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ne🌟
2026-06-03 08:21:24
2315文字
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🥷🥚
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ここだけのはなし
モブから見た高諸
高坂陣内左衛門様は格好いい。
世襲制の忍軍で唯一特例で狼隊への入隊を許可されたその人。もちろんそれは月輪仕込みの武術と狼隊の火薬技術の両方を習得しているという、実力があるからこそ許されている。
そしてその実力に驕ることなく、勤勉で休日の鍛錬も欠かされたことはない。
そして何より、女だけではなく男ですら瞳を奪われる、端正な顔立ち。それを鼻にかけることなく仲間には分け隔てなく接する気立の良さ。
そう、高坂様とは非の打ち所がない人物である。
私はそんな高坂様に憧れを抱いている者の一人。今日も今日とて早起きして、朝の鍛錬に現れるであろうその人をひっそりと待っているのだ。
忍軍に入隊してはや数年。高坂様が朝の鍛錬に来る条件だって完璧に覚えている。
一つ、高坂様に任務がなく長屋にいること。これはまぁ当たり前の話である。
二つ、前日夜から晴れていること。理由はわからないけど、高坂様は道場の朝稽古には来ない
そして三つ、これがなんだかんだ一番重要なのだが──、
「高坂さん、構えてください!今日もよろしくお願いします!」
……
三つ、諸泉尊奈門がいる時、だ。
朝の静けさをぶち壊す、声の出どころを睨みつける。情緒も風情も知らなさそうなちんちくりんが、高坂様に木刀を構えている。私はそれを見て隠すことなく舌打ちした。
諸泉尊奈門、狼隊の下っ端。
高坂様と同室ってだけでも羨ましいのに、あいつはそれを理由にあの方の隣を独占している。そして極め付けに、諸泉の全ての指導を高坂様が担っているということ。
私が何度山本小頭にお願いしても、許可が降りなかったのに、あいつは望まずいとも簡単に。
いや、言いたいことはわかる。
諸泉はちょっとどころじゃないくらい無鉄砲で何しでかすかわからないところがある。中途半端なやつに面倒を見させたら、二人揃ってお陀仏の可能性を危惧しての采配なんだろう。
だから、だからってさぁ。俺だって高坂様に指南してもらいてえよ!
「あちゃー!やっぱり高坂さんは強いですね!」
「ふん、」
カランと音を立てて諸泉が持ってた木刀が落ちた。その音にハッと意識を二人に向けると、ニコニコと嬉しそうな諸泉と、手拭いで汗を拭っている高坂様が見てた。
しまった。諸泉を妬むのに夢中で、貴重な朝の鍛錬を見逃してしまった。
諸泉と高坂様は何やら二人で話し終えたあと、高坂様だけどこかへ行ってしまわれた。くそ、手が空いたら今日こそ一本、お願いしようと思ったのに。
「お前はいいよなぁ。高坂様に無条件で剣術の手合わせさせてもらえて」
木刀を片付けにきた諸泉にそのままのノリで話しかければ、こいつはきょとんと驚いた顔を見せた。
「え?無条件じゃないですよ」
「は?どんな条件で指南してもらってんだよ。教えろ」
しめた。条件がどんなものかは知らないが、それさえ叶えられたら、俺も高坂様に指南してもらえるかもしれない。そう思って諸泉に詰め寄ろうとすれば、サッと躱され手の届かないくらい距離を取られた。
「内緒です!高坂さんに聞いてください!」
それできれば苦労はしないんだ、と出かかった文句はあいつの笑顔に毒を抜かれてしまい、終ぞ口から出ることはなかった。
諸泉は結局、条件とやらを最後まで教えてくれなかった。それどころか朝稽古が終わったあと、当の本人はいつのまにか姿を消していた。
「高坂さん、お待たせしました」
「遅い、早くこっちに来い」
鍛錬場からも長屋からも離れた、静かな森の奥。
少し開けた静かな場所は、高坂さんのお気に入りだった。この人がここを教えているのは、どうやら私だけらしい。
鍛錬で使った木刀を片付けて一口サイズの小さなおにぎりを二人分、水と一緒に持ってくると、高坂は不機嫌そうな声で私を呼んだ。
私の姿を捉えるなり、大きな木の根元に腰をかけたまま、近くの地面をペシペシと叩いている。
あの場所に早く座れということらしい。
促されるままその場所に腰を下ろすと、すぐに膝が重くなる。見なくてもわかる。頭巾も口布も外した高坂さんが、私の足を枕に寝そべっている。
「せっかくおにぎり作ってきたのに」
「それは起きたら食べる。が、その前に二度寝だ。朝餉の時間に起こせ」
「はいはい」
おにぎりがお預けとなって手持ち無沙汰な私は、高坂さんの輪郭をなぞるように撫で始めた。するりするりと怒られないのをいいことに肌を撫でていると、穏やかな寝息が聞こえてくる。顔を覗き込めば、高坂さんはすっかりあどけない顔をして寝入っていた。
こうして、自分と二人きりになると、無防備な姿を見せてくれる高坂さんに胸がじんわりと温かくなる。
一部の人は、高坂さんが完璧で凄い人だと勘違いしている。だけど私に言わせれば、そう見えるように振る舞っているこの人の上面しか見えてない証拠だ。
本当の高坂さんはいじっぱりで我儘で臆病で、寝汚くてそして、何より甘えん坊さんだ。
鍛錬をつけてもらうための約束事にしたってそう。
まず初めに、高坂さんを起こすことから始まり、次に、高坂さん以外の人に鍛錬を強請らないことと、それから鍛錬後は膝枕をして二度寝に付き合うこと、なんだもん。
高坂さんに憧れを抱いている人が聞いたら、卒倒しちゃうかもしれない。
それくらい、私と二人きりの時だけ見せてくれる高坂さんの姿は別物だった。
でもその我儘が、私は嬉しくてたまらない。
だってこの人の、本当は可愛い部分を知っているのは、私だけだから。
まぁそういうことで、これは誰にも教えたくない、ここだけの話だ。
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