氷酒
2026-06-02 20:30:53
947文字
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『掌編 本日のリクエスト』

まりみや組にて。

 こてん。
 そんな音がして、隣に座っていた美夜の首が傾く。
 かと思えば、こちら側にかかってくる体重が増した。
「おーい? 重いんだけど?」
 無駄だと知りつつ一応、と真倫は声を掛けるが、返事の代わりに聞こえてきたのは安らかな寝息。視線をやるまでもない、完全に寝落ちしていた。
 何度かゆすってみるも、まるで起きる様子は無い。先程から隣が随分あたたかいなぁと思っていたが、予感は的中したようだ。
「ったく、恋愛映画の告白シーンで寝るなよ……
 苦笑しつつ、リモコンで映画を停止する。横で寝ている美夜が見たいと……いや、仕事の関係で見なければならないからと流していたものだ。彼が見ていなければ意味がない。
 さらに言ってしまえば、今こうして美夜が寝落ちている理由も、ここ最近の取材疲れのせい。つまり仕事であるので、無理矢理起こすのもまた可哀想なのだ。
 連日の随分と早くから外出し、遅くに帰る日を繰り返していた。昨日やっとひと段落ついたんだから休めと言ったのだが、見ると言って聞かなかった。
「まぁ、理由は大方予想がついてるんだけど」
 手を伸ばし、近くにかけてあった膝掛けを引き寄せ、かけてやる。流石に大きさは足らないが、何もないよりはマシだろう。
「ううん……
 肩に寄りかかっていた美夜がもにゃもにゃと何かを呟き人の腕に絡んでくる。どうやら真倫の腕を枕に、本格的寝入るつもりらしい。
「構わねぇけど、夕飯の支度までに起きろよ?」
「オムライス……いやカレー……
 半ば独り言のつもりだった言葉に、予期せぬ返事が返ってきた。
「寝言で夕飯のリクエストすんなよ」
 思わず吹き出してしまう。今の今まで恋愛映画を見ていたはずなのにすでに彼の中は食欲でいっぱいの様子。仮にも成人男性がそんな調子でどうなんだとは思わなくも無いが、微笑ましい気持ちが混ざってしまうから仕方がない。これではまた友人に親バカと笑われてしまう。
「いっそ卵焼きも用意して、いっそ両方やってやるかね」
 きっと寝言のことなんて知らない美夜は、見た瞬間夢が当たったと大はしゃぎをするだろうから。
 目に浮かぶような光景にやれやれと苦笑しつつ、真倫はソファに座り直す。そして冷蔵庫の中身を思い出すことにするのだった。