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燈 ともしび
2026-05-31 21:37:04
2244文字
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ぎゆさね【colors】
キ学軸。恋人を彩る
「動くなよォ」
「分かった」
言いつけを守って動かないでいれば視界に不死川の頭頂部が見える。硬そうに見えて存外と柔らかな髪の毛は手触りがとても良く、でも機嫌が良い時しか触らせてもらえない特別だ。そしてちんまりとしたつむじまでも可愛く思えるのは恋人の欲目だろうか。そもそもこんなに不死川の頭を見つめるのは初めてだった。動くな、と言われるのも。
触りたいが触れない。手持ち無沙汰となり視界をずらせば、見えるのは爪先が青く染められた己の手だった。
遡ること数時間前。用があったらしく実家に寄ってから帰ってきた不死川は、帰ってくるなり機嫌良く俺を手招きした。ニコニコの不死川は可愛い。でもこの顔に騙されて近寄れば何かが起こるだろうことも予感していた。
「早くこっち来いってェ」
でも、俺に不死川を拒否する選択肢など無く、キッチンテーブルの椅子に座るように言ってきたから大人しく従う。
だがテーブルの上に置かれている物が予想外の物だったので目を丸くする。実家で姉さんが持っていたし、たまに学園内に持ち込む生徒もいるので取り上げたこともある、それは色鮮やかなマニキュアだった。
「どうしたんだこれ」
「寿美に貰ったァ」
貰った、とは。はて、と考える。俺は不死川と二人で住んで今のいままでマニキュアの必要性を感じたことは一度もないのだが、不死川は違ったのだろうかと。
「なんか自分にはあまり似合わないって言うから」
「うん?」
「だから、貰った。ほら手ェ出せ」
待て、と物理的に手で静止した。
目の前に置かれたマニキュアは真っ青と真っ赤のもの。確かにこれはまだ幼い不死川の妹にはキツめの色合いかとも思える。以前会った時の印象だと桜のような色が似合いそうな可愛らしい顔立ちをしていたから。だから本人も似合わないと思ったのだろう。
それは良い。でも何故それを必要なさそうな兄にあげるんだ? そして不死川も何故俺の手を出すように要求するのか。
「玄弥が言ってたが、最近は男でも爪塗んのが流行ってるんだってよォ。俺にはちっとも分かんねえんだが。お兄ちゃん塗りなよって貰ったんだけど俺はあんまり手が綺麗じゃねえし」
待て待て待て。不死川がなんかすごいことを言ってる気がする。
妹に塗りなよと貰った。でも自分は手が綺麗じゃない(と本人は言ってるが俺は綺麗な手だと思ってる)から俺の手に塗ろうと思った。
「
……
不死川」
「んだよォ」
「それは、不死川が俺の手を綺麗だと思ってくれていると自惚れて良いのだろうか」
「ぶッ!」
不死川は息を噴き出して慌てて横を向く。でも耳が赤いのは丸見えで
……
とても可愛いくて。
「では、頼む」
俺はこの可愛い生き物を前に完敗するしかなかった。
向かい合わせに座り左手を差し出せば、真剣な、でもどこか楽しそうな顔で不死川が真っ青のマニキュアを俺の爪に塗っていく。不死川に誉められた? ものの、特別なハンドケアなどしていないし、職業柄、爪を常に短くしているからマニキュアを塗っても綺麗には仕上がらない気もする。それでも不死川が俺の手に塗りたいと思い、実際に楽しいならそれで良かった。どこまでも俺は惚れた弱みで不死川に勝てないのだから。
手先が器用な不死川はあっという間に俺の左手を青く染めてしまった。恐る恐る触れるとツヤツヤとしているが取れない。このマニキュアは速乾性が抜群らしく乾くのが早いらしい。これは妹さんの受け売りだと。
俺の左手を持ち上げて動かして。その仕上がりに満足したらしい不死川は続いて右手も要求してきたので大人しく差し出す。ここまできたら片手も両手も変わらない。どうせ今夜も明日も休みなのだし、落とすための除光液はコンビニにも売ってるらしいから明日落とせば仕事に支障もない。
そのまま右手も青色を塗られるかと思っていたが、不死川は今度は赤のマニキュアを塗り始めた。左手が青の爪で右手が赤の爪な己の両手を想像して面白すぎると思ったけれど、ここで笑えばせっかく可愛い不死川を堪能出来るチャンスをみすみす捨てることになりそうだったので我慢する。
「よし」
満足げな一言のあと、俺の右手の爪は赤く染められていた。不死川は今度も俺の手を持ち、色々な方向に動かしては仕上がりの確認を楽しそうにしている。
だから、良いかなと思った。可愛い不死川を堪能出来たけれど、可愛くて可愛いから今度は触れたいと思った。
赤く染められた右手を不死川の頬に添える。機嫌が良いらしく、俺の手に擦り寄るように顔を押し付けてくる。
肌の色が白く、髪の毛も淡い不死川にこんなにも赤い色が似合うことを俺は初めて知った。顔を伏せ気味にしていたから長いまつ毛が影を落として色っぽさまで感じる。
左手も頬に添えてそっと引き寄せれば、今度は不死川が大人しく従ってくれたのでそのままキスをした。
可愛い。もう一度キスをする。
赤の色彩も青の色彩も強い色なのに、不死川にはよく似合う。マニキュアなんて俺の手に塗っても面白くないだろうにと思っていたが、これはまずいかもしれない。
「不死川」
「
……
なァにィ」
「触れたい」
「いいよォ」
我慢出来ずそう強請れば、仕方ないと態度に表しつつも笑って受け入れてくれる恋人がそこにいた。
不死川の身体中をこの色の付いた手で触れたい。それはどれほど色っぽくて綺麗か。
そんな欲がとろりと甘く溶けていった。
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