、背後ではリチャードが耐えきれないと言ったように笑声を漏らす。先ほどと違って肩に顔を伏せるものだから、ふわふわと髪が頬にあたりくすぐったい。
「兄上、お笑いにならないでください!」
「いや、すまんな。お前がここまで言ってるのに通じないとは思わなくてな」
背後から抱きしめていた腕を解いてリチャードがジョンの隣に並ぶ。さらりとジョンの頭を撫でた後、立香に向き合う瞳には穏やかに見えてジョンと同じ熱が静かに揺らめいている。ああやっぱり兄弟だなぁと見つめていれば、どこかいたずらっぽく微笑まれた。
「そう難しく考える必要はない。もっと単純な話だーーー好きな人には優しくしたい、だろ?」
額に触れるだけの口づけを落とされて、言われた言葉をゆっくり咀嚼する。優しくしたい。誰が誰に対して?ジョンが俺に対して。ジョンの好きな人とは?ーーー好きな人は。
遅まきながらに理解が追い付いて一気に顔が赤くなるのを感じた。気付いてみればあたりまえのことで、我ながら随分ずれた事を言っていたと理解して恥ずかしいにもほどがある。
「え、あ、そうなんだ……いや、そうだよね……」
「むしろ最初に思い付くことだろ……あたりまえの事がなんでいきなりわからなくなるんだ」
「ちなみに俺も一緒だぞ!」
「ああ、もう兄上は少し静かにしてください」
にこにこと笑うリチャードにぶっきらぼうに言い捨てて、向き直るジョンの顔も微かに赤く。仕切り直しだと頬に触れた手も熱くて、気恥ずかしいのに確かに嬉しい。
「先に兄上が言った通りだ。好きな人だから優しくしたい。丈夫さも我慢強さも確かに美徳だが、戦いのように痛みに耐えて欲しい訳でも、苦しみを我慢して欲しいわけでもないんだ」
「……うん」
「だから優しくさせて欲しい、わかるな?」
「わかった。ーーーふふ、でもそっか、好きな人か」
「立香?」
「好きな人に好きな人って言われるのいいなって。俺もジョンとリチャードが好きな人だ」
思ったままを口にしただけなのにジョンはリチャードの顔を見て、リチャードもジョンの顔を見る。何かしらのアイコンタクトが飛んで、けれども立香にはその意味はわからない。
「……えっと、嫌だった?」
不快にさせてしまったのなら嫌だなという言葉はジョンの噛みつくような口づけに拐われた。どこか中性的な美しさの見た目と反して、呼吸を食むそれは深いものだからあっという間に息が上がってしまう。
「は、ジョン、」
「くそっ、嫌なわけないだろ」
優しくさせて欲しいと言ったのにと合間に悪態をつかれて、もう一度と口付けられようとしたとき、隣から伸びてきた手に囚われる。視線の先にはリチャードのあまやかな笑み。
「俺も忘れないでくれよ?」
さらりと頬を撫でられ、そのまま唇を重ねられ。ジョンのときとはうって変わって性急さはないくせ、確かに体の熱を煽るような口づけをされるものだからたまらない。
「っ、リチャード…」
「ああ。愛らしいな、立香」
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