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燈 ともしび
2026-05-31 21:48:58
1805文字
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ぎゆさね【今日が終わる前に】
キ学軸。今日が終わる前に、愛をどうぞ
またやってしまった。
はっきり言って自分は社交的な性格ではない。上手い言い回しができる人間でもない。そして思ったことはすぐに口にしてしまう。それは時と場所、立場により、クレームに繋がってしまうことがある。
それが、今だ。
生徒を守るためにやった行動、言動でもその真意が伝わらなければクレームとなる。俺は気をつけているつもりが、結局いつも同じ終わりになってしまう。
「まあまあ、気にすんなって! な!」
PTA連中に押しかけられ、詰め寄られ。精神的にも肉体的にも疲れ切ってグッタリしていると、宇髄から背中を思いっきり叩かれた。励ましてくれているのだろうが力が強くて痛い。でも礼は言う。根が良い人間なのは分かってるので。
すっかり慣れてしまった報告書を書き終え、悲鳴嶼先生へ提出すれば、悲鳴嶼先生からも「あまり気にするな」と泣きながら言われてしまった。職場の仲間には恵まれているのだ、本当に。とてもありがたい。
でも今は精神的に疲れて底まで凹んでしまいそうになっていた。明日も仕事だというのにこれではダメだ。
職員室に残っていた何人かの同僚達へ挨拶をして足早に学園を出る。すっかり冷たくなった北風が頬に当たって痛い。
今日は不死川は実家の用事で有給を取っていた。 今朝、家を出る時に「帰りは冷えそうだからマフラーを巻いていけ」と見送りがてら言ってくれたのを大丈夫だと断ってしまった。やっぱり帰りはこうして寒い。ちゃんと不死川の言うことを聞いておけば良かったと思う。
ジャンバーの下に着ていたジャージの襟を起こしたけれど、風が頬に当たるのは防げなくて諦めた。ため息しか出なかった。
「
……
ただいま」
「おかえりィ」
寒すぎて駅からは駆け足でマンションまで帰ったから息が荒い。でも帰れば「おかえり」と出迎えてくれる人がいてホッとした。
「はは、鼻の頭真っ赤ァ」
優しく笑う恋人の指先が俺の鼻に触れる。寒すぎて鼻がおかしくなったのか、奥がツーンと痛くて泣きたくなる。
「不死川の」
「うん?」
「言うことを聞かなかったから」
「
……
? ああ、マフラーか」
今日は今年一番の冷え込みって言ってたからなァ、と笑い、いつまでも玄関に立ち尽くしていた俺の手を引いて室内へと上げてくれる。
「今日は鍋にしたんだよ。鮭、たくさん入れてあるから」
だから手を洗ってこい。一緒に食べよう。
顔を覗き込んでくる不死川の顔はやっぱり優しくてとても綺麗だったから、急いで洗面所に向かって手洗いうがいをした。勝手に涙が出てくるから顔もザブザブと洗った。
醤油味の鍋はとても美味しくて温かくて。不死川が食べながら話してくれる家族の話も優しく心を解いてくれて。そのまま珍しく風呂も一緒に入った。まだ疲れていたから下心は浮かんでこなかったけれど、愛おしい相手と素肌が触れ合うのは安心感しか感じなかった。
明日も仕事でお互い早い。寝支度を整えてベッドに潜り込む。
「冨岡ァ」
ベッドの端と端に寝転んだのに、不死川が両腕を広げて俺の名前を呼ぶ。これは時々俺がやるあれだろうか。
俺が不死川を甘やかしたい時にやる、あれ。
そう思い、素直にその腕の中へと身を寄せれば正解だったらしく、ぎゅっと抱きしめられた。
「お疲れさん」
頑張ったなァ。そう言って俺の額、目蓋、頬。最後に唇に優しいキスが次々と降りてくる。それがとても気持ち良くて不死川に抱きついている腕の力を強めてしまう。
「今日がどんな一日だったとしても、寝る前に幸せな出来事があれば良い一日になるから」
だから、大丈夫だ。義勇。
安心して寝ろ。
最後にもう一度、両目蓋にキスされた。
下の名前はいくら強請っても滅多に呼んでくれないのに。なんだこれ。今日は大盤振る舞いか。
ああ、なんて、幸せな一日なんだろう。
不死川の言う通りだ。
「不死川」
「うん」
「実弥」
「
……
はいよォ」
「明日はちゃんとマフラーをしていくから」
「そうしろや。風邪引くからなァ」
えらいえらい。そう言って頭を撫でられた。
やっぱり今日はとても良い一日だ。
幸せな気持ちと共に睡魔が襲ってくる。
「おやすみ」
言い合って目蓋を閉じた。
明日も良い日になれば良い。そう願いながら。
今日が終わる前に、こころが愛おしさで溢れそうだった。
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