燈 ともしび
2026-05-31 10:59:27
2313文字
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ぎゆさね版ドロライお題:【星明かり/隣】

キ学軸。甘め

「お疲れ様」
「お疲れェ」

 体力とか溜め込んだ仕事とか。色々考えて平日はあまり飲まなくなったが、週末になると少しだけ酒に酔いたい日もあって。
 それなら今日は二人で家で乾杯しよう。冨岡が笑って提案するから全力で乗っかることにした。

「ずっと冨岡はあんまり酒が好きじゃないと思ってた」
「なんで」
「だって、職場の飲み会の時とかつまみは黙々と食うくせに酒は乾杯の一杯目くらいしか飲まなかっただろ。だからあんまり好きじゃないのかと」
「あー……
 先ほど乾杯の掛け声と共に俺が開けたのは缶ビールだったが、冨岡は赤ワインだ。流石にボトルごとじゃなくグラスに入れてるが、度数が割と高い辛口のやつ。俺はまだ一缶目を飲み終わっていないのに冨岡は顔色一つ変えずに二杯目をグラスに注いでいる。
 付き合い始めて二人で飲みに行くまで冨岡がこんなにも酒に強いとは思っていなかった。
「隠してたのか」
「違う……が、違くないかもしれない」
「どっちだよォ」
 つまみ用にと急いで用意した野菜の浅漬けが意外と美味しくできていて箸が止まらない。ぽりぽりとセロリの浅漬けを齧りつつ、冨岡にツッコミも忘れない。
 付き合うまで俺のことを好きだと全力で隠し通していたような男だ。まだ俺に話していない事がある気がしてならないので時々こうやってツッコミをしている。

「不死川は」
「うん」
「酒が好きだろう。弱いが」
「うるせェな。酔っていてもいつもちゃんと家に帰れていたんだから放っておけよ」
「それなんだ」
「あ?」
「不死川が家にちゃんと帰れるか不安で俺は酒を控えていたんだ」
……あ?」
 冨岡は三杯目をグラスに注いでいた。ペースが早過ぎる。俺はやっと一缶目が無くなりそうになったので冨岡の話を手のひらで一度静止してから冷蔵庫に取りに行く。
 リビングに戻ると、ソファーに座っている冨岡が両腕を広げて待ち構えていたのでまァいいかとその腕の中に収まってやった。分かりやすく冨岡の機嫌が良くなったのでついでにキスも追加してやる。
「セロリ……
「美味い」
「俺は香りが強いのはあんまり」
「我慢しろよ。キス好きなくせに」
「うん」
 先ほどからハマってるセロリの浅漬けは冨岡には不評だ。キスしたら匂いか味がしたらしい。面白い。アルコールが入ると笑上戸になるからケラケラと笑ってやった。

「続きィ」
「ああ」
 抱っこされながらも冨岡の顎にある、うっすらとした髭の剃り残しを指で突ついて話の続きを促す。嘘は許さねェから全部吐け。
「好きな人が無事に家に帰り着けるのかが心配で俺はあまり飲まないようにしていた。で、店を出たらいつもこっそり不死川の後をつけていたんだ」
「はァ? あの頃、俺んちと冨岡の家は逆方向だったろうがァ」
「うん。だから心配で後を付けていた」
「うわ、キモイ」
「俺もそう思う」
 自分で肯定すんなよ。またケラケラと笑う。

「不死川は酔うと笑上戸になってなんだか可愛くなるし、不死川の家の最寄駅は繁華街でキャッチとかも多かっただろう。ほいほい連れて行かれたらと思ったら心配でそうなった」
「ちっとも可愛くねェだろう。見た目厳ついアラサー男だぞ。恋は盲目でおかしくなってたんか」
「不死川は可愛いぞ。少なくとも俺はそう思う」
「あ、りがとうな」
 冨岡が真顔で言ってくるからなんて返したら良いのか分からなかった。顔色が変わらないだけで実はもう酔ってんじゃねェかなこいつ。

「そんなことを何回か繰り返していたら、不死川の家の近くで突然振り返られたんだ」
「へ?」
 そんな事があったか? 思い出しても記憶にない。よほどその時酔っていたのか。
「なァ、上見ろ上。星がめちゃくちゃ綺麗だなァ」
「あ?」
「不死川は俺にそう言って笑ったんだ。星? と思いながら上を見たら住宅地で明かりが少なめだったせいか本当に星が綺麗で驚いた」
 いや、マジで記憶にない。なんだそれ。変な奴は俺じゃねェか。
「で、俺が本当だって返したら不死川が」
「俺が?」
「だろう? お前は見る目があるなァってくしゃっと笑って、その顔がとても可愛くて。その時決めたんだ。不死川に絶対に好きだと告げようと」
「うえええええ」
 記憶にない。話を聞いても思い出せない。何やってんだ過去の俺は。
「まあ、受け入れて貰えるまで一年かかったが」
「そりゃあ昨日まで単なる同僚としか思っていなかった男から好きだって言われても無理だろ」
「うん。だから諦めなかった」
 ぎゅっと抱き寄せられている腕に力が込められる。
「いつか隣で星を見たかった。一緒に酒を飲みたかった。一緒に家に帰りたかった」

 今は全部叶ったから俺はとても幸せなんだ。

 冨岡は俺の胸元に顔を埋めて嬉しそうに笑っているから俺も冨岡の頭を抱きしめる。

「なァ、どこだったか日本一星が綺麗なところあるらしいんだけどよ」
「うん」
「そのうち休み合わせて行くか」
「いいな。その時は手を繋いでくれるか?」
「ガイドとか他の旅行者がいなかったらなァ」
「暗いからバレないだろう」
「いや、星明かりって意外と暗くないんじゃねェかな」
「じゃ、こっそり繋ごう」
「話をきいてたかよ」
 ぎゅっと抱きしめあったまま、くすくすと笑う。

「まあ、旅行なら手ぐらい繋いでやるよ。特別なァ」
「不死川は優しいな」
「今頃気付いたのかよ」
 笑いながら目が合って、今度は下から掬い上げるように冨岡からキスされた。
「セロリ」
「たくさん食べたから諦めろォ」
 俺は顰めっ面の冨岡を見ながら笑いが止まらなくなった。