MOMIG
2026-06-04 02:00:33
1974文字
Public
 

「おじさんたち、ハロウィンしらないの⁉️」

ハロウィンを知らない📱🚂と🐸チャンの話(未完成)
ANNIVERSARYあたりに投稿できたらいいな。

バッカス暦に10/31はないけれど、地球文化教育の一環で知識として「ハロウィン」の認知がある、というトンデモこじ付け設定です。

元ネタ:https://bsky.app/profile/delattm.bsky.social/post/3mlo4tf4vvk2c

社用車の後部座席。カエ=ラは不機嫌そうに窓に額を押し付けていた。

頬がガラスによってむにりと潰れ、尖った耳はやや立ち上がったまま、ピクリとも動かない。普段なら車に乗り込む前から、その小さな唇を動かして喋り続けるというのに、今日はぴったりと引き結んでいた。

今朝はこんな様子ではなかった。むしろ落ち着かないように体を揺らしては、ふわふわとした口調で〝いかに今日を楽しみにしているか〟を語っていたくらいだ。

もっとも、その理由をカエ=ラ自身が妙に回りくどく誤魔化していたこともあり、アタリ達はいまいち彼女の話を理解していなかった。
「今日はトクベツ」「みんなでやるの」「でもナイショ」「たのしみにしててね」など、要領を得ない言葉ばかりがぽんぽんと出てくるものだから、二人はいつもの如く聞き流していた。「へえ」「ふーん」「あっそ」「知らね」──出力されたのは、その四つの単語だけだ。

朝っぱらから浴びせられる甲高い女児の声は、精神衛生上悪影響を及ぼす。少なくとも二人にとってはそうだった。実際、途中からトーマスの返事は雑になっていたし、アタリに至っては露骨に無視を決めていた。
気のない壮年男性二人の相槌に、いつもなら「ちゃんときいてよ!」と怒り出すカエ=ラだったが、今朝はそれもなく、終始ニコニコと笑顔を浮かべていた。

だから二人は、『なんか機嫌が良いな』とは思いつつも、それ以上は気に留めなかった。クライアントが上機嫌。それは護衛業務において、極めて好ましい状態である。

──そんな彼女が、今では窓に顔を押し潰して不機嫌を煮詰めていた。

原因は、だいたい五分前に遡る。






「ア? なに言ってんだよ」


いつも通りの迎えの時間。エントランスまでカエ=ラを迎えに行くのは、アタリの担当だった。
子どもの相手は心底嫌だが、これも引いては相棒であるトーマスのためだ。これから決して短くはない送迎を対応するにあたり、重度のニコチン依存者である相棒を想っての、彼なりの優しさだった。

とは言え、動機は優しさでも、態度は最悪そのものだ。煩くて理不尽で言葉が通じない、厄介な生命体がうじゃうじゃといる空間に、自ら足を運ぶことのなんと恐ろしいことか。
幼稚園のエントランス佇むアタリの周りには、ただならぬオーラが漂っている。

そんな彼の拒絶のオーラを意に介さないのが、カエ=ラであった。そして今日も彼女は、そのあどけない手脚を精一杯動かして、アタリに駆け寄る。


「え……?」


少女の顔から笑顔が消え、感情が抜け落ちた。

カエ=ラの横に立つ幼稚園教諭は、笑顔を貼り付けたまま動かない。〝よく出来た大人の仕草〟。見慣れた反応だった。
他の保護者達がしているような雑談は、一切交わさない。弾むような話題も、和を育むための社交性も、アタリは持ち合わせていなかった。愛嬌はオプション料金だが、あいにくこの専属契約に含まれてはいない。

アタリはカエ=ラへチラリと目線を向け、異常はないことを確認すると、さっと踵を返して社用車に向かった。


「先生、またねっ」


幼稚園教諭が何かを言いかけるより先に、カエ=ラが別れの挨拶を放る。そのまま小走りで、長身のサイボーグの背中を追った。これもまた、いつもの光景だ。

園の門から少し離れた位置には、社用車にもたれ掛かるようにしてトーマスが立っていた。吸気ポートには火の点いた煙草。アタリ達に気付くと、煙を短く吐き出し、携帯灰皿へ押し込むように火を消す。


「おかえり、お嬢」
「うん」


そこでトーマスは『ん?』と片眉を上げつつ、後部座席のドアを開けた。カエ=ラは慣れた様子で飛び込むように車内へ乗り込み、アタリは無言のまま助手席へ座る。トーマスは後部座席にカエ=ラが収まったことを確認してからドアを閉め、自分も運転席へ滑り込んだ。

バックミラー越しに後ろを確認する。いつもなら自動再生されるお喋りが、今は沈黙を貫いていた。その出力源は、眉間へぐっと力を寄せたまま、車窓の外を睨んでいる。その視線を追えば、子どもを迎えに来た他の保護者達の姿。


「(ンだよ。ホームシックかァ?)」


運転席のトーマスがエンジンを掛ける。使い込まれた社用車は低く唸り、細かな振動を車内へ広げた。


「で?」


緩やかな発進とともに、トーマスが話を切り出す。相変わらずカエ=ラは黙りを決め込んでいて、顔が潰れるんじゃないかと思うほど、ぴったりと窓にくっ付いていた。「私は今とっても不機嫌です」と言葉ナシに全身で主張していた。


「なんで不機嫌なの。ホームシック?」
「知らね。腹壊してンじゃね」

「おじさんのせいでしょーっ!」


社用車の後部座席で、カエ=ラが大きく頬を膨らませていた。