ortensia
2026-06-01 19:47:19
4075文字
Public その他てて
 

現パロで納が写のところで心霊写真の仕分けバイトをする納写

心霊写真仕分けバイト(ホラゲ)

 きっかけは、遺影が何かの不具合で差し替えることになったその場に、たまたま居合わせてしまったからだ。自分の担当した棺桶の葬儀は既に恙なく終え、同じ葬儀場での別の葬儀での不測の事態だ。
 遺影の差し替えは間に合ったが、手違いで使えなくなった写真の扱いを頼まれた。何か特別なことをする必要があるのか、まあ遺影だから普通に破棄するのではなく、手順があるのかもしれない、遺影は担当ではないので、そう思った。
「これは……。」
 なんというか、俗に言う心霊写真というものではないだろうか。つまり言ってしまえば、撮影の際か撮影機自体に問題があって、ブレたりボヤけたりして、綺麗に写らなかった写真、ということだが。
 遺影に不具合が生じることは、なんでも稀に起こるらしい。それが遺影で起こるものだから、より不思議に、不気味に思うのだろう。扱いに困った、遺影として使われなかったものが、何枚かあるのだという。
 それらを持って、ある写真家を訪ねるように言われた。こういった、いわゆる心霊写真を、引き取ってくれるからと。
 自分は人と社交的に関わることは苦手だ。しかし馴染みの葬儀場に頼まれて、引き受けた。
「やぁ、いらっしゃい。」
……どうも。」
 出迎えたのは、美しい男性だった。写真家というには、本人が写真映えしすぎる。
 写真家のもとというのは、大きなお屋敷だった。まさか写真家の彼の自宅なのだろうか。
「貴方が、写真家?」
「そうだねえ、色々やったけど、行き着いたのがってとこかな。」
 頼み事をするのはこちらの方なので、中に入るように促されてしまえば、例え重さのない写真の束でも、指定の場所まで運び入れなければならないだろう。こういうところが社交の苦手なところだ。
 しかもその後、まあ掛けてよ、テーブルを前に椅子を勧められた。
「いえ、心れ……引き取ってほしい写真を受け取っていただければ、僕は……。」
「いいから。」
 気品によるものか、美人によるものか、兎に角迫力に押されて引き返せなかった。
 不思議な人だ。若そうにも見えるし、視線は老獪にこちらを見てくる。見られるのは苦手だ。例えそれがレンズ越しでも。
 それにしても、この室内、少し冷えている。
「出して、写真。」
 預かって来た写真を、机の上に並べた。
 影が掛かったような遺影、染みが滲んだような遺影、姿が白く消えたような遺影。どれも心霊写真と言われるにはありがちだし、何か機材などの不具合でも充分起こり得るだろう。しかし遺影としては当然使えない。
「ふうん。じゃあ、貰おうか。」
 それをためつすがめつした写真家は、それを引き取った。
 じゃあこれで、とお暇できるかと思えば、あっさりと阻まれた。
「丁度いいから、他の写真の仕分け、手伝ってほしいな。」
「えっと、僕……。」
「ね?お願い。」
……はい。」
 中性的で柔らかな髪と輪郭、それに反して低く体に染み渡るようなしっとりとした声、品のある物腰と仕草、何か良い香りまでするし、幻想的で妖しい眼差し、彼の瞳が写真のレンズのようだった。引き込まれる。黙って従ってしまう。自分の社交性のなさだけはない気がする。
 背筋の伸びた、少し華奢な背中が振り返って、写真を机に載せた。うわ、十枚以上ある、さっさと仕分けてしまいたいが、心霊写真の仕分けなんて普通に未経験だ。
 不安のままに美しい顔を見上げてみても、美しく微笑み返されるだけだ。逆らえない。纏った空気は気品のある香りなだけでなく、逆らう空気すら消し去る。
「因みに。」
「えっ?」
「間違えたら、間違えた君に霊障が被る事があるらしい。」
「えっ。」
「もし君が酷い目に、ある日行方不明になったり凄惨な姿で発見されたり、されなかったりしたら、私も悲しいからね。私を悲しませないでくれるよね?」
「え、あ、はい……。」
 どうしよう。妖艶な眼差しが見詰めてくる。微笑んでいるが有無を言わせない。ぼうっと見惚れてしまいそうにはなるが、それどころじゃない。仕方ない、大人しく仕分けを始めるしかない。どうすることもできない。
 一枚目、なんの変哲もない、どこかお屋敷と門、そしてその前に立つ幼い少女。写真は古いもののようだ。しかし白いワンピースを着て微笑む少女の笑顔は色褪せていない。これは心霊写真ではない。
 次は、風景写真。山の。これはヒマラヤか何かだろうか。小さく登山客のような人影も写っている。しかし、随分身軽だし、手にナイフのようなものを持っている。登山というか、狩猟だろうか。違和感はあるが、心霊現象は何もないように見える。
 次、人物の彫像と共に、作者なのか、女性が寄り添っている。しかし、その足を横切るように白く色が飛んでいる。縁起が悪い。何か足が不自由になるかのような。これは心霊写真だろうか。仕分けてみる。
 次も芸術家のようだ。今度は絵画で、背景が抽象的だから写真ではないと思うが、とても写実的に描かれている。しかしその作者本人の顔が黒ずんで、目や口が真っ黒になっている。というかまるで絵と作者が入れ替わったようだ。心霊写真として仕分ける。
 今度はどこか豪邸の部屋のような場所だった。この写真家の邸も煌びやかだが、写真の中の場所はもっと宮殿のようだった。そこに髪の長い一人の女性が、たおやかに微笑んでいる。しかし壁に掛けられた鏡にも、同じ顔がこちらを見ている。そちらの彼女は髪が短く、首から血を垂れ流しているように見える。これは心霊写真だろう。
 次は、白黒の縞模様の服を着た男が、何かの機器を弄っていた。何をしているのかはよく分からないが、特に異常は見られない。いや正直言うと男性は首に枷のようなものが嵌っていたし、片目が爛れていたが、彼が行っている何かの実験の一環なのかもしれないし。奇妙だが、心霊現象ではないだろう。
 また何かの実験室、あるいは研究所のようなところだ。飼育ケースのようなものが幾つもあり、中では蜥蜴のようなものが入っている。それらに囲まれた男性の肌が、鱗のようなものにまみれている。これは心霊写真に仕分けてみるか。
 今度は人混みだ。人々が行き交う湖、観光地だろうか。そこの一人、黄色のフードを被った後ろ姿の人物、足が多いように見える。心霊写真に仕分ける。
 また風景写真だろうか。森林を写したもの。そこに、ぼやけているが、口が裂けて耳の長い女性の影が、大きく重なって見える。心霊写真に仕分ける。
 これは何かスポーツをしている人だろうか。なんのスポーツなのか分からないが、ユニフォームのような格好で、スポーツの道具のようなものと、ボールのようなものがある。スポーツマンらしき男性は険しい顔だ。スポーツマンシップのあるストイックな性格なのだろうか。人の性格などは、面倒だしあまり興味もないけれど、心霊現象はないように見える。
 今度は女性、おもちゃに囲まれて、子供部屋のようなところに居る。特に不自然な点は見られない。普通の写真に仕分ける。
 次、制服を着た男性一人と犬一匹、黄色の落ち葉の中を歩いている写真だ。これは普通の写真だろう。
 次は、街並みだ。しかし写真全体に靄が掛かっていて、奥に判然としない人影が見える。この靄のような霧のようなものは、自然とは言えない。自然の霧の景色はこんなふうに写真に映らない。不自然な写真風景。これは心霊写真への仕分けでいいだろう。
 これも森林の写真だ。一人の人影が見える。軽装でナイフを持った、ちょっと待って、この人影、さっきも見た。急いで普通の写真に仕分けた先程の山脈の写真を探す。見付けて取り出すと、仕分けた時は確かに居た筈の人影が消えていた。山の写真を心霊写真に仕分け直す。そして今仕分けている森の写真も、心霊写真に仕分ける。
 次、どうやら家族写真のようだ。父親と母親と一人娘。おさげの娘と父親は、お揃いのマフラーをしていた。これも心霊写真では、いや待って、娘の目から、涙が。いやそんなはずない。普通の写真の方へ仕分けようとして、やっぱり心霊写真の方に移した。
 今度は、麻袋を被って遊んでいる子供だろうか。中から外は見えるのだろうかと疑問に思いながらも、普通の写真として仕分けた。
 終わった。そう思ったが、こちらの作業を微笑んで見ていた写真家の彼が、最後に仕分けた一枚を、白く美しい指で攫って、心霊写真側に置き直した。
「危なかったね。でも、お疲れ様。」
 写真家は妖艶に微笑むだけだが、こちらが普通の写真だと思ったそれは、どうやら心霊写真らしい。
 いったい何処が心霊写真なのかは分からなかったが、そんな恐ろしいこと聞く気になれない。
「はい。これご褒美。」
 仕分けた写真を整理しながら片付けた彼は、お茶を出してくれた。
 温かなそれを礼を言いながら受け取って、喉に落ちて行く温度に、いつの間にか自分の体が冷えていたことに気付いた。
 ほっと気持ちと体を落ち着けているところを、微笑みに見られていて、なんだか恥ずかしかった。俯きながらも、温かくて美味しいお茶を、ありがたくいただく。
「あの……ありがとう」
 手持ち無沙汰になって、改めて飲み干したお茶の礼を言う。
「ふふ。こちらこそ、助かったよ。」
 そう言うと、妖艶な笑みがそっと近付いてくる。良い匂いが、お茶のものか彼のものか分からなくなる。お茶をいただくために下ろしていたマスクを、急いで上げる。
「また、手伝ってくれる?」
「え?」
 慌てて顔を見遣ると、思わずうっとりとしてしまうような笑みに迎えられる。
「ね?」
 真っ白な手に頰を包まれる。マスクが細い指先に弄ばれて、もう駄目だった。
……はい。」
 断れるわけがなかった。
「そう。嬉しい。」
 ああ、この笑顔のために頷いて良かったのかもしれない。面倒で気味の悪い心霊写真の仕分けも。
 苦手な筈の新たな社交関係に胸を高鳴らせると同時に、背筋は寒気が走った。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。