fedge
2026-05-31 10:35:44
1315文字
Public カピオロ
 

260531ワンライ「雨宿り」


「雨の匂いがする」

 オロルンがそう漏らしてから一刻も経たないうちに、ぽつりぽつりと雨粒が地面を打った。それはすぐに激しさを増し、ざぁざぁと音を立てて、辺りが白むほど降り注いだ。
 地脈の再構築を行うべく、龍の時代の遺構を調査していた『隊長』とその部下、そしてオロルンは、いくつか空いていた小さな洞にそれぞれ身を寄せて、雨やみを待つこととなった。

「この辺りの地面は雨が降ると緩むんだ。これだけ降っているのなら、今日明日はここでの調査は止めておいた方がいい。雨が止んだら、足元に注意しながら引き返そう」
「俺も同意見だな。お前から聞いていたこの辺りの地形情報を加味すれば尚のこと、足場が不安定な状態での調査は危険だ」

 雨音に掻き消されないように顔を寄せ、隊長とオロルンは言葉を交わす。近くに大きな穴もあり、もし足を滑らせて落ちれば、屈強なファデュイ兵といえど怪我を負うだろう。雨が上がり次第、少し離れた他の洞で雨を凌いでいる彼らに声を掛けようと決め、二人は一向に雨足が緩む気配のない灰色の空を見上げた。


「隊長、もっとこっちに寄ってくれないか」

 雨音だけが響いて少し経った頃、ふいにコートの裾を引っ張られた。

「君の肩が濡れてしまっている。風邪を引くぞ」

 洞というにはだいぶ狭い空間に、男二人は些か窮屈だった。身を収められているだけでも僥倖と言うべきほどだ。しかしそれであっても、必要以上に距離を詰める必要は無いだろう。協力者であるオロルンに負担をかけまいという意図なのだろうか、隊長は洞の入口にほど近い場所に立ち、まだ少し余裕があるはずなのに詰めようとしない。

「構わない。これ以上身体を寄せればお前が窮屈だろう」
「僕に気を遣っていたのか? それこそ、気にしないでくれ。むしろ僕は君が濡れてしまうことの方が気がかりだ。もし君が倒れてしまえば、この計画の指揮を執る人間が居なくなる」
「俺は風邪など引かん」
「慢心は身を滅ぼすぞ。風邪を侮っちゃいけないって、ばあちゃんも口酸っぱく言っていた」
「お前こそ軍人を侮るな。そんなに軟な身体ではない」

 依然として雨足は強く、顔を寄せないと声すら届かない。必然的に身を寄せる必要が出たこの機を逃すまいと、オロルンは自身の身体に巻きつけるように隊長のコートに潜り込んだ。

「何をしている」
「隙あり、だ。これなら君は濡れないように、ここに入らないといけないだろう。もしまだ君が濡れたいのなら、僕ごと外に出るといい」

 妙案だろう、と得意げに見上げてくるヘテロクロミアの瞳は自信に満ちていた。隊長は大きく溜息を吐くと、上着の上からオロルンの腰を抱き込むように腕を回した。

「ん? どうしたんだ?」
……お前が身を寄せろと言っただろう」

 そのままぐっと身体を引き寄せ、地を跳ねる雨粒さえ当たらないようにと、二人は洞の一歩奥へと身を隠した。

* * *

「おい見えるか、『隊長』様とオロルンが洞の奥に消えたぞ」
「なんか愛しそうに腰を抱いていたな」
「外がコレだし調査できねぇだろ、多分この後は拠点に引き上げだよな。俺ら先に帰ってていいか?」