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ひなげし
2025-12-25 23:52:36
1905文字
Public
狛日
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名付けられないままの箱
本予備(育計軸)/狛日
第77回狛日版週ドロライ「クリスマス」
名前がつけられないままの親愛と愛情と執着のクリスマス小話(ワンライ)
暖色の光に照らされて、それは輝いていた。
特徴的なベルの音や澄んだ音が、テレビの中からしていた。
何度瞬きしても、光も音も変わらない。日向は、口の中で弾ける飲み慣れないスパークリングワインを飲み下してから口を開いた。
「なぁ、狛枝」
「どうかした?」
「
……
こういうの、同棲寸前の恋人とか、新婚の夫婦でやるものじゃないのか」
日向の手の中には、品のいいペアグラスが行儀良く鎮座していた。顎を引き、手の上に鎮座するものからそっと目を逸らす。
この男が差し出すにしては珍しい、何一つ汚れのない包装紙。開けてみれば木の箱が飛び出していた時から嫌な予感はしていた。この男は、どうしたって対人付き合いに疎い節がある。
「さぁ。ボクみたいなクズに、恋人なんていたことないからわからないや」
「えっ、いないのか?」
「いたら一般的にはキミとこの日に過ごせてないんじゃない?」
狛枝が日向の顔を覗き込む。きょとりとした薄灰は、穏やかな色を浮かべていた。
狛枝の言う通りではある。
クリスマスといえば、今この社会において大切な家族や恋人と過ごす日として大きく取り上げられる。そんなイベントだ。
だけど、そうじゃないかもしれない。この男が、大学でクラスの女性に囲まれていたこと。連れ立って歩いていたことを知っている。数日前、日向はその後ろ姿を見送った。
なぜか口にすることが躊躇われる。それに、ちょっとだけ腹立たしい。置いていったのはお前のくせに。わずかに眉が寄る。狛枝が、くすりと笑う。
「ああ、もしかしてあのこと? 勝手に付き纏われて困ってるんだよね。ボクのことなんか放っておいてくれていいのにさ。日向クン、たまにボクのこと待たないで先に帰っちゃってたよね。気にしちゃってた?」
「べ、別にそういうわけじゃ
……
。お前もうまく人とやるようになったなって思ってただけだ」
「へぇ
……
。置いていかれちゃったみたいで寂しいって?」
「あのなぁ、そこまで言ってないだろ」
「それなら、約束してたのに一緒に帰れなかった日の日向クンのメールの返信速度だけどさ」
「もう何も言わなくていいぞ」
日向は慌てて口を開き、被りを振った。しゅうしゅうと、頬が上気していく。恥ずかしいことばかり突いてくる。
「日向クンさ、助けてくれてもいいんだよ」
狛枝が肩をすくめた。
「人と人の間に無理やり入るなんて。なんか、悪いだろ。そういうの」
「才能もない人の、興味のない話に付き合わされるのは退屈だし気にしなくていいのに」
狛枝が吐き出すようにつぶやいた。心なしか態度がやけにそっけなく思える。
口の中が苦い。
「友達の話は興味あるからね」
「まだ何も言ってないだろ」
「言わなくたってわかるよ。そのしょぼくれた犬みたいな顔、何度見たと思ってるのさ。そんな顔しなくても、ボクの話よくわからないって言いながら最後まで聞いてくれるのは、結局は日向クンくらいだよ」
「慣れたからな」
「でも、日向クンが安心するなら、いい子のふりやめちゃってもいいよ」
白い指先が、日向の目の前でくるりと回る。
「
……
それは、好きにしたらいいんじゃないか。お前の人生だろ」
曖昧に首を振り、日向は小さくため息をついていた。
「俺が言うのもなんだけど、お前のセンスもう少しなんとかしたほうがいいぞ。あの人たちみたいに、勘違いされたら困るだろ。こういうのは、もっと軽いのでいいんだ」
「軽い関係なら、軽いものにしたよ」
手首をそっと掴まれる。白い指がぱらぱらと日向の手首に絡んでいく。
いつもより高い体温。絡む肉の感触。酒に浮かされているのか、とろりとした甘い薄灰色の視線。
顔をずらし、顎を引く。アルコールに浮かされたのか、耳元がうるさい。からからに喉が渇いていた。頬が強張って、自分が今どんな顔をしているのかわからない。
「
……
そうか」
「うん」
「狛枝。酔ってるのか?」
「さぁ、どう思う?」
狛枝が、くすくすと笑う。この男は、本当に意地が悪い。
日向は身じろぎを一つし、小さくつぶやいた。
「お前と今年も過ごせて、よかった」
これだけは、本当だ。
これだけは、今差し出せる真実だ。
「うん、ボクもだよ。
……
ねぇ、日向クン」
「なんだ」
「キミの誕生日、誘ったら来てくれる?」
日向の手に、白い手が強く絡む。
薄灰色の瞳が潤む。薄い唇が、強く横に線を引いていた。
強い光だ。
鼓動が胸を打つ。強い光に揺さぶられ、感情の調和が乱れる。熱い血潮が、全身を駆け巡る。
「
……
ああ、もちろんだ」
日向は大きく肩で息をついた。
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