燈 ともしび
2026-05-31 21:41:25
1347文字
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ぎゆさね【あいして、あいして】

キ学軸。あいして、甘やかして

「オイ、冨岡ァ」
「うん」
「こっち座れェ」
「分かった」
 字面だけを見ているとまるで喧嘩のようだが、ここは自宅だし、居るのは俺と不死川の二人だけ。つまりは酔っ払いの恋人同士のいちゃいちゃなのだ。喧嘩ではない。
 その証拠に、座れと強い言葉で命令してきた割に、不死川が俺を座らせようとしているのは自分の隣だったりする。ようするに近くに来いって甘えてる。はっきり言って可愛い。

 不死川は酒が好きだが強くない。だから外ではあまり飲まない。付き合うまでは他人を介抱している姿を見たことはあっても酔って潰れたり醜態を晒しているところは見たことが無かった。
 でも、今はこうして顔が赤くなるまで飲むし酔う。ここが安心出来る場所だと、そして俺が側にいるから安全なのだと示してくれているようでとても嬉しい。
「なんでぇ、呼ぶまで来ねえんだよォ」
「夕飯を優先して食べていたからだろうか」
「はァ? 俺より飯のが大事ってか?」
「不死川が作ってくれたご飯だからな。大事だ。でも不死川も大事だ」
「そーかよォ」
 怒っていたくせにすぐに機嫌を直すと、ふふ、なんて笑う。可愛い。
 酔った不死川は分かりやすく甘えてくるから、こっちも遠慮なく甘えさせてやれる。素面で聞いたらドン引きするような甘い言葉も、酔っている時は逆に嬉しそうにしてくれるから、俺も恥ずかしさを捨てて言葉を尽くす。
「不死川はいつも可愛い」
「そーだろ」
「うん。だから抱きしめても良いか?」
「いいぞォ」
 ほら、なんて受け止める言葉を発しながらも抱きしめられ待ちするポーズが愛おしい。ぎゅっと引き寄せれば、満足そうなため息が聞こえてくる。
 俺は不死川にバレないよう、こっそりうなじ辺りの匂いを嗅ぐ。不死川からはいつもお日さまみたいな匂いがする。触れると幸せになる匂いだ。素面の時には恥ずかしがって嗅がせてくれないから思いっきり堪能する。
 ああ、幸せだなと思う。一週間分の疲れがゆっくり解けて消えていく。不死川にはとんでもない癒し効果がある。俺以外にはさせないから俺限定だけれど。

「くすぐってえ」
 ばか。ばか冨岡ァ。くすくす笑って言われても罵倒の言葉すら甘い。

「なァ、冨岡ァ」
「うん」
 不死川を堪能していたら、むぎゅ、とやや無理矢理に俺の目線が不死川の目線と合うように向きを変えられた。まだ笑ってる。痛いのも忘れて見惚れていると、不死川は隣から腰を上げて俺の膝の上に乗り上げるように座ってくる。

「なァ」
……なんだ?」
 多分、この後の言葉を俺は分かってた。でも絶対に先には言わない。だって不死川に言わせたいから。

「俺んこと、好きって言って」

 ほら、酔うと最後にねだるのはいつもこれで。
 この時の、恥ずかしそうに口を尖らせて言うのがとても可愛くて可愛くて堪らなくなる。

「好きだ」
 好き。大好きだ。愛してる。
 ひとつひとつに想いを込めて、大切な人へと告げれば、言われた不死川は花が咲くように綺麗に笑ってくれるから。

……もっと、言って」
「好きだ」
 そんな可愛い願いなんて、いくらでも叶えてやりたくなる。俺はとても単純なんだ。
 笑ってる不死川が可愛いから、俺もとても幸せなんだ。