燈 ともしび
2026-05-31 21:44:27
1766文字
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ぎゆさね版ドロライお題:【ハッピー】

キ学軸。意味を考える

 不死川本人は
「俺がモテるわけねぇだろ」
 なんていつも呆れ顔で否定をするけれど、宇髄や煉獄のように分かりやすく表立って騒がれないだけで裏ではとても人気があることを俺は知っている。
 面倒見が良く最後まで見捨てることなく、ここぞと言うときにちゃんと言葉にして褒めてくれる教師というのは高校生という敏感な年齢の子どもにとって神様のように見えるだろう。
 実際に不死川の元へ進路相談に来る生徒の数も年々増えている。今年のバレンタインの時はどう見ても義理ではないチョコをいくつか貰って帰ってきたし、卒業式ではワイシャツやベストのボタンがひとつ残らず消えていた。おまけに女子生徒だけじゃなく男子生徒からも見た目と中身のギャップの差で落ちてしまったという話も聞いた(主に胡蝶先生と悲鳴嶼先生から)
 ぐぬぬ、と奥歯を噛み締める。
 不死川はキメツ学園の教師だけれど俺の恋人でもある。俺の不死川なのに、と大人気ない気持ちが浮かんでしまうのは仕方ないのだろうか。

 どうにも危機感の薄い恋人がつい心配になり、声掛けをする。
「おはよう。愛してる」
「おかえり。今日もお疲れ様。大好きだ」
「おやすみ。不死川が大切なんだ」
 自分の気持ちを伝えつつ、俺が不死川の恋人なんだぞと本人へアピールした。
 一番初めは目をまん丸にしてびっくりしていたが、そのうちに楽しくなったのか慣れたのか
「はいはい、俺もォ」
「うん。知ってる」
「ありがとうなァ。おやすみ」
 と軽めの返事が笑顔と共に返ってくるようになった。
 同じような熱量だと嬉しかったが、これはこれで可愛いからまぁ、と俺も悪い気はしない。あと、言葉にしたら前より更に不死川が愛おしくなった気がする。朝も帰りも、寝る前もハグしてしまうようになった。好きな人と抱き合うと幸せホルモンが出るとテレビで見たことがある。なら俺は最高に幸せな状態だ。不死川への心配は消えないけれど。

「不死川、行ってくる」
「あ、今日は夕飯要らねえんだよなァ?」
「うん。錆兎と食べてくるから」
「分かったァ」
 休みの日は二人でのんびりすることが多いけれど、久しぶりに錆兎から連絡がきたので誘いを受けることにしたのだった。不死川もゆっくりしてこいと背中を押してくれたが、それはそれで寂しい。
 帰りは冷えるからと去年の冬に不死川が買ってくれた濃紺のマフラーを巻く。でも上手く巻けずにもたついていたら不死川がスッと巻き直してくれた。暖かい。
「ありがとう」
……冨岡ァ」
「うん?」
 何か忘れたか? 出かける時に呼び止められるのはそれくらいだから軽い気持ちで振り返る。

 ちゅ、とやけに可愛い音が口元で鳴る。

「浮気、すんなよォ」
 今度は俺が目を丸くする。不死川は耳まで赤い。
 あ? 今、なにを?
 考えて数秒。頭より先に身体が反応した。
 ぎゅっと不死川を両腕で抱きしめる。
 可愛い。愛おしい。これから出かけるというのにどうしてくれようか。
「不死川……
「んー」
「もう出ないといけないのに離せない」
「ばか、早く行けよ。錆兎が待ってんだろうが」
「不死川が悪い」
「悪かったってェの」
 抱きしめあっている間に不死川は復活してしまったらしい。いつものようにくすくす笑う声が耳元から聞こえてくる。でも、さすがにこのままでは約束に遅れてしまう。錆兎は今は遠方にいて滅多に会えないから待たせるわけにはいかない。名残惜しく不死川の身体を離す。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい。気をつけてなァ」
 ものすごく後ろ髪を引かれたけれど玄関ドアを開けた。
 エレベーターホールまで来るとスマホが鳴る。メッセージアプリなので錆兎からかと思い画面に目をやれば、それは不死川からで。

「マフラーを俺が贈った理由、帰るまでに調べとけよ」
 とだけ書いてあった。
 それだけではなんのことか分からず、店で錆兎と合流してから思わず聞けば、錆兎は腹を抱えて笑っている。こちらも意味が分からない。
「愛されてんなあ、義勇」
「え?」
 それでもスマホを少しいじった後、俺にその画面を見せてくれた。
「マフラーとかネクタイとか、首元に使うアイテムを相手に贈るのはさ、」

「あなたにくびったけ、って意味だぞ」
 と。