燈 ともしび
2026-05-31 21:16:18
1626文字
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ぎゆさね【ご褒美】

キ学軸。可愛い酔っ払いとご褒美

 競争なァ。
 さっきは足元までフラフラしていたくせに、すぐ調子に乗ってそんなことを言う。
 本当に酔っ払いは支離滅裂だ。

 宇髄と煉獄と伊黒と。いつものメンバーでの飲み会は、外で飲んでいるのに家飲みのような安心感がある。だからだろうか。今夜の不死川はいつもよりも飲むペースが早かった。他のメンバーも俺が一緒にいるから大丈夫だろうと遠慮なく酒を注ぐから更に、だ。
 不死川はそれほど酒に弱くはないが、こういう日はビールや日本酒、焼酎にワインとちゃんぽんするから悪酔いしやすい。悪酔いすると甘えたになるしわがままになる。そこがとても可愛いのだが、同時にとても面倒になる。でも可愛い。本当に困る。

「冨岡とォ、家にィ、仲良くゥ帰りまァーす」
 酔ってヘロヘロで、でも俺と腕を組んで笑いながらそんな宣言をするものだから、店を出る時には宇髄や煉獄から
「幸せになー」
 なんて送り出されてしまった。結婚式か。周りに他の客もいたのに困る。
 でも可愛い。困る。俺たちがこうしていちゃつくと伊黒だけは眉間に皺を寄せるが、それはいつものことなので気にしない。俺も店内で散々彼女との惚気話に付き合ったのだからその駄賃だと思って欲しい。

 反対方向になる他のメンバーに手を振り、不死川と一緒に電車で一駅分、酔い覚ましも兼ねて歩くことにする。
 けれど、店を出る時は腕を組んでくれていたのに、歩き始めたらさっさと腕を解いて先へ先へと歩いて行ってしまう。いつも思うが酔っ払いはなぜこんなにも足が早いのか。おまけに帰る方向はちゃんと合っているのだから分からない。

「こっちィ」
 ご機嫌に鼻歌なんて歌って、でも行きたい道は決まっているようなので、指差して進む方へ俺はひたすらに後を追う。今夜の不死川は細い道や階段がお気に入りのようだった。
 家と家の間の、ここは猫ぐらいしか通らないのでは? と思うような細い路地を抜けて出たのは以前にも歩いた記憶のある階段。急だけれど家に帰るのには近道になる階段だった。なるほど、先ほどの路地はここに繋がっていたのかと感心してしまう。
 やっぱり不死川は猫なのかもしれない。白くて可愛い猫。俺の、猫。

 そして階段の前までくると、いきなり上までどっちが早く着くか競争しようぜ、なんて言い出す。この気まぐれさはやっぱり猫に違いない。俺が同意していないのに勝手によーいどん、なんて言って走り出すし。
 そうなると体育教師としては負けられないと俺までムキになる。相手は酔っ払いだし負けていられない。
 が、スタートダッシュしたほうが早くなるのは仕方ない。上に先に着いたのは不死川だった。

「俺の、勝ちィ」
 ひゃひゃひゃとチェシャ猫みたいな笑い方をして大喜びしている。やっぱり猫か。
 俺も少しは酒を飲んでいるから息は切れる。ふー、ふー、と息を整えていると
「なァ、勝ったご褒美はァ?」
 なんて言ってくる。いつの間にそんな話になっていたのか。
……ご褒美?」
「俺の勝ちだぞォー」
 ご褒美、ねぇ。息も整ったのでまだ笑ってる不死川と向き合う。
「分かった。いいぞ。ご褒美。なんでも」
「なんでもォ?」
「うん。なんでも良い」
 不死川が可愛いから俺は甘い。口に出して言わないが、どうせ不死川本人にもバレていること。
「アイスにするか? それとも追加でビールでも買って飲むか?」
 この先にはよく立ち寄るコンビニもある。そこで買えるものならなんでも買ってやる、そんな気持ちだった。
 どーしよォっかなァ。
 ひゃひゃとまた嬉しそうに笑って。でもその後はしばらく黙り込んで考えている様子で。目を閉じて、顎に手を当てて。
「決めたァ」
 ってまた笑って。

「冨岡がいい」
 って。腕を広げてくるから。

 堪らなくなってその身体をぎゅっと抱きしめた。
 腕の中で不死川は
「ご褒美ィ」
 と嬉しそうにまたひゃひゃひゃと笑っていた。