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長月ユウ
2026-05-31 20:51:57
4071文字
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庶莉
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言えない話
莉杏と軍師二人による、徐庶には内緒の密談に巻き込まれる石韜と李典の話。石韜視点。
別にこんな相談しなくても……というネタではあるのですが、書きたかったので書いた。
※「またこのパターンか」な描写があるので、食傷気味な方はブラウザバック。
朝、密命で許都周辺に散らばる間者の始末に向かった徐庶と紫鸞を見送った石韜は、李典と共に書庫で書物を漁っていた。
「しかしまあ、殿の暗殺計画実行のためか何なのか、間者がやたら入って来てねーか?」
「ああ。多分、西涼以外の国から寄越されてるのも含まれてる。城内にいた奴らは片づけたらしいが、俺の勘だとまた放り込んでくるだろうな。何せここには
……
」
棚から取り出した書物から目線を上げた李典が固まるのを見た石韜が、彼と同じ方向に視線を向ける。
そこには、西涼から来た埋伏の毒
……
莉杏が立っていた。
「あの
……
李典殿と、石韜殿
……
ですよね?」
不安げに聞いてくる莉杏に驚きつつも、二人は莉杏のもとに歩み寄る。
「そうだけど、徐庶殿なら紫鸞と一緒に外出してるぜ」
「はい、昨日徐庶殿から聞きました
……
だから、今しかないと思って、徐庶殿と親しげに話していたお二人に会いに来たんです」
「アイツに知られたら、何かマズいことでもあんのか?」
莉杏はコクリと頷く。
「
……
徐庶殿抜きで、軍師の方々か曹操殿に相談したいことがあるんです。お話させてもらうことはできませんか?」
李典は戸惑いつつも、
「殿にいきなり通すのは厳しいな
……
とりあえず、軍師殿たちのところに連れてってやるわ」
手にしていた書物を元の位置に戻し、石韜と共に軍師うちの誰かがいるであろう議場へ莉杏を導いた。
議場の扉を開けると、こちらに気づいた賈詡と郭嘉がこちらへ目を向ける。
「おや、李典殿に石韜殿。何かあったのかな?」
「俺達じゃなくて、彼女が「徐庶殿以外の軍師殿たちと相談したい」って言うんで、連れてきたんですよ」
李典に促され、莉杏が前に出る。
「徐庶殿が留守にしている今しかないと思って、二人にお願いしました
……
話を、聞いていただけないでしょうか?」
「荀彧殿と荀攸殿は生憎留守にしているが、俺達だけでいいなら聞こうか」
賈詡が言うと、莉杏は頷く。
「
……
じゃ、俺たちは出て行った方がいいですよね?」
「それは莉杏次第じゃないかな?」
郭嘉が莉杏に目を向けると、
「構いません。むしろ、話を聞いてくれる人は多い方がいいです」
石韜と李典は互いを見やり、それならばとその場に留まった。
「さて、徐庶殿を通さずに私達に会いに来たと言うことは
……
彼には言えない悩みがあるのかな?」
郭嘉からの問いに、
「
……
徐庶殿から、私の両親の暗殺に馬岱様が加担していると聞かされました。でも、私はまだ、それが本当だという確証を得られていません」
四人からの視線にたじろぐこともなく、莉杏は言葉を紡ぐ。
「もし両親を殺したのが馬岱様でなかったら、私は彼から離れられないかもしれない。その時は、馬一族と一緒に私を殺してほしいんです」
その場にいた全員が一瞬目を丸くした。
「ちょっと待て。あんたは西涼を裏切るために徐庶殿についてきたんじゃなかったのかよ!?」
僅かな沈黙の後、まず口を開いたのは李典だった。
「
……
私の両親は、曹操殿の暗殺計画に加わるのを断ったために馬一族に殺されています。私も同じ道をたどるはずでしたが、助けてくれたのが馬岱様でした」
莉杏の身体が、微かに震える。
「自分の立場を危うくしてまで、私を匿ってくれた彼に報いるのが
……
私の全てを捧げるのが正しいと思っていました。辛くても痛くても、彼に求められるのならば、必要としてくれるのならそれでいいと」
だが、そんな彼女の前に徐庶が現れた。
「けれど、徐庶殿は「それはおかしい」と、「彼のために心も身体も擦り減らしてまでそばにいるべきではない。それは君自身が一番わかっているはずだ」と諭してくれて
……
」
「あははあ、それで正気を取り戻して、西涼から逃げると決めたのか。あの徐庶殿が、そこまであんたに親身になるとはね
……
どんな色仕掛けをしたのやら」
賈詡の意地の悪い質問に、莉杏は首を左右に振る。
「そんな事はしてません!徐庶殿は、他の人のように私の身体を目当てにしたり、馬一族とつながるための踏み台にしようとしなかった。こんな私の事を、ずっと気にかけてくれて
……
」
当たり前だよと、石韜は心の中でつぶやく。
莉杏を助けることが、何らかの形で劉備に不利に働くかもしれないとわかっていてもなお、鳥籠に閉じ込められている想い人と、今の主君である曹操の危機を救う事を選んだのだ。
だが、莉杏が最終的に馬岱の元に残る事を選んだら、徐庶は彼女を見逃してしまう事を、その場にいる全員が口に出さずとも理解しているのも事実である。
「徐庶殿や、皆さんには最後まで協力します。だけど、私が馬一族の元に残ると決めた時は、私の命と引き換えに、徐庶殿を咎めることをしないでください。どうか
……
!」
懇願する莉杏に対し、賈詡は品定めするような目つきを緩め、
「
……
まあ、それを決めるのは俺達じゃなくて、曹操殿なんだがね」
顎髭を擦りながら苦笑しつつ、郭嘉にどうする?と視線を向けて促す。
郭嘉は面白そうに口角を上げ、莉杏に向き直った。
「賈詡の言う通りだ。けれど、あなたの思いも無下にしたくないし、それほどの覚悟があるなら、こちらとしても悪い賭けじゃない。曹操殿にあなたの意向を伝えて、あなたがこちらに戻らなかった場合の措置も考えておこう。それでいいかな?」
郭嘉の問いに、莉杏は緑色の瞳を微かに潤ませて、深く頭を下げた。
議場から出た三人は緊張の糸が切れたのか、ふぅ
……
と息を吐く。
「これで気は済んだか?」
「はい。李典殿、石韜殿、ありがとうございました」
李典は軽く頭を掻き、
「なんか、とんでもない話を聞かされちまったが
……
あんたの言ってることが嘘じゃないってのはわかる。あんたを殺すのは、現実になってほしくないけどな」
石韜も意を決して口を開く。
「あー、多分莉杏は知らなかったかも知れねえが、俺は元直の同僚だけど一番の友でもある。アイツとは同郷で、古くからの付き合いなんだよ」
「じゃあ、今の話は
……
」
不安げな表情を浮かべる莉杏を安心させるように、石韜は言葉を遮る。
「元直には黙っててやるよ。けどな、万が一アイツを裏切ったら、例え恨まれてでも俺はアンタを始末するからな」
莉杏は石韜と目を合わせ、頷いた。
「
……
とまあ、今の元直は大人しそうな面と態度をしてるが、昔はけっこうやんちゃしてたってわけだ」
「ほんとですか? 全然想像できないです
……
」
楽進から書物選びに誘われた李典と別れ、石韜は莉杏を客人用の邸へ送る道すがら、任侠時代の徐庶との思い出話に花を咲かせた。
……
背後から自分と莉杏以外の、聞き慣れない足音がかすかに耳に入る。
「ホントホント。あと、俺に敬語なんて使わなくていいぜ。ただでさえ知らない土地に来てんだし、ずっと気を張ってても疲れるだろ?」
莉杏を気遣いながらも、石韜は視線だけを動かした。
「でも
……
」
「別に怒りゃしねえから、な?」
邸の門をくぐってからずっと抱えていた違和感が消えない原因を、視界の端に捉えた。
「はい
……
あ、うん。ありがとう、石韜殿。さっき郭嘉殿と
……
っ!?」
邸が見えたところで石韜は唐突に莉杏の手を引いて物陰へ連れ込み、抱き寄せた。
「なっ
……
」
「黙ってろ」
石韜はピシャリと言い、
「いきなり悪ぃ
……
さっきからずっと、俺達の後をつけてる奴がいる」
「っ!?」
小声かつ早口で莉杏に囁く。
「あらかた排除したハズなのに、まだいやがるのか
……
。さっきの密談がバレたらマズい、演技するから合わせてくれ」
できるか?と石韜が問うと、莉杏が「わかった」とつぶやく。
「
……
ゴメンな」
それを皮切りに、石韜は莉杏を壁に押さえつけ、首元に顔を近づけた。間者には、石韜も莉杏の身体を欲していると思わせるように。
「やっ
……
やめて石韜殿!」
悲鳴交じりの声で莉杏が声を上げ、石韜を引き剥がす仕草をする。石韜はそれに合わせて飛び退き、苛立たしげな顔をした。
「今更生娘ぶってもおせーよ。さっきまで軍師殿たちに回されて、善がってたくせに」
莉杏が頬を赤くしているのにも構わず、畳み掛ける。
「どうせ西涼でも、元直にああやって言われるがままに抱かれてたんだろ?」
莉杏が石韜をキッと睨みつけた。
「徐庶殿は、あなたたちみたいな人じゃない
……
!」
「任侠時代に女遊びをしていたアイツが、こんな据え膳食わねえわけがねえだろ。まあいい、今日のところは許してやる
……
元直に言ったら、わかってんだろうな?」
莉杏が無言で石韜の脇を走り抜け、邸の扉を勢いよく閉めた。
石韜は聞こえるように舌打ちをし、踵を返す。そのまま自宅へ戻らず、城下の雑踏に紛れ込み、間者の視界から姿を消した。
「はぁ
……
」
石韜は路地裏に入り、冷や汗を拭う。
「上出来、上出来
……
にしても、我ながら悪役の演技が上手くて嫌になるぜ。元直に見られてたら、本気で俺を殺しにかかってたかもな」
莉杏の言う通り、徐庶は莉杏が馬一族の元に残っても彼女を殺す事は出来ないが、石韜に対しては本気で剣を抜くだろう。そうでなければ、一番の友の名が泣く。
(
……
あの目、演技じゃなくて本気で怒ってたな)
先刻の下品な問いに対し、睨みつけた莉杏の瞳を思い出す。あの表情からすると、徐庶は本当に莉杏に手を出していないし、莉杏も本気で徐庶の事を守ろうとしているのが伺える。
「元直には勿体ねえくらい、いい女じゃねえか。アイツが惚れてなきゃ、口説いてたかもしれねえわ」
軽口を叩きながらも、石韜は思考を巡らせる。
(それにしても、馬岱って奴が莉杏と想いを通わせてるって聞いてるが、女を武器にした行動も強いてるくせに、間者のような使い捨てにする気はないのがわからねえ。明確な答えは出ないだろうが、元直にちゃんと聞いてみるか)
石韜は再びふうと息を吐き、任務を終えて戻ってくる友たちを労うための酒を吟味しようと、再び雑踏の中へ向かった。
end.
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