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PRØV!DENCƎ
2026-06-01 20:02:27
1435文字
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#03 『見届けてほしい、もっと傍にいたい』
#03 『見届けてほしい、もっと傍にいたい』
シュガー / PRØV!DENCƎ
https://nana-music.com/sounds/06e56996
† R-15程度の残酷描写を含みます
† 暴力 / 流血 / 加虐的な描写を含みます
閲覧の際はご注意ください。
まだ幼い子供が、夕暮れ空に泣いていた。
きらきら、地面の砂に紛れて、甘い香りの宝石が光る。
都会の街で売っている、薄く延ばした砂糖菓子。手のひらから零れたそれを、見つめて泣いていた子供は、やがてゆっくりと靴底を持ち上げた。
ぱりん、と澄んだ音が鳴った気がした。目に滲みる茜色が、小さな破片を踏み躙る影を、怪物みたいに膨らませていく。
その光景を遠くから眺めて、わたしみたい、と思った。
思ってから、考える。どちらが、だろう。
踏みつけられて、砕け散った飴の欠片。執拗に足を動かす、真っ黒な影。
どちらが、私に似ているのだろう。どちらに、私はなりたいのだろう。
私、わたし。わたしは、なに?
声には出さずに呟いた音が、思考を巡らそうとするたび、端から磨り潰されていく。
ざくざくと、砂粒の音が鼓膜に突き刺さる。粉々に割れた、飴の音は聞こえない。
──あの子のせいだ。
埋もれた答えを見つけたみたいに、そう思った。
どくん、どくん。心臓が勝手に重たくなって、飲み込んだ唾液が苦みを帯びる。
あの子のせいだ、全部。わたしが無いのは。わからないのは。空っぽなのは。
ばらばらで、ぐちゃぐちゃで、どこにもいない。なのに、あの子はそうじゃない。
ズルい、ズルい、ズルい! あの子も、砕けてしまえばいい!
わあっと、獣が飛びかかるみたいに、胸の奥底で叫んだ声がした。
そうだね、と私は頷いて──ふと顔を上げると、指先を赤く染めたヴェラが、すぐ隣に立っていた。
ずっと、わからなかった。
「私」のことが、わからなかった。
覚えているか、とヴェラに訊かれる。子供を見ていたこと、首を絞めたこと、四肢を切り落としたこと。困ったふりで眉を下げて、首を横に振る。
知っている、けど、覚えては、いない。正しく言葉にするならば、きっとそういう感覚。
記憶とは呼べない、私のものじゃない。割れた鏡に映る歪んだ像のような、形の崩れたなにかが、過去と未来に連なっている。粉々に砕けた破片のそれぞれが、砂粒越しに互いを見ている。
そう思考を浮かべたことさえ、いつの間にか手の届かない場所にあって──だから、私にとっての本当は、今、この瞬間だけにあった。
確かめるみたいに、背中に触れる。すき、と呟いてみる。
唇から零れた二音が、どこかに消えてしまいそうで、それがとても怖かった。
息を殺して眠るヴェラの、心臓に一番近いところに、顔を寄せて凭れかかる。
微かな心音を聞きながら、だいすき、と繰り返した。ヴェラ。だいすき。夜に溶けてしまわないよう、何度も何度も呟けば、じわりと眦に熱が灯った。
「だいすき、だよ」
頬を濡らした温い雫が、ヴェラの首筋に滴り落ちる。拭い取るように唇を寄せれば、仄かに甘い錯覚が舌の上を過った。きらきら、瞼の裏で光っている、磨り潰された飴細工。
泣きたくなるほど、ぎゅうっと胸を締めつけられる今があること。
そういう甘くて痛い気持ちを、愛と呼ぶのだということ。
教えてくれたのは、ヴェラだった。だから、受け止めてほしかった。
涙が溢れ続ける片瞳の奥が、焼けるような痛みを帯びている。
痛いのも、怖いのも、全部全部──ヴェラが、傍にいてくれる証拠だ。
砕け散った破片を掻き集めて、どろどろに溶かし尽くすみたいに、欠片の私はそっと祈る。
──どうか、この今が、終わりませんように。
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