あおき
2026-05-31 21:22:42
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本当にあった怖い話

天餃。※ホラーじゃないです。



あれは獲物を深追いして、いつもは行かないような山の奥の方まで入り込んじまった時のことだ。けれど追っていた鹿をオレより先に仕留めたヤツがいた。見たことも無いような大きさの熊だった。しかし幸い、熊は獲物に夢中でオレにはまだ気付いていないようだった。今なら倒せる。物音を立てないようにそっと銃を構える。だが引き金に掛けた指を引くことは出来なかった。一体いつの間に現れたのか。熊の傍に小さな子供の姿があったのだ。

「あぶ――っ、」

危ない、と叫ぶ暇も無かった。熊は唸り声を上げながら大きな体で子どもに襲いかかった。子どもは身が竦んでしまっているのか。逃げ出すそぶりも見せなかった。くそ。こうなったら、とにかく撃つしかないと引き金を引いた。だが慌てて撃ったせいで狙いが逸れてよりによって子どもの頭に当たってしまった。ああ、オレはなんてことを――しかしそんな後悔は、すぐに驚愕に塗り替えられた。かぶっていた帽子は弾き飛ばされたが、銃弾を受けたはずの子どもは何故かピンピンしていていた。そしてさらに、

「えいっ」

この場面に不釣り合いな可愛らしい声とともに、子どもの体がふわりと宙に浮いた。まずそれだけでも驚きだが本当の驚きはその後だった。子どもは熊の鼻先めがけて――デコピンをした。見間違いじゃない。デコピンだった。そしてその一発で熊の巨体は、めきめきと木をなぎ倒しながら吹き飛んだ。その衝撃で熊は目を回してしまったらしく、ぴくりとも動かなくなった。はっきり言って何が起こったのかわからなかった。とんでもないものを見てしまった。無意識に後ずさろうとすると、何かにぶつかった。

ひっ、と悲鳴を上げてしまったのは、そこに立っていたのが大柄の男だったからだけじゃない。そいつの三つの目が鋭くオレに向けられていたからだ。もう訳がわからないやら恐ろしいやらで、オレは慌てて銃を引っ掴んでその場から逃げ出した。

「天さん、これでしばらくお肉に困らないね!」

そんな無邪気な声が聞こえた気がしたが、とても後ろを振り返ることなんて出来やしなかった。くわばらくわばら。