忘年会しようぜ、と宇髄が音頭をとって開かれた飲み会。年内に集まれるのも最後だろうとあちこちに声をかけたらしく、いつもより参加人数が多かった。ありがたいことに冨岡も俺も声をかけて貰っていたのだけれど、その日は母親と一緒にチビ達のクリスマスプレゼントを買いに行く予定があったので俺は不参加で、冨岡だけが参加した。
冨岡は人間が多い飲み会があまり得意ではなく、不死川が参加しないなら行きたくないとギリギリまで渋っていたが、こないだ宇髄に仕事をフォローして貰ったんだから礼も兼ねて行ってこいと蹴り出した。どうせ行ったら行ったで酒の席を楽しむ男だと分かっていたので。
それが今日の午前中のこと。
始めからクリスマスプレゼントの目星は付けていたし、予約出来るものはしておいたので俺の買い物は予定通りに済んだ。その後は久しぶりに母親とゆっくりお茶を楽しめたし、買い出し中の子守りを買って出た玄弥にずっと欲しがっていたスマートウォッチを買ってやれたので大満足だった。
そこから最寄駅に着いたのはまだ夕方とも言える時間帯で。一瞬、宇髄の飲み会に合流しようかとも思ったけれど、やっぱり平日用の弁当や常備菜の作り置きもしたくてスーパーに足を向ける。ちょうどタイムセールに冷凍鮭があり、珍しく個数制限もなかったのでたくさん買えた。これなら毎日冨岡の弁当に大量の鮭を詰めてやれると俺はスキップしそうな気持ちで帰宅した。
帰宅したら作り置きを作り、自分の夕飯をその残りで適当に済ますと一人風呂を満喫することにした。ここのところゆっくり湯船に浸かる余裕がなかったからとても気持ちが良い。あと、今日は冨岡に風呂襲撃をされる事もない。恋人同士だから別に襲撃されても良いのだが、平日でもお構いなしに一緒に入ろうとしてくるのが困る。だってその気になっても次の日のことが頭をよぎってしまい集中出来なくなるから。
まあ、明日は休みだから今夜は襲撃されても大丈夫だったけどなァ。
そんなことをふと思ったけれど、気恥ずかしくなり頭を振って打ち消した。一人でなに考えてんだか。気持ちを切り替えようと、気に入っている白く濁る入浴剤を入れる。これ、肌がしっとりするので俺は好きなのだが、湯が濁るから冨岡は気に入らないらしい。
『不死川の肌が湯で赤く染まるのを見るのが好きなんだ。だからこれはあまり好きではない』
これを初めて使った時、冨岡はそれを真顔で言い放った。俺は勢いに押されて「お、おう」と返事を返した気がするがどうだったろうか。
ぶく、と顔半分まで湯に浸ける。恥ずかしい思い出を振り切ろうと入れた入浴剤のせいて更に恥ずかしいやりとりを思い出してしまった。一人だから良いだろうとバシャバシャと湯の中で暴れてみる。墓穴を掘るとはこのことか。
ひと通り暴れて落ち着くと濡れた前髪を後ろに撫で付ける。
腕を湯船から出す。
傷だらけの腕が見える。腕だけじゃない、俺は身体にも、今撫で付けた額や顔にも傷がある。はっきり言って綺麗なんかじゃないと自分では思っている。それなのに、冨岡はこの傷だらけの身体をいつも蕩けそうな顔で愛しんでくれるのだ。
「綺麗だ」
「可愛い」
と、あの朴念仁が言葉や態度を惜しまずに、キスを落としながら愛してくれる。
「愛されてんなァ、俺」
ポツリと言葉が漏れた。言ってることはかなり恥ずかしいが、何度考えてもそうとしか思えないから。
また顔の下半分を湯船に浸ける。出していた手足も温めるためにしっかり浸かろう。そう思って全体的に湯の中へ沈んだ。
ガチャ、と。
静かに湯に浸かっていたからか玄関ドアの開く音がここまで聞こえた。冨岡も思っていたより早く帰ってきたらしい。
「不死川、手を洗いたいのだが入っても?」
ノックの後、遠慮がちに呼ぶ声も聞こえる。うちは風呂場と洗面所がくっ付いているから気を遣ってくれたのだろう……いつもは遠慮なんてしないくせに。確かに酒に強いが、酔ってる冨岡のほうが素面の時より紳士だなんて面白過ぎるだろ。
なんだかおかしくなって笑いながら許可すれば、風呂場の曇りガラスのドアに黒っぽい影が映る。あと手洗いうがいをする音も。
「早かったなァ」
「開始時間が早かったからな」
「人、多かったかよ」
「まあ、それなりにいたな」
やり取りの後、ゴソゴソとタオルで手や顔を拭く音もする。
「なァ、冨岡ァ」
「うん?」
「コートは脱いでこい」
「うん……え?」
「濡れちまうからなァ」
それ、今年買った気に入りのコートだろ。
一応、気を遣ってやる。
それなのに酔った冨岡は朴念仁度合いが高まるらしい。意味が飲み込めず立ち尽くしている気配がするから、俺の方が待ちきれなくなってしまった。
勢いよく湯船から立ち上がってドアを開ける。予想通り、冨岡はコートを着たまま洗面台の前で立ち尽くしているが、気にせずその首に両腕を巻きつけた。
「待ちくたびれたァ」
だから、早くテメエを寄越せよ。
顔を向ければ唇が触れ合うまであと僅か。
これも待ちきれなくて、噛み付くように俺からキスをした。
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