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燈 ともしび
2026-05-31 21:01:59
2216文字
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ぎゆさね【熱々をどうぞ】
キ学軸。記憶にありません
「記憶にねェ」
「いや、そんな政治家みたいなこと言っててもさぁ、こうして動画に残ってんのよ」
「キオクニアリマセン」
「往生際が悪過ぎる」
どっとその場は盛り上がる。けれど俺の顔は熱いし、汗はダラダラと止まらないしで最悪だった。
いつも通り週末に宇髄が飲み会を開いて、特に用事も無かったので参加した。で、楽しく飲み食いして終わった。それだけの事だと思っていた。いつも通り。
けれど確かにその日は飲み過ぎたなと自分でも自覚はしていた。何故と言われたら浮かれていたからとしか言えない。そう、浮かれていたのだ俺は。
「好きだ」
ずっと片思いをしていた冨岡から突然そう言われた。二人で飯を食いに行った帰りのことだった。
冨岡と行事担当で組むことになり、打ち合わせも兼ねて一緒にいることが増えた。報われないであろう片思いをしていた俺はそんなことでも一人ではしゃいだ。やったーとか柄にもなく思って帰宅後には万歳までしていた。付き合えるなんて思っていなかった。同性相手の片思いなんて不毛の極みだから自分の心の中だけで留めておくつもりだったのだ。
それなのに、冨岡もずっと俺のことが気になっていたらしい。二人で飯を食べて、軽く飲んで。楽しい時間の帰り道に向こうから告白された。青天の霹靂とはこのことだ。
すぐに俺も冨岡が好きだと告げた。冨岡は目をまん丸にして驚いて、その後は顔をくしゃくしゃにして泣き笑いをしていた。人目が無かったら抱き合って喜んでいたかもしれない。俺も泣き笑いだった。嬉しくて幸せだった。
「今度は同僚としてではなく、恋人として二人で出かけよう」
その日の別れ際、そんな約束までしたのに浮かれない訳がない。
タイミング悪く冨岡が顧問をしている剣道部が遠征になってしまったのでその約束は当分お預けになってしまったのだけれど、巡らせた辺り一面薔薇色に見える。そんなくらいに俺は浮かれていた。そしてそのまま宇髄の飲み会に行って、浮かれて飲み過ぎてしまった。ら、記憶に無いが、俺はどうやらやらかしたらしい。
飲み会で飲み過ぎてもいつもなら部屋の端っこで寝るくらいのことしか起こらないのに、その日の飲み会では俺は宇髄や伊黒がいる前で
「冨岡がいかに格好良くて大好きか」
を俺は延々と語った
……
らしい。
最悪なのはそれを宇髄がスマホで録画していたことだ。素早くて凄えな、宇髄。最悪だテメエは。
とことんまで記憶にないと半分本当、半分羞恥ですっとぼけるつもりだったのに、再度開かれた飲み会でその録画がみんなの前で披露されてしまったのだ。
しかも今夜は遠征戻りの冨岡も参加していた。冨岡と俺が付き合っていることは皆に内緒だったから、宇髄に『冨岡お疲れ様飲み会』に誘われても断れなかった。明日、二人でデートしよう、そう約束して今夜の飲み会に参加したらこれだ。
「実弥ちゃん、物的証拠はあんのよここに。そろそろ吐きなよ」
「そうよ。恋って素敵なことよ?」
ニヤニヤ顔の宇髄とキラキラした眼差しの胡蝶に囲まれ、俺は逃げ場がない。冨岡も冨岡で伊黒にジト目で見られて困惑している。なんだこれ。
「本当はさ、ちょっとショックなんだからな」
「
……
何が」
宇髄は俺の肩に腕を回すと自分のほうに引き寄せてくる。俺は宇髄がなんと言ってくるか読めなくてされるがままになるしかない。
「冨岡と実弥ちゃんが付き合ってるって教えて貰えないってさ、俺らはそんなに信用されてないのかって」
宇髄は本当に悲しそうな顔をするから俺も罪悪感が出てきてしまった。こいつのこういうところ、ずるいんだよなァ。
「いや、そうじゃなくて」
違う。本当に信用してないとかじゃないんだ。そこの誤解は解きたいのだが、うまく言葉が出てこない。一杯目からワインとか飲んじまったのは失敗だった。どう言おう。揶揄ってきたりはされるが、人としては信用しているのだ、今夜の面子を。
伝え方をしばらく考えていたら、いきなり身体が反対方向に引き寄せられる。胡蝶までかよ、そう驚いてそちらを見ると、そこに居たのは胡蝶ではなく冨岡だったので更に驚いた。
「それについては俺も共犯だから不死川にだけ圧をかけないてくれ。あと宇髄」
「なによ」
宇髄はちょっとニヤニヤしてる。悪い顔だった。
「実弥は俺の恋人だから他の男の腕の中にいるのは焼ける。あと実弥も俺を褒めてくれるのなら俺に直接言ってくれると嬉しい」
ぎゅっと冨岡が俺の肩を抱き寄せて、更に視線まで合わせて言う。
冨岡の発言に周囲が一瞬静まり返り、そしてその後、
「まぁああああ」
という胡蝶の語尾にハートが付いていそうな高い声でどっと湧いた。
なんだこれ。
なんなんだよ、これ。
なんか宇髄と胡蝶は大喜びして乾杯しているし、伊黒は光線でも出そうな勢いの忌々しい顔で冨岡を睨んでるし、冨岡は涼しい顔して俺を抱き寄せてるし。
なんで。
なんで俺だけ顔が真っ赤で羞恥でぶっ倒れそうになってんだよ
……
。さっきのシリアスな雰囲気はどこいったァ。
空気を読まない店員までもが
「熱々の山芋鉄板焼きお待たせしましたー!」
なんて部屋に持ってくるし。
なんだこれ。
本当、勘弁してくれ。
恋に浮かれていても恥ずかしいもんは恥ずかしいのだ。俺はその夜、改めてそう自覚したのだった。
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