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燈 ともしび
2026-05-31 21:00:55
1731文字
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ぎゆさね【ぎゅっ】
キ学軸。寒くても暖かい
今日は吐く息が白くなるくらいに寒くて、コートを着てから厚めのマフラーを顔の下半分まで隠れるようにぐるぐる巻きにした。
職員室を出る時、厚着の俺が珍しかったのか宇髄が笑っていたがそのまま気にせず手を挙げて挨拶をしておく。普段は首元を開けておきたいが、流石にこれだけ寒いと俺だって寒い。笑いたければ笑え。風邪をひくよりマシだ。
最寄駅で降りたら自宅までの道を足早に歩く。気温は低いけれど風がないのが救い。
まだ日は完全に落ちていないが、寒さゆえか通りの公園には人影がない。ここは休みの日になると親子連れで賑わっているから少し寂しげに見える。
春になると可憐なピンクで公園を彩る桜の蕾もまだ硬い。去年はここで冨岡と花見をした。のんびり穏やかな春の日だった。
「また来年も」
ふにゃっと幸せそうに笑うから俺も笑ってゆびきりげんまんをしたんだった。
寒いとつい、昔思いに浸ってしまう。
途中にあるスーパーに寄ってビールと適当につまみを買う。本来なら今日だって休みだったのに急遽出勤したのだから今夜は飲んでも許されるはず、といつもより高めのビールをカゴに入れた。夕飯は不要だからそれだけを買ってまた家路を急ぐ。スーパー内が暖かかったので外との気温差が先ほどより強く感じ、マフラーをもっと強くぐるぐる巻いた。多分鼻の頭が赤くなっているだろうなと思う。
さむさむ、と心の中で呟きながらひたすらに足を動かして、ようやく自宅マンションが見えてくるとホッとする。
ビールとつまみが入ったエコバッグをガサガサ言わせながら、運動も兼ねてエレベーターではなく階段を選んで上がった。5階くらいならちょうど良い運動になる。もっとも、この後のビールで帳消しになるかもしれないがまあ良しとした。
カバンから鍵を取り出して自宅ドアを開けると中からは微妙に外れた鼻歌が聞こえてくる。気に入ってずっと聴いているのに鼻歌は下手くそなままだ。
ぐるぐる巻きにしていたマフラーとコートを脱いで玄関ラックに掛ける。こいつらはここでお役御免。
エコバッグだけを持ってキッチンに向かうと物音で気付いたのか冨岡が振り返った。
「おかえり」
「
……
ただいま」
その顔は去年花見をした時の嬉しそうな顔とおんなじ。なんだかくすぐったくて、広げられた両腕の中へと飛び込んでみる。
ぎゅっ。さっきまで巻いていたマフラーみたいに冨岡に抱きつく。するとぎゅうぎゅうに抱きしめ返される。
「なァ、今日の晩飯なに?」
「ポトフを作った。早めに作り始めていたのに野菜を大きく切り過ぎてなかなか煮えなくて。さっきようやく煮えた」
「いいよ。冨岡の作るポトフ、噛みごたえあるから」
割と好き。
好き、にアクセントを込めて言えば
「好き」
冨岡は嬉しそうに好き好き言ってきて俺におかえりのキスをくれた。察しの良い奴は俺も好きだぞ。
「鼻の頭が赤い。寒かったか?」
「うーん。さっきまでなァ」
「今は?」
「こんだけくっついていたらぽかぽかだ」
笑いながら抱きつく腕の力を強めると冨岡の抱きしめる力も強くなる。
ぎゅうぎゅう。やっぱりこいつのこと好きだなァと思って幸せになる。
「こうしているのは大好きだが、早く食べよう。お腹空いただろう」
「うん。ビールとつまみ買ってきたァ」
「ありがとう」
名残惜しくもう一度キスをしてから身体を離す。ちょっと寒い。早く愛情たっぷりのポトフを食べないと死んでしまう。
冨岡は俺を椅子に座るよう促すと、深めの皿にポトフをたっぷりよそってきてくれた。そして下に置いたままだったエコバッグからビールを取り出す。
「美味しいやつだ」
嬉しそうにまた笑う。
知ってる。高いけど前に飲んで冨岡が気に入ってたやつな。知ってた。だから買ったんだよそれ。
「恋人を酔わせようと思って」
含み笑いをすると、冨岡はビールを仕舞ってそのままこちらまで歩いてくる。
「酔って、理性が飛んだら責任をとってくれるのか?」
冨岡も含み笑いをするから、その頭を抱え込んでキスした。
ポトフ、冷めちまうな。
そう思っても冨岡とのキスが大好きだからしばらくやめられなかった。
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