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ひなげし
2024-06-15 15:06:33
2799文字
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ひふど
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卵が先か鶏が先か
お題:血液型
血液型占いで喜んでいるひふみと、リアリストの皮をかぶったロマンチストのどっぽのらぶらぶなひふど。
お題:血液型
「独歩ちん! A型とO型って相性最高なんだって! 知ってた?」
風呂上がりのティータイム。明日の天気を告げて締めの言葉を始めたニュースキャスターを遮るように、一二三が冷えたルイボスティーを飲み干して愉快そうな声をあげた。
「えっと、何だって?」
キャップを開けかけたミネラルウォーターを目の前の低い机に置いて、独歩は一二三に向き合う。
もう梅雨入りらしい。傘はいるんだっけか?
慢性的疲労にとっ散らかる思考が煩わしい。
「だから相性。独歩と俺っち最高なんだって」
「血液型のか?」
「そ!」
およそ四回も初等教育を卒業できるくらい生きておいて、今更小学生みたいなことを言い始めた。独歩は正気のない遠い目になる。
「はぁ〜〜。あのな一二三、血液型の相性だなんて、心理学的には無意味なでっちあげでしかないぞ」
くだらないと一蹴し、隠しもせず独歩はため息を吐いた。
「んなこたねぇって。独歩見てみな? 丸まった靴下俺っちが畳みましたー! あと通販したはいいけど畳んでねーダンボール! 俺っちが畳んで資源ゴミに出しました!」
一二三の手によりたたみたてほやほやの独歩の衣類が、部屋に持っていけと独歩の掌に乗せられる。几帳面に皺なくアイロンをかけられ畳まれたシャツは見事なものだ。独歩だとこうもいかない。一二三から施される愛情に、独歩は眉間に寄せていた皺を少しだけ解く。
「ありがとう、一二三」
「どいたま! っじゃなくて! やっぱ独歩ちんめっちゃO型じゃね? 大雑把で部屋散らかってても気にしないし」
掘り返される話題に独歩の頬が引き攣った。一二三が無邪気に張り付けてくるレッテルに不快感を蒸し返される。
「慢性的疲労や精神的負荷は、常ならできるだろうことであっても、できなくさせていくんだ。人によってはできない状態の自分を認められなくて、自分の身の回りの世話ができる時とできない時の差をズボラなんて揶揄するけどな。それは全人類みんなに当てはまることだろ。誰にだってそうなる可能性はある。決して血液型に由来する行動じゃない。血液型の占いってやつの正体は多くの人間があてはまりそうな特徴をそれっぽく当てはめて、私とあなたは運命だって思い込ませて相手への一方的な憧れを深める一種のスパイスにすぎない。そんなのは詐欺だ詐欺」
「ふーん、独歩は血液型占いのこと無意味だって思ってんだ?」
「そこまでは言ってない。役立つことといえば、せいぜいそうだな。健康診断に引っかかって二次検診に来て採血を嫌がる子どもに好きな子の血液型は何型かな? 血液型占いができるようになるよって子供に勇気を持たせることぐらいだろ」
「どいひー。つか何でそんなリアルなん」
「この間先生がやっていらした。ちなみに今は血液型判定ワンコインでできるらしいぞ」
話は終わったと言わんばかりに独歩は机に置いていたボトルを手に取り、ミネラルウォーターを口に含む。納得いかないと一二三は独歩の瞳を横から覗きこんだ。
独歩の頑なな態度から、開示されていない本音があるのは明らかだ。
「つか独歩さっきから何でそんな辛辣なん。相性いいって言われたらふつーにうれし〜じゃん? 運命みたいって思わねー?」
俺っちと独歩は運命だと思うんだけどなぁ。
独歩と一二三は運命だと思ったから、一二三は嬉しかったのだ。たとえ、血液型占いという形であっても独歩と共にある運命を他者に肯定されたようで、満たされる心は心地よかった。
残念なことに現実と社会に揉まれ裏打ちされてしまったリアリストに片足突っ込んだ男には、ロマンは解せないのかもしれない。一二三は小さく肩を落とす。両思いなのに、一方通行の片思いを味わうことになるとは思わずちょっぴりナーバスな気分ってやつだ。
何をそんなに否定することがあるのか。
開示されない本音を探るのも一苦労だ。こんなこと、しなきゃいいのにと呟く己がいないわけではない。だって、独歩との意見の相違は一二三をごく稀にささくれだった気持ちにもさせる。
それでも、一二三に頑なな独歩がいるのは、心が穏やかにはなれない。そんなことは望んでいない。自分の隣がこの世で一番独歩にとって居心地のいい場所でありたいのだ。
諦めきれない一二三はぷっぷく唇を尖らせる。独歩は少しだけめんどくさそうに頭をかいて、これみよがしに大きなため息をついた。
「
……
はぁ。まあこの国で生まれた以上、血液型が全く性格形成に関わりがないかと言われたら微妙なところだと思う」
「んはは、あんなにディスってたんに」
「血液型に由来すると仮定された性格がこんなに大衆認知化されてるんだ。A型だからしっかりしなきゃ、几帳面でいなきゃって自認して生活している人がいるのなら全く関係ないとはいえない。ただ、俺は違うってだけだ」
全否定からの、一部肯定。
認めたくない気持ちと、世間的に存在を認めている事実。
思慮深くいろんな方向に思考がいく独歩。長ったらしい建前を吐くのは社会人になってからだろうか。ずいぶんと捻くれてしまったけれど、理解を諦めたくない一二三に、独歩は自分の考え方を全て教えてくれる。この男は昔から一二三にいつだって優しい。
一二三の口角は自然と上がっていた。
「ふーん。んで? 本音は?」
ここまでくれば、もう答えは目の前だ。
「
……
血液型なんかにお前との繋がりを委ねられるのはごめんだ」
独歩はそっぽを向いて呟いた。
隠し持っていた本音に一二三は笑みを浮かべた。
やっぱり、独歩は拗ねていた。
「へへ、めんごり」
「
……
俺は一二三の血がどんな型でも、青くても黒くても、
……
お前のこと、好きになったよ」
この気持ちに、運命に、血液型なんて関係ない。
内緒話を打ち明けるように、小さくこぼされた独歩の言葉に一二三の心臓はばくばくと音を鳴らす。
「うん、俺っちも。絶対そう」
独歩の頬に手を伸ばす。両手で掬い上げて絡まる視線。海色の目はもう憂いの色を湛えてはいなかった。それにホッとして、ゆっくり頬を撫でる。
あたたかい。
ぽんやり少しだけ空いた独歩の唇に、そっと近づく。
拗ねさせてごめん。今日もだいすき。
謝罪と胸一杯の愛しさを分かち合うためにもっと近寄れば、一二三の腕の中で独歩が「あっ」と声を上げた。
「あ、でもこれお店で女の子に出す話題には使えるんじゃないか?」
「にゃはは、独歩が俺っちのことを一番に考えてくれるのはうれしーけどさすがにそれは情緒がなさすぎん?」
一二三は両手で包み込んだ頬を少し潰すように押し込む。文句を吐き出そうとした独歩の唇はむにっと尖って言葉を失った。
「へへ、かわい〜の」
不服そうな海色の目を無視して、一二三は今度こそ独歩の唇に己のそれを重ねた。
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