燈 ともしび
2026-05-31 21:22:52
1595文字
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ぎゆさね版ドロライお題:【のんびり】

キ学軸。まだ、いまも、全然好き

 付き合いたての頃のような初々しさとか緊張は無く、でも熟年カップルのようなこなれ感もまだ無い。そんな感じが今の俺たちだった。

 年始は順番にお互いの実家に挨拶に行って一緒にご飯を食べて、あと近所の神社へ初詣に行った。それ以外は基本的に家でダラダラと過ごしている。お互い、宇髄のように予定が空けばすぐに旅行に行くようなアクティブなタイプでもないからやっぱり家が一番落ち着く。
 今もうちの実家から貰った大量のみかんと共に色違いの半纏をまとい、ぬくぬくと炬燵に入って詰将棋なんてしていたりする。これは元々冨岡の趣味で買ったものだったが、引っ越しの際にこちらに持って来ずに実家に置きっぱなしにしていたらしい。
 なんで? 好きなんだろ? と聞いたことがあったが、俺が興味なかったら家に持ってきても邪魔になるだけだと思ったから置いておいたなんて言う。ちょっとムカついたから冨岡の形の良い額に手加減無しのデコピンをしたのを覚えている。
 確かに俺は将棋をよく知らないけれども、好きな相手の好きなことなら知りたいと思うし教えて欲しい。テメエはそうじゃねェのかよォと拗ねたら、慌てた冨岡が年明けに取りに行くと言ってくれたのだ。
 そして今、冨岡にルールを教わりながら二人でまったりと詰将棋に勤しんでいる。これはとても正しい休みの過ごし方だと俺は思う。
 好きなことをしている時の、気が抜けて幸せそうな冨岡の顔を一番間近で見られるのはやっぱり嬉しい。詰まったのか、考え込んで眉間に皺が寄るのも見ていて飽きない。
 なんだか楽しくなって、食べようと剥いていたみかんを一房、冨岡の口元に押し込む。眉間の皺はそのままにあーんと口を開けてモグモグするのも面白い。
「不死川」
「んだよ」
「ありがとう。甘い」
 律儀。思わず吹き出してしまった。でもそんなところが好きだ。

 そして冨岡の表情で遊んでいたせいか俺は詰将棋に負けてしまった。まァ、我ながら飲み込みは早かったと思うが習った初日だし、冨岡のが経験値が高かったのだから仕方ない。
「負けたから夕飯は俺が作るなァ」
「買い出しは一緒に行くから」
「うん。食いたいもん考えとけ」
 そんなやり取りをして、でも夕飯の買い出しに行くにはまだ時間が早い。ならばてっきりもう一戦やるかと思っていたのに、冨岡は詰将棋の盤や駒を片付けだしていた。
「まだ出来るぞ?」
 手元にあったみかんの皮まで丁寧に回収されてしまったのでそう言ってみたが、冨岡は笑って返事しない。
 流れで炬燵から立ち上がり、台所まで冨岡を追跡すると、みかんの皮をキッチンのゴミ入れに捨てるとまたどこかに歩き出す。追いかける。
「風呂……
 見たままを呟いても冨岡からの返事はない。
「なァって」
 俺を放っておいて風呂掃除を始めた冨岡のスウェットを引っ張ってみる。でも相変わらず返事は無くて、黙々と洗剤を撒いてスポンジで擦っている。
 掃除し終わり湯を張って、ようやくこちらに振り向いてくれた。
「不死川」
「うん」
「まだ明るいけどしたい」
……あ?」
「今日はまだ時間がたっぷりある。不死川と大好きな詰将棋が出来て楽しかった。だから次も俺の好きなものを愛でたい」
……人を詰将棋と一緒にすんなァ」
 照れ隠しと動揺とで唇を尖らせてみたらその口に優しいキスが降ってくる。

「年明けで浮かれてるんだ。不死川がずっと可愛いしずっと一緒だから」
 目を閉じて聞いていればほわほわした言い草なのに、目を開けて見た冨岡の顔と声は男のそれでしかなく。
……わがままァ」
 とその首に飛びついて抱きつくことしか俺には出来ない。

 誰だよ。俺たちにはもう初々しさとか緊張とか無いって言ったやつ。
 俺だった。あれは撤回だ。

 冨岡はまだまだ全然俺にめろめろだったし俺も冨岡にめろめろだったわ。