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燈 ともしび
2026-06-04 20:29:22
1233文字
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ぎゆさね【甘えて、甘やかしてよ】
キ学軸。お疲れ様と愛。
子どもの時は何をしても誉められるのに、大人になると褒められるどころか怒られることばかりだ。
元々要領が良いタイプではないので、そんな時にどうやって心の疲れを癒せばいいのか分からない。ひたすらに寝るかぼーっとするかのどちらかを選び、ただ時間が過ぎていくのを待つしかなかった。
今日も職場で散々どやされ、顔には出さなくても心ががすり減ってヒリヒリしていた。帰るために歩き出さなくてはいけないのに、その一歩がとてつもなく重い。
重い。歩きたくない。でも職場にも居たくない。
明日も仕事だから早く帰って寝よう。でも寝れなかったらどうしようか。頭をグルグルさせたままなんとか家に辿り着くと、自室前の外灯が点いていることに気付いた。
自分以外にこの部屋の鍵を持っているのは2人だけだ。姉と恋人。姉は遠方に嫁いでいるから平日のこんな日に来るとは思えない。来るとしても必ず連絡を先に寄越すから違うだろう。
ならば、今部屋に居るのは恋人だ。そう思ったら先ほどまでの足の重さが嘘のように駆け出していた。
「おかえり。手ェ洗ってうがいなァ」
鍵を急いで取り出しドアを開けると、ただいまを言う前に不死川がお玉を持って仁王立ちしていた。俺の部屋に置いてある黒いエプロンは不死川が持ち込んだものだが、これがまた似合っていて思わず見惚れてしまう。
「ほら、早く行ってこい」
鮭大根、煮てあるから。そう続けて言われたら恋人を見つめ続けることなんか出来なくて、大急ぎで手洗いとうがいを済ませて席に着いた。
ツヤツヤの炊き立てご飯に出汁の香りがそそる鮭大根、小松菜とシラスのおひたし、キャベツの浅漬けにわかめとネギたっぷりの味噌汁。
何度か不死川がご飯を作ってくれた中で、俺が気に入っているメニューが食卓に並んでいる。現金なもので職場を出るまでは食欲なんて無かったのに、今は胃がきゅるきゅると空腹を訴えてくるのが可笑しかった。
「たくさん作ってあるからたくさん食え」
最近恋人になった不死川は俺を甘やかすのがとても上手い。見た目に反して中身はとても優しく人思いなのだ。
何で分かったんだろう。俺がそろそろ限界だったこと。不死川の優しさは疲れ切った心にスコールのように降り注いでいく。
「不死川
……
」
「んー?」
「結婚してくれ」
「ぶっは! おまえ唐突過ぎイ」
不死川は冗談だと思ったのかゲラゲラ笑っていたが、俺は本気でプロポーズしていた。
まあ、まだとりあえずはこの美味しいご飯を食べてからでもいい。
愛情いっぱいのご飯を食べて、一緒に皿洗いをしたら風呂に誘ってみようか。そうして不死川を抱きしめて共に眠ろう。朝になったら俺が頑張ってご飯を作るから、美味しくなくても許して欲しい。
それで後は不動産屋までデートしよう。もう一度結婚を申し込むのは一緒に暮らす部屋を見つけてからにする。
だってもう不死川のいない生活なんて、俺には考えられないのだから。
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