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イヌノカニ
2026-06-04 21:28:33
4189文字
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【創作BL】微執着攻め、依存など
終わり方好きだから、あまり変えずに小説にしようかなとも考えている。
叶わない恋をした主人公が選んだ選択。
眩しいほど綺麗で、ピュアで一途な恋。
駅前にある映画館に、大きなポスターが貼ってあった。
セーラー服を着た有名な女優と、今をときめくイケメン俳優が向かい合って涙を流している。
じゃぁ、なに。
俺のドロドロとした、この気持ちは一途じゃないってわけ。
「よう、受け。何見てんの」
振り向くと、幼馴染が彼女と一緒に向こうから歩いて来た。
「あっ、一緒に観に行こうって言ってたやつだ」
「恋愛映画じゃん。意外ー。受けも恋愛に興味出てきたのか?」
「私の友達、紹介しようか?」
「やめてくれ。俺はそういうの良いんだよ」
ーーだって、好きな人がいるから。
ずっと幼馴染の彼が好きだ。
彼の隣にいる彼女よりもずっと前から、幼稚園生の頃、近所の公園で泣いている俺に声を掛けてくれた時から、ずっと好きで、
……
ずっとこの気持ちを持て余している。
想いを告げようなんて考えていない。こうやって友達として側に居られるだけで充分だ。
「そうだ、受け。日曜日のことなんだけど
……
」
幼馴染は彼女に隠れてコソコソと声を掛けてくる。
「わりぃ、彼女とデートすることになって、また今度にしてくんない?」
また、今度。はないだろうな。
「あぁ、いいぞ」
「じゃ、俺とあそぼ〜」
後ろから肩を組まれた。振り返ると、いかにも不良ですといった風貌のーー攻めがいた。
「先輩」
「あの映画、観に行こうよ」
えぇ、嫌だ。この映画は観たくない。
不満です。と大袈裟に眉間に皺を寄せてみたのに、先輩はニヤリと笑ったままだった。
攻めは戸惑いながら俺と先輩を交互に見ている。
「あ、あの、先輩。受け、嫌がってます。離してあげてください」
「えぇ〜嫌なの?」
「まあ、暑いんで」
「嫌じゃないって〜」
暑いから嫌だって意味だったのに、どうやら通じないみたいだ。
「てかさ」
先輩の雰囲気が変わった。
「お前、関係なくね?」
幼馴染の顔が、みるみる真っ青になっていくので、俺は溜息を吐いた。先輩はこういう所がある。
「先輩、もう行きましょう。
……
じゃ二人とも、また後で」
彼の背中を押して、その場から足早に去る。振り返ると彼女だけが呑気にこちらへ手を振っていた。
「よし、チケット取れた。朝8時の回だから7時半に集合ね」
早。不良のくせに。
攻めは一つ上の先輩だ。
派手な髪色にジャラジャラとしたネックレス。いつも棒付きの飴を舐めていて、制服の中に着ているTシャツは好きなバンドのやつらしい。
かなりヤンチャで、先生も苦労しているとか。
どうして先輩が、絵に描いたように真面目な俺に絡んでくるのか分からない。
気付けば隣にいて、休み時間の度に俺の教室に現れる。
真面目過ぎて、融通が利かない俺は周りから嫌われていた。
そんな俺に唯一、話しかけてくれたのは幼馴染だけだった。誰とも仲良くなれて、友達も多い彼。自然と周りに人が集まってくる。そんな彼は俺とも仲良くしてくれた。
その幼馴染も彼女が出来てからは、ずっと彼女と過ごしてばかり。
彼とも話さなくなり、独りで過ごす時間が多かった俺は、突然現れた先輩に悪態を吐きながらも、遠ざけるなんてことはしなかった。
不思議と居心地の良さみたいなのを感じていたのかも知れない。
*
そして日曜日。
約束の時間ピッタリに行くと、先輩はもうすでにいた。
「じゃ行こうか」
わざとらしい笑顔で言うと、俺の腕をグイグイと引っ張っていく。
緩いTシャツにジャラジャラとしたアクセサリーを付けた先輩。チェック柄のシャツを第一ボタンまで閉めている俺。
真逆な俺たちは、これからあの映画を観に行く。
開始数分。
隣からイビキが聞こえてきた。肘で突っつきながら、何度も起こそうとするが全く起きる気配がしない。
苛立ちのあまり、二人で買ったポップコーンを自分の所まで持って行き、ひたすら食べ続けた。
早朝から、こんな映画を観させてきた本人は寝ているだと!?ありえない!
クライマックスになり、女優が「この想いを伝えられずにはいられなかった」と叫んでいる。
……
全く、くだらない。
くだらない、映画だ。
*
「ふぁ〜よく寝たー、あれ、ポップコーンは?」
「俺が全部食べました。ご馳走様です」
「あっそう」
気にも留めていないようで、彼はあっけらかんと言った。
「じゃ、次は喫茶店に行って映画の感想を話そ〜」
寝てただろうが。
俺が睨みつけても、こっちも気にしていないようでニコッと笑って歩き出す。
喫茶店と言っていたのに、連れて来られたのはフードコートだった。先輩はお洒落な飲み物を、勝手に二人分買ってきて一つを渡してくる。
何から何まで勝手な人だ。
「これ甘いです。甘すぎです。俺、そんなに甘いもの好きじゃないです」
「えぇ〜、俺は好きだから好きになってよ」
睨み付けても「可愛い」とか言って全然相手にしてくれない。実際、先輩が喧嘩したとか言う他校の人達に比べれば、俺の睨みなんて大した事ないんだろう。
「で、映画どうだった」
「どうって、先輩寝てたじゃないですか。退屈で、つまらない映画でしたよ」
「そうかな、俺は好きだけど」
寝てた癖に。俺の言いたい事が分かっているのかニヤリと笑った。
「最初と最後だけ観れば分かるよ。恋に落ちた二人が最後に想いを伝えあって、結ばれて終わるんでしょ。俺はハッピーエンドが好きだからね、これは好きな映画〜」
「この映画じゃなくても、大体のものに当てはまりませんか」
「そうだね、俺は映画が好きだよ。キラキラしてて、綺麗で、
……
現実ではあり得ない。そうでしょう。受けがよく分かってるよね、想いを告げて、両想いになる、なんてこと、映画の中でしかあり得ないって」
カッと頭に血が上るを感じた。この人は、全部分かってて言ってるんだ。俺の幼馴染への気持ちも、それが叶わないってことも。椅子を思いっきり引いて、勢いよく立ち上がった。
「これ、甘くて飲めないんで捨ててきます」
「ありゃ、怒らせちゃった?
……
でも」
「なんですか」
「帰りはしないんだね」
「
……
帰っても、良いんですか」
先輩は俺の手から、飲み物を奪い取った。
「ううん、この後カラオケ予約してるからダメ〜」
「また、勝手に
……
」
呆れて言いながら、俺は座り直す。先輩の前には甘ったるい飲み物が二つ並んでいた。
*
「なあ、受け。先輩と離れた方がいいんじゃないか」
朝、幼馴染に声をかけられた。彼女が横にいないなんて珍しい。
言われた事が理解できずに、首を傾げる。
「脅されてたり、なんか、パシリ?とかにされてんじゃないのか」
「そんなことあるわけないだろう」
どうやら先輩の風貌から誤解をしているらしい。
「でも、良くない噂もたくさん聞くし、お前にだって何か影響が及ぶかもしれないんだぞ」
「平気だよ。所詮は噂だ。先輩とずっと一緒にいるが、普通の人だよ」
確かに色々な噂があるが、喧嘩もヤバいことをしているとか、そんな姿は全く見たことがなかった。そもそも、彼も俺以外と話している所は見た事がない。
……
そうだ、俺たちはお互いに、お互いとしかあまり話さない。
「せめてさ、今日の昼一緒に食わね?いつも先輩と一緒だから寂しいんだよ。彼女も喜ぶと思う」
そんな訳ないだろう。こっちは彼女に二人きりにして欲しいって言われたんだぞ。
「何度も言っているが、俺が気まずいんだよ。二人で食べてくれ」
「でも!」
珍しく、幼馴染が声を荒げるから驚いた。あんなに騒がしかった教室も水を打ったように静まり返っている。
「なになにぃ〜ケンカー?」
教室の後ろから先輩が入ってきた。幼馴染はこの前の怯えた様子とは変わって、先輩の事を睨みつけている。
「先輩、違いますよ。というか、あと五分で朝礼始まります。早く教室に戻ってください」
「あの!今日、受けは俺たちと昼飯食べるんで、というか、他の休み時間も来ないでください。迷惑です」
「何言ってんだよ」
こんなことは初めてだった。
彼は、俺の言葉にも耳をかさずに、ずっと先輩を睨みつけている。
「う〜ん、俺はそれでも良いけど、受けはそれで良いの?」
先輩の言葉に思わず固まってしまった。
だって、俺、じゃなくて、先輩、でしょ。先輩が俺に会いにきて、勝手に遊ぶ約束とか作って、全部、先輩「が」でしょ。
まるで俺の考えを見透かしたように先輩はニヤリと笑った。
「「この想いを伝えられずにはいられなかった」あの映画のセリフ覚えてるよね」
頷くと先輩が続ける。
「「眩しいほど綺麗で、ピュアで一途な恋。」だっけ。俺たちの方がよっぽど一途なのにねぇ〜。
……
でも、俺たちの恋は叶わない」
言葉が胸に突き刺さって痛い。
「俺もさ、分かってんだよ。俺のこと好きになる奴なんていないって。あの日、手を差し伸べてくれた人がいるってだけでも、奇跡みたいな出来事でさ」
もしかして、先輩と初めて会った日のことを言っているだろうか。あの日、怪我をしていた先輩を保健室まで連れて行った。それは廊下で座り込まれていたら邪魔だからとか、風紀に良くないとか、そういった理由だったのに。
「欲しくて、でも、その子には好きな人がいた。やっぱり好かれる訳ないじゃん、こんな俺。だから、告白なんて絶対にしないよ。それより確実に選んでもらえる方法を見つけたんだ」
そうだ。俺はもう、すっかりこの人から離れられない。
ずっと独りでも平気だったのに。一日の中で、幼馴染と少し話せるだけで満足していたのに、俺はこの人と会って、二人で過ごす毎日を知ってしまった。
この人に手を差し伸べたのが、俺しかいないように、俺と一緒にいてくれる人なんて彼しかいない。
……
一緒にいてくれる人は、好きな人じゃない。この先輩だけだ。
幼馴染の方を向く。
「悪い、今日も、いや、これからもずっと、俺は先輩と過ごす」
この人はずるい。こんな風に自分に想いを伝えながら、決して気持ちは言わない。余計に離れられないじゃないか。
いつの間にか、彼の見えない糸でがんじがらめになっていた。
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