三毛田
2026-06-04 20:22:47
1074文字
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78 【78/夢は結局夢だった】

78日目
酷く安堵した夜

……
 ああ。確かに彼に触れたはずなのに。
 しかし、実際には指先は空を切り、彼の姿は俺の目の前から消えた。
『丹恒!』
 名前を叫んで、彼は振り返って。こちらに手を伸ばそうとしていた。だけど、届かなくて。
 駄目だ。
 これ以上考えたら、もっと悪い方へと考えが進んでいってしまうだろう。
 シャワーを浴びて思考をすっきりさせようか。
 そう考え、浴室へ。
「ぇ」
「ぁ。借りている」
「うん。丹恒なら、いつでもいいよって言ったの、俺だし」
 浴槽には、丹恒がいた。
 まさかいるとは思っていなくて、言葉が出なかった。だから、ありきたりなことしか言えず。ありきたりっていうか、事実だけど。
 丹恒も丹恒で、驚いたような表情。ちょっとだけ気まずそう。
「すぐ出るから、安心しろ」
「別に急かさないから、ゆっくり入ってていいぞ」
 浴槽から出ようとする肩を掴み、水の中に押し戻す。
 何故水なのかって? 丹恒が入っている時は、ほぼ水だからさ。
「わかった」
 大人しく沈んでいくのを見守り、シャワーで全身を洗っていく。
「丹恒、隣失礼しても?」
「風邪を引くからやめろ。俺が出るから、温度を上げればいい」
 体を洗い流しながら問いかけると、出ていってしまう。
 あーあ。残念。
 一緒に入りたかったのに。
 浴槽の水をお湯にするためにスイッチをいじり、温まったのを確認してから入る。
「ふい~」
 多分、一システム時間は入っていただろう。途中でちゃんと水分補給もしたよ。
「さっぱりした~」
「そうか」
「うん。って丹恒!?」
「ゆっくりできたみたいだな」
 出てきたら、丹恒がそだーで読書をしていた。って、俺が出てくるまでずっと待ってたってこと!?
 俺の恋人が健気すぎて、キュンってしちゃう。
「水分補給はしたか?」
「もちろん!」
「そうか。それならいい」
 俺の頭からタオルを取って、タオルドライ。それから、雲吟の術で髪から水分を飛ばす。
 ドライヤーを取りに行くのが面倒になると、すぐにこうするのだ。
「不安な事でもあったのか」
「なんで?」
「一度寝てしまったら、滅多に朝まで起きないお前がこんな時間に起きて風呂に行ったんだ。何かあったと考えるだろう」
 そっと俺の手を自分の手で包みながら、じっと目を見つめて。
……丹恒には敵わないな。うん。そう。ちょっと嫌な夢を見たんだ」
 彼の手の下から抜け出し、今度は自分の手で包む。
「お前に手を伸ばしても、届かなくて。そこで目が覚めた。でも、夢は結局夢だ。だから……安心してるんだ」