燈 ともしび
2026-05-31 21:38:10
1305文字
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ぎゆさね【攻防】

キ学軸。冬の必需品

 一人で暮らしていた時は電気毛布や湯たんぽの購入を本気で検討していた。
 実家にいた時は弟や妹の誰かしらが勝手に布団に潜り込んでくるので、真冬でも寒さを感じる瞬間なんて無かった。愛おしい天然湯たんぽ達がたくさん居たから毎日ぬくぬくと快眠していた。
 だから一人暮らしを始めたとき独寝のあまりの寒さに驚いた。改築前の実家は隙間風が酷かったが寒くなく、俺は寒さに強いのだとすら思っていた。なのに一人暮らしを始めたマンションはそれよりも気密性が高かったというのに、ひどく寒くて困惑しかなかった。

 そんな話をいつもの連中との飲み会でつい愚痴ったら
「俺は体温が高いぞ」
 と謎のアピールをされてしまった。誰って。冨岡に。
 急な展開に静まり返った宴会の場の中、ああ、そーかよ。困惑と疑問でそれだけを返せば
「試してみないか?」
 などと追撃がきた。
 試す? なにを? 俺は頭の中に疑問符しか浮かんでいなかったけれど、面白そうに見ていた宇髄により、何故か冨岡を家に泊めることにされてしまった。
 先に言っておくが、この時の俺たちは恋人同士ではない。単なる同僚でしかなかった。それなのに連れ帰った冨岡は何故かそのままうちの風呂に入り、俺の部屋着を着て、俺を抱きしめてベッドに潜り込んできたのだ。
 外見は体温が低く冷たそうな見た目をしているくせに、冨岡はめちゃくちゃ暖かくて。その夜、俺はこの部屋に越してきて始めて熟睡が出来た。胸に抱き込まれて寝たが不快ではなく、逆に冨岡の匂いもとても落ち着く良い匂いだった。
 そこから家飲みをするようになり、冨岡は必ず俺の家に泊まるようになった。その頃には俺もこの状況を全く気にしなくなっていた。
 いま考えるとちったァ気にしろよ、と怒鳴りつけたくなるくらい無防備だったと思う。でもぐっすり眠れる快適さは最高でしかなく、言葉や態度で拒否することはなかった。

「そろそろ湯たんぽから恋人に格上げして欲しい」
 何度も繰り返した家飲みの夜、冨岡はあの始まりの日と同じように真顔でそう言ってきたから、俺はビール片手に大笑いした。
 そんな告白の仕方があるかよォ、ばーか。笑えて笑えて仕方なかった。

「恋人にはしてやる。でも湯たんぽ卒業はナシ」
 指を突きつけて言えば、冨岡は見たことがないくらい幸せそうな顔で俺を抱きしめてくる。
「毎晩、俺がずっと不死川を温めるから」
「おう。でも夏場はあっちいから離れろよォ」
……クーラーをガンガン入れよう」
「節電しろって怒られんだろうが」
 ここで俺の笑いのツボは決壊した。

 だから今夜も俺は専用湯たんぽに包まって眠る。最近は俺の待てを聞かないから面倒で仕方ない。でも、包まって眠る快適さは捨てがたい。
 断らないでいれば調子に乗った湯たんぽの手が怪しく動いて俺の尻の辺りに触れてこようとするから、逆襲で冷え切っている手を冨岡のスウェットの中に潜り込ませて触ってやる。途端に声にならない悲鳴を上げて悶えていたが
「湯たんぽは良い子で静かにしてろよ」
 と笑ってキスをすると、お返しのキスをくれてからようやく大人しくなった。