燈 ともしび
2026-05-31 10:58:03
2291文字
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ぎゆさね版ドロライお題:【〇〇のせい/気になる】

DDパロ。

 冨岡義勇とは同じクラスなのにあまり話したことがない。

 俺は授業が終わればすぐに帰らなければならない。家は母子家庭だし、まだ小さくて手が掛かる弟や妹が六人もいるのでやることが山ほどあるのだ。だから部活に入っている余裕なんてなく、もちろん帰宅部。
 逆に冨岡は剣道部のエースとして県大会優勝とかしているようなバリバリの体育会系なので、元々の生活が合わない。奴が寡黙で他人と関わらない性格なのも一因だろう。だから、クラスメイトだというのにそれほど接点が無かった。
 
 その日も冨岡とは一言も話さずに一日が終わった。それも別にいつものことだ。俺も特に何も気にしていない。
 ただいつもと違ったのは、末の弟を迎えに保育園に行かなければならなかったので少しだけ近道をしようと普段は通らないルートで帰ることにしたことだけ。そこは体育会系の部活棟が並んでいる場所でいつもは足を踏み入れない場所でもあった。裏門から出た方が保育園に近いからと選んだ道。ただそれだけだった。

 駆け足で通り抜けようとした時、たまたま後ろ姿が目に入って、それがたまたま冨岡だった。
 剣道部だからか冨岡はとても姿勢が良い。だから余計に目が吸い寄せられたのかもしれない。そして冨岡が一人では無かったことが更に俺の気を引いた。普段なら気にも留めないのにその日は何故か気になって足を止めてしまった。

「あの、先週の剣道部の試合を見てからずっと冨岡君のことが気になっていて、その、良かったら私と付き合ってください」
 冨岡は女からの告白の真っ最中だった。あの女は確かクラスは違うが、とても可愛いと評判だった奴な気がする。俺はやる事が多過ぎて異性に興味が無いから気がする程度でしか覚えてないが、今見てる限りではまあまあ可愛い、気がする。
 そんな女から告白されるくらいだ、冨岡はモテるのだろう。背も高くて剣道部のエースで、思い出す限り顔もまあまあ整っていた気がするし、それならモテるか。
 ここからは後ろ姿しか見えないので冨岡がどんな表情をしているのかは分からないが、流石に可愛い女から告白されたら無表情がデフォルトなあいつもニヤけたりするんだろう。そんな下世話なことまで考えてしまっていた。
 さっきまでの興味は綺麗に消えたのでまた裏門目指して走り出そうとした。そんな時。

「悪いが、付き合えない」
 おや? と思う。断るのか。意外だ。
 下世話な予想とは違う展開に再び足を止める。

「え、なんでですか? めちゃくちゃ好きなんです。諦めきれないので理由が知りたいです」
 弱々しそうな見た目とは裏腹にずいぶんと強気な女だなァと少しゲンナリする。元々女はうるさいから苦手だが、こういう性格の女は更に苦手だ。疲れるから。ちょっとだけ冨岡に同情してしまう。絶対に簡単には解放してくれなさそうで。

「好きな人がいるから付き合えない。それだけだ」
 静かに、でもきっぱりと返事をすると相手の女はプライドを傷つけられたと思ったのか顔を真っ赤にしている。多分今まで振られたことなんてないんだろう。
 これは更に面倒なことになりそうな。こんなプライド高そうなタイプはもうちょっと言い方考えれば良いのになんて他人事だからこそ思う。
 そういえば冨岡は口下手なんだった。
 以前に一度だけ話しかけられた時、覚えてないが何か言われてちょっとムカついて、でも口論になるのもと思い、人とコミュニケーションを取りたいなら少し言い方を考えた方が良いぜと言った。これからもそんなんじゃ人生損するからと。
 冨岡は目を丸くしていたっけか。その後は俺も積極的に関わろうとしていなかったんだった。そんなことを思い出した。

「そんなの納得出来ないです。付き合ってみたら私のことを好きになるかもしれないじゃないですか!」
 うわァ、マジで面倒な女だ。冨岡、頑張れ。モテる男は大変だ。
 キーキー声を聞いているだけで頭痛がしてきそうなのでさっさとその場を離れることにした。
 なのに、冨岡の返事が聞こえてきてまた足を止めてしまった。

「俺の好きな人はとても優しい。自分のことを後回しにして弟や妹の面倒を見ている。おまけに口下手な俺のことを思ってちゃんと叱ってくれたんだ。その時から俺はその人しか好きになれない。優しくて尊敬できる人だ。多分これからもずっと好きだ。だから君とは付き合えない」

 そこまで言われた女は「最低! ばか!」なんて捨て台詞を吐いて走り去っていった。最後まですごい女だとある意味拍手してやりたくなる。
 それに冨岡は普段あんまり喋らないくせにこんな時はたくさん話すんだな、なんて感心までしてしまう。何目線なのか分からないが、俺はなんとなく告白の一部始終を見届けてしまった。
 よせば良いのにそのまま後ろ姿を見つめてしまっていたから、不意にこちらを振り返った冨岡と目が合った。

 バチっと。
 音がしそうなくらいにぴったり目線が重なる。
 俺は驚きで目を丸くしていたが、冨岡は何故か顔を赤くしている。
 え、なんで。
 そう思って。
 すごい勢いでさっきの冨岡の返事が頭の中を駆け巡った。
 弟や妹の面倒を見て、冨岡の口下手を叱った。
 それが冨岡の好きな相手。

 あ?
 ぐるぐる思考が回って。答えが出るのが怖くなって。頭ではそう思っているのに回答がひとつしか浮かばなくて。
 真っ赤な顔をしてこちらを見てくる冨岡を眺めながら、何故か俺まで顔が熱くなってきていた。
 
【恋のせいで単なるクラスメイトだった奴が気になる】