ふー、と思っていたよりも大きめのため息が口から漏れる。持ち帰り仕事に煮詰まっていい加減目も腰も痛くなってきた。こうなると集中力も切れてしまうから一休みするしかなくなるのだ。
こんな時はとっくに辞めた煙草に手を伸ばしてしまいそうになる。二人で暮らす時に辞めたからもう手元にはないのだけれど、習慣とは恐ろしいとしみじみ思う。
多分、あのまま一人でいたらきっと今も吸っていたに違いない。
『キスが苦いのはごめんだなァ』
笑いながら恋人がそう言うからすぐに辞めた。口寂しいのならいくらでも俺がキスしてやる。そんな口説き文句を言われたら禁煙なんて簡単だった。
少し目を閉じたり伸びをしたり。
それでも遠ざかった集中力は戻ってくる気配がない。諦めてコーヒーでも淹れようとキッチンへ向かえば、同じように疲れた様子で部屋から出てきた恋人から「俺にもォ」と声がかかり、片手を挙げて了解と伝える。
俺よりも煮詰まった様子の恋人には砂糖とミルク多めのカフェオレを。自分には目が覚めるような濃くて苦目のブラックを。
コーヒーをドリップして淹れるのは手間がかかるが、その分美味しいし淹れる作業が良い気分転換になったりもするから割と好きだった。これも二人で暮らすようになってから気付いたこと。
大きめのマグカップを持って近寄れば、嬉しそうに両手で受け取る不死川が可愛い。だからつい不意打ちでキスを落とす。これは可愛いからしてしまった愛情表現。
「珈琲のご褒美もくれ」
これは労力の対価をねだる俺のわがまま。
不死川は一瞬惚けて、それでもイタズラっ子のように笑ってキスをしてくれた。
「甘ったれ」
事実だから俺も笑って受け取る。でも甘ったれで良いと許してるのは不死川だ。なんせ俺を甘やかす天才だから。
「では、もうちょっと甘えても良いか?」
「あー?」
恋人の手からマグカップを取り上げて自分の膝の上に載せる。俺は猫じゃねェぞ、なんて言い返されたが、反論せずに顎の下をくすぐると色気混じりににゃあと鳴いた。猫じゃないんじゃなかったのか。可愛い。
逸らされた喉元にも唇を寄せると、不死川はまたにゃあと鳴いた。ほら、また俺を甘やかす。
だから俺もつけ上がって、その甘い身体をソファーへと押し倒した。
「甘ったれ」
二回目の甘ったれはさっきよりも甘く響く。
甘い、甘い。俺の。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.