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燈 ともしび
2026-05-31 21:43:30
2596文字
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ぎゆさね【内緒です】
キ学軸。ヤキモチと秘密
頭では分かっていても感情が追いつかない。
だから恋なんて嫌なんだ。クソッタレが。
「おー、熱心だねえ」
「
……
そうかィ」
「またまた無理しちゃって」
「うるせえ」
教育実習生を受け入れるのは毎年のこと。過去に自分だってお世話になった。だから多少の雑務が増えたり自分の時間が削られても仕方ない。それは分かってるし納得している。
今年の実習生は二人。覇気のある女性と穏やかな男性。希望する教科の関係から穏やかな男性のほうは煉獄が担当で、女性のほうは冨岡が担当になった。それも分かっているし納得している。ハードな仕事だと分かっているのに教師になりたいと願い、実習をこなして夢を掴もうとしている。素晴らしいことだ。
でも、自分の恋人の隣に身長や体格もお似合いの女性が並んでいるのを毎日見るのは、正直堪える。
冨岡が今の俺をそのまま好きになってくれたのは分かってるし、浮気をするような奴だとも思わない。俺だって女性になりたいと思ったこともない。
それでも、こうして客観的に見て似合いの身長差だなと感じてしまうのが嫌だ。俺よりも似合ってると無意識に比べてしまうのが嫌だ。
自分は自分。人と比べても良いことなんてなにもない。普段から生徒にはそう伝えているのに俺が出来ていないなんて笑ってしまう。
無意識のうちにため息が多かったからか、その原因を宇髄にはすぐに気付かれた。相変わらずの観察眼だなァと感心する。まあ、気付いたところで多少の揶揄いはあっても、踏み込んで欲しくない位置はちゃんと分かっている奴なのでそれは別に良い。でもため息は止まらない。今も見なければ良いと分かっていてもつい視線が二人を追ってしまう。
冨岡は見た目が良いので(常にジャージだけれども)似たようなことは過去に何度もあったし、分かりやすく秋波を送っているのはまだ対処が出来た。冨岡が浮気をしないと信じているから無視出来たし、余裕を持って待てた。冨岡は人に対する対応も、下心だけでやる気がなければ冷たく接するのでそこも安心していた。
でも今回の実習生は今までと違う。自身も小さい頃から陸上を学び、国体で優勝したこともあるらしい。ただ、怪我が元で選手を諦め体育教師を志したと。根性もあるから、一見、塩対応のような冨岡にも食らいついていきメモを片手に熱心に実習に取り組んでいる。冨岡も感じているのか今までの接し方とは違う気がする。あの無表情がデフォルトの男がよく笑っているから、分かる。
ああ、嫌だな。心の奥底がチリチリと焦げ付くような気がする。
嫌なのは、真剣に取り組んでいる二人に対して勝手に嫉妬して心を疲弊させている自分に、だ。昔ならこんな風には思わなかっただろう。頑張れ、とエールを送っていたと思う。
冨岡を好きになってから綺麗なままではいられなくなった。嫉妬、独占欲。そんなものは要らないのに勝手にポコポコと生まれてきて苦しくなる。
二人を視界から外すように少しだけ下を向けば、黙ったまま宇髄が頭をぽんぽんしてくるから払いのけた。
「そのまま、あいつに言えよ」
「言えるかよォ」
「信じろよ、好きな相手を」
また頭をぽんぽんされたが、今度は払いのけられなかった。
「不死川、明日少し早く出る」
「ん。ちゃんと目覚ましかけろよ」
「うん。ありがとう」
……
早く出るのは実習指導のため? そんな言葉が口から飛び出そうになって慌てて風呂場に逃げ込んだ。流石にそれはアウトだと思った。
頭を冷やそうと冷たいシャワーに打たれたけれど、風邪をひきそうになって馬鹿だとやめた。湯を張った浴槽に浸かってため息をひとつ。
今日は冨岡が風呂掃除したので、冨岡が選んだ入浴剤が入ってる。
……
俺が一番好きなやつ。
「ばかやろ」
バカなのは俺だ。
風呂から上がったら冨岡はもうベッドで寝ていた。寝つきが異常に良い男だから少しだけ見える肩が規則正しく動いている。ぐっすり寝ているんだろう。せっかく入浴剤のお礼を言いたかったのだけれど、起こすわけにもいかないから明日の朝になりそうだ。壁際を向いて寝ている冨岡の背中にくっ付くように俺も布団に潜る。
そっと両手を冨岡の腹に向けて回す。俺は男だから余裕で腕が回る。それは変な安心感をもたらした。男で、良かった。そう納得しながら目を閉じると前に回した手を軽くぽんぽんと叩かれた。寝てるはずの男に。冨岡に。
本当に、こいつは。
背中に額をぐりぐりと押し付けてから目を閉じた。不安にさせない恋人がいるのに、勝手に不安がる自分を早く消したい。そう願いながら。
実習の期間がようやく終わり、実習生二人が全員の前で挨拶をしている。それに拍手をした後、指導担当だった煉獄と冨岡も二人に向けて挨拶をする。泣いて握手して、頑張れよ、なんて声があちこちからかかって。彼らに罪は無いのに心の底からホッとした自分に嫌気がさす。
「不死川先生」
「
……
おう」
控室に向かおうと歩いていたら、例の実習生に呼び止められてしまった。俺とはさほど関わりが無かったのに、と訝しんでいると
「冨岡先生の恋人って不死川先生ですか?」
なんて直球を投げつけられた。
「え、は?」
訳もわからず支離滅裂な声を漏らせば、冨岡からずっと惚気られていたのだと言う。
曰く
「俺の恋人はとても可愛いのだ」と。
「そんな人、居たとしても計算でしょなんて思っていたんですけどね。私、人を見る目はあるんです。先生達の中で不死川先生が一番表情がくるくる変わって可愛いと思ったので。冨岡先生に聞いたら、そうだって嬉しそうにしてて」
そう言ってふふ、と笑う。
「私、好きになるのは女性ばかりなんですけど、確かに不死川先生は可愛いなぁ。私も好きになりそうだなと思っちゃいました」
冨岡先生には内緒ですよ、と笑いながらも、ありがとうございましたと元気に走り去っていった。
残された俺は色んな感情から座り込んでしまい、しばらく立ち上がれなかった。彼女は俺より何倍も大人だった。
モヤモヤしつつ仕事をこなし、帰ってから冨岡に対して八つ当たりのつもりで身体をぶつけたのだが、
「不死川は可愛いな」
と、蕩けた顔で抱きしめられてしまったから、やっぱり俺が一番子どもだと恥ずかしくて仕方なかった。
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