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燈 ともしび
2026-05-31 21:21:55
1505文字
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ぎゆさね【ついうっかり】
キ学軸。ついうっかりで生まれる恋
初めて会った時の冨岡は表情筋が死んでるのかと思うくらい無表情で、おまけに話せば話したで人が苛つくようなことしか言わなかった。
コイツには絶対近寄らねェ! と決意し実行に移したのに、今は何故か恋人同士になって一緒に暮らしているのだから人生って本当に何が起こるか分からない。不思議で仕方ない。
「俺の粘り勝ちだな」
むふふ、なんて笑いながら今も冨岡は俺の膝枕で昼寝なんてしている。ちなみに許可取りはされていない。家事を終えてソファーに座ったら勝手に冨岡が俺の膝に寝転んできたのだ。まあ、嫌ではないので放っておいているのだけれど。
膝に冨岡を引っ付かせたまましばらくテレビを観ていたが、なんとなく手持ち無沙汰になって指先に触れていた黒髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。柔らかくて気持ち良い。
これも一番最初はゴワゴワして硬くなっていたのだ。なんせ頭からつま先までボディーソープで洗っていたような男だったので。一緒に暮らし始めて冨岡の生活力の低さに驚いた。いや、無いわ。俺だってシャンプー、リンスくらいは使っていたっての。
俺の心に湧いてきたのは怒りよりも脱力。すぐに生活用品の買い出しに連れ出して、俺と同じシャンプーとリンスの詰め替えを買った。
帰宅後は服をひん剥いて一緒に風呂に入り、シャンプー、リンス、ボディーソープを分けて使って洗うように言い聞かせ、ちゃんとやるまで見守った。恋人同士で一緒にお風呂、なんて甘い夢を見ていた冨岡は俺のスパルタぶりに凹んでいたが知るか。
風呂から出たら洗濯しながら柔軟剤や漂白剤の使い方も教えた。洗剤しか使っていなかったと言い出したが、それはそうだろう。ボディーソープだけで全身洗っていたようなやつが柔軟剤など使うわけがない。
冨岡が万事そんな様子だったので、初めのうちは甘い雰囲気なんて皆無な同棲生活だった。
それでも地頭は良く器用で、好きな人(俺のことなァ)の言うことなら大人しく聞き入れたから今では一人で大抵の家事はこなせるようになった。
ゴワゴワだった髪の毛は柔らかくサラサラになったし、生地の目が詰まりまくっていた服は柔軟剤のおかげでふんわり柔らかい。
ただひとつ失敗したなと思うのはコイツの面の良さだ。
日本人形のような切れ長の瞳の涼しげな美形。今までは頭に「残念な」が付いていたのに、今では「完璧な」が付く美形になってしまった。ずっと弟や妹の面倒を見てきたから、自分が育て上手なことをうっかり忘れていたのだ。
残念な冨岡だったから遠巻きにされていたのに、完璧な冨岡になってしまったからびっくりするほどモテるようになってしまった。バレンタインのチョコは食べきれなくて近くの福祉施設に寄付するレベルだった。あの量は日常からかけ離れていて恐怖だった。
ちらりと視線を下に向ける。冨岡は笑い返してくる。その顔はやっぱり整っている。人の膝に寝転んてむふふなんて笑っているのに顔が崩れないのはどういうことだ。世の中間違ってんだろォ、色々と。
ちょっと苛ついて形の良い鼻を摘む。フゴッと変な声を出して冨岡は咽せていたからちょっと笑える。
「ひどい」
「うるせェ。俺の膝のレンタル料だァ」
「
……
確かに不死川の膝はこの世で一番居心地が良いからな」
「間に受けてんなよ
……
」
そんなくだらないやり取りをして、でも鼻の頭を赤くした冨岡は格好良く見えた。
うっかりにも程がある。俺はうっかり過ぎる。
「不死川」
笑って下から引き寄せられたから、大人しくされるがままに冨岡にキスしてしまった。
うっかり過ぎる。
もう一度キスしておく。
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