バラ肉
2026-06-01 14:53:21
2901文字
Public
 

So CUTE!!(ギヤヘイ)

なぜかいつも二人きりになると自分を椅子代わりにするヘイルマンを疑問に思ったギヤマスターは・・・

お互い意識していない両片思いです。
甘酸っぱいギヤヘイが好き・・・同志よ増えて・・・

※ヘイルマンが氷の星で孤独に生まれ育った設定になっています。
詳細は➡【ヘイルマン設定(捏造)】 https://privatter.me/page/69bb5a86bbd96


自宅というプライベート空間の中。
先日、事前調査として地球に向かったマリキータマンから土産として貰った箱型のテレビをもらったギヤマスターは、折角だからと、これまた土産で買ったビデオカメラで撮影した直近の試合映像を見ていた。
客観的に見る戦闘風景は中々勉強になり、己の短所や荒削りな部分かよく分かる。
あそこはこうすれば良かった。ここはもっと鋭利に攻められる……改善点を忘れないよう、液晶に向かう視線はいつになく真剣だった。

ただ、真面目に見れば見るほど、視界の端に入る煌めきが気になった。
ツンツンと尖ったそれは、つららとよく似ているようで全くの別物。

「おい」
「んー……

声をかけると、気のない返事が返ってきた。しかし、そこから続く言葉はない。勿論、動く気配も同じく無い。

「ギシュゥウ」

予想通りと言えば予想通りの態度だ。

『ヘイルマンは気ままで、自由で、なんだか猫のようだな』

以前、自分たちのリーダーが彼を称した言葉が不意に頭に蘇る。では、動く尖った後頭部は尻尾のつもりか――我ながら幼い例えに、ギヤマスターはバレない程度に肩を竦めた。
実際、さも当然と言った感じでこちらに背中を預ける相手は、見るからにリラックスモードだ。ペラペラ、人が必死に収集したプロレス雑誌を眺めながら、たまに「へえ」と感心するような声が上がる。その後ブツブツ呟くのを聞くに、何か戦術の参考になる情報でも見つけたのかもしれない。
それはそれで良いのだが、黙って読書するのにわざわざ自分の膝の上で見る必要はあるのか。
今更な疑問が沸く。

ヘイルマンは二人になった時、決まってギヤマスターを椅子代わりにして座る。
特に何かを断るわけでもなく、当然のような顔をして、ギヤマスターの膝と膝の間——あるいは胡座を組んだその上に、するりと収まる。まるで此処は自分の特等席とばかりに。
だから初めてやられた際は、ギヤマスターは驚きに何も言えなかった。
言えなかった、というより、正確には――言葉が出てこなかった。
普段はうるさい男が、いきなり黙って密着してくる。
その理由が、その行為が、初心な男の胸のギヤを回す。故に、気合で止めるのに必死で。

結局その時に聞けなかったまま、ここに来た。
しかし今日は、無性に気になる。

……なあ」

ギヤマスターは再度口を開いた。今度は先ほどよりも語尾が強い。
勘のいいヘイルマンがその変化に気付かないわけがない。

……なんだよ」

振り返りもせずに答えた声には、明らかな訝しさが滲んでいた。いつもなら、この不機嫌な態度に負けて黙ってしまう。そこまで重要な内容ではない、そう流して。
けれど、聞くと決めたのなら腹を決めるしかない。

「ヘイルマン。お前さ……なんで、いっつも俺の上に座るんだ」

問うた瞬間、ヘイルマンの体が分かりやすく硬直した。
一秒、二秒――沈黙が部屋に広がって、居た堪れない空気が流れる。
聞かなきゃよかったか、と思いかけたその時。

……だって」

 小さな声が空気を揺らす。

「ここだと、お前の鼓動の音が聞こえるから」

「は」

想いもよらぬ告白に、目が大きくなる。

「それが、オレには……

言葉が一旦切れて、唾を飲み込む音が響く。ギヤマスターにはその間がやたらと長く感じられた。
そして、やっと待った末に。

……なんつーの。ホッとするんだよ」

最後の一言だけ、わずかに声のトーンが落ちた。素っ気なさの中に、照れのようなものが、確かに滲んでいた。
だってそれは、騒がしくて、プライドが高くて、いつも他者を小馬鹿にするヘイルマンらしくない告白で。

「へ」

思わず間抜けな息が漏れる。
そこから、ジワジワと言葉の意味を理解したのか。

「お、おま……おまっ……!?」

ギヤマスターは思わずその場に立ち上がった。
コロリと足の間のヘイルマンが転げても、気にする余裕なんてない。
胸の内側で何かが弾けて、熱くなって、もう収拾がつかない。ギュルギュルッ……ギヤマスターは回り始めたギヤに、頭を抱えた。
駄目だ。顔が熱い。温まった歯車がますます動きを速める。

そんなことを言うのか。
そんなことを、傲慢で、意地悪で、悪戯な男が――自分に向けて。

「な、なに悶えてんだよ、ってか、オレを突き飛ばしやがって!!」

転げた体勢のまま、ヘイルマンが叫ぶ。
突き飛ばされた衝撃への文句に、ギヤマスターの中の何かが完全に決壊した。

「突き飛ばされたのがなんだ! お前が、そ、そんな……可愛いことを考えているからっ……これは仕方ないだろう!!」
「っ——ハア!!なにそれ!?」

可愛い、はっきり告げられたそれにギクリと体が強張る。
けれど本人としてはこれ以上掘り下げられるのも御免なのだろう。

「って、理由が分かったんだからこれで良いだろ!お前は黙って座ってろ!!」
「いや無理だろ、今は無理!!」
「あーもー、お前が聞いたんだろ! ったく、乙女かよ!!」
 
いつまでも騒ぐ姿に辟易したヘイルマンの足が、ギヤマスターの脛を蹴る。

「つっ!!!」

冷たい爪先に加え、容赦のない勢いにギヤマスターの巨体が傾く。その隙を見て、ヘイルマンはドンッと彼を突き倒すと、無様に座り込んだ足の間に腰を据える。

「ったく……こういう時は黙って受け入れてろっての」

ぶつくさ小言を言いつつも、一度下した腰は上がる気配はない。
ギヤマスターは、痛む部位をさすりながら、すぐ傍の後姿を見た。
背中を丸めて座る様子は、遠い記憶の彼とリンクする。

静寂は嫌いだ。一人だった……ガキの頃の時のことを思い出す。
氷の世界は無音の世界。
痛いくらいに静かで、寂しくて。
もう、あの頃には、戻りたくない。
……戻れない。

空を見上げて呟く姿は、今も尚、心の中で生きている。
感情豊かな男が、感情を凍てつかせたように冷たく吐いた心情は、きっと誰にも触れられたくない部分だった筈だ。
実際、後にも先にも聞いたのはその時の一度きり。

『鼓動の音が、ホッとする』

わざわざ騒がなくても、黙っていても、ギヤマスターの鼓動一つあれば問題ない。他の面々が居るときはあれだけ騒がしいくせに、なんという殺し文句だ。
これではまるで、深層心理に刻まれたトラウマも彼が居れば構わないと言っているにも等しい。

胸の奥で、何かがきゅっと締まった。

……

ギヤマスターは、すぐそばにあるツンツンと尖った頭を見つめながら、小さく、本当に小さく、呟いた。

「可愛い」

言うなり、ヘイルマンの肩が、一瞬だけ、ぴくりと動いた。
聞こえている。絶対に、聞こえている。
けれど、相手をする気がないのは明白だった。
いつの間に拾い上げていた雑誌をめくる音が、また部屋の中に響く。
流れていた試合映像はとっくに終わっていたようだ。

だから、ギヤマスターはそっと腕を回し、ゆるく彼の腰を抱いた。
この独特の冷たさが、この膝の上の重さが、今夜は特別に、愛おしかった。