roku
2026-06-04 06:04:00
2434文字
Public 松深
 

変化【松深】

6月4日は松深の日✨
・高校に入って松本に再会した深津の話(松←←←深と思いきや松⇄深)
※松深なのにほぼ深津と一之倉

この二人は幼い頃に一度出会っていたらいい
そしてこの二人の軸の一之倉は松本のことをあまり好きじゃない(嫌い)だといいなと勝手に思っている

人というのはこんなにも変わってしまうものなのか。
深津は自己紹介をする松本を前に驚きを隠せなかった。

「あ、そうだ。深津って松本と知り合い?」
おやすみとベッドに潜り込んだ一之倉が思い出したように訊ねてきた。
……何でベシ?」
「ん?あいつが自己紹介してる時お前動揺してたから」
何ともないように言った一之倉。深津はまさか気づかれていたとは思わず黙り込んでしまった。
「中学は違うよな。小学校?ミニバス?」
深津から返事がないことを気にすることなくさらに質問を重ねてきた。困った深津は「正確に言うなら全部違うベシ」と答えた。
「え、何それ。意味深」
「別に何も意味深じゃないベシ。小学校の時、ミニバスチームの遠征試合でよく一緒になっただけベシ」

あの頃の松本は例えるなら太陽みたいな少年だった。ライバルチームの深津にもいつも爽やかな笑顔で話しかけてくれた。コートの外でのコミュニケーションが苦手だった深津はとても嬉しかった。松本のチームは強豪ではなかったがチーム全体の雰囲気がよく、何よりみんなが楽しそうにバスケをしていた。それを見た深津のチームのメンバーは「遊びじゃねーっての」「だから所詮ベスト8なんだ」「馴れ合いじゃ勝てねーんだよ」と蔑んだ。
一度聞いてみたことがある。もっと強くなりたいと思わないのか?優勝したくないのか?と。すると松本は眉間に皺を寄せて「したいに決まってる」と拳を握った。
……いつか、オレのパスを松本に受け取ってほしい」
深津のチームは強かったが、それでも今このチームに深津の本気のパスを受け取れる者はいなかった。松本ならば。試合をする度にそう思っていた。
「そんな日が来たらいいな」
松本はフッと表情を綻ばせた。
そんな会話を交わしたのはミニバスで最後に試合をした日だった。

「それで運命の再会?そりゃ動揺もするか〜」
上体を起こした一之倉は深津を見てふふと笑う。深津の〝松本に対する気持ち〟に気づいたのだろう。
「違うベシ」
「え〜てっきり想い人に再会して動揺したと思ったのに」
ケロッと言ってのける一之倉。
……あれは松本であって松本じゃないベシ」
松本に深津との再会を喜んでいる様子はなかった。まずここに温度差があった。
「は?」
「松本は、もっと明るくて、もっと気さくで、誰にでも優しくて、いつも笑っててもっと楽しそうにバスケをするやつだったベシ
ベッドの上で抱えた膝に顔を埋めた深津の声はほんの少しだが震えていた。
今の松本は獲物を狙う獣みたいな瞳でただひたすら練習に励んでいる。コートの中ではにこりともしない。太陽みたいな松本はどこへ行ったのだろうか。
「想像できない。中学で何かあったのかな」
「わからんベシ」
「聞いてみればいいじゃん」
……無理」
「ふ、ははっ!お前意外と可愛いのな」
「なっ!」
「オレが聞いてやるよ!って言いたいところだけど、あいつオレのこと見下してるから嫌いなんだよな」
「松本はそんなことしないベシ!」
深津の否定に一之倉は、それは同級生でお前のレベルが桁違いに高いからだと説明した。
「まぁせいぜいもがき苦しめ」
……イチノは意地悪ベシ」
「何とでも言えよ。でも恋ってそんなもんだろ」
知ったふうな口を聞いた一之倉を見る深津の黒目が大きく開かれた。

◇◇◇

深津は就寝時間が近づき人もまばらな談話室に残っている松本に声をかけた。視線で退室を促すと松本は深津の後に続いた。気を利かせたのか同室の一之倉はまだ戻っていない。深津はベッドに腰を下ろしたが何をどう切り出せばいいのかわからず流れた沈黙。
…………
「話があるんじゃなかったのか?」
いつまでも口を開かない深津に痺れを切らせた松本が訊ねた。
「松本は変わったベシ」
…………
……松本を変えたのは、何、ベシ?」
深津の心がざわざわと揺れる。
「変わったと思うか?」
「あの頃はもっと楽しそうにバスケしてたベシ」
「だとしたらオレを変えたのはお前だな」
松本がフッと浮かべたのは皮肉な笑み。最後に見た優しい微笑みとは違う。
……オレ、ベシ?」
「お前が、パスを受け取ってほしい。そう言ったから」
え?」
「楽しさ捨てて死ぬ気で練習した。やっと同じ場所に立てたと思ったのにお前はAチームなのにオレはそこに掠りもしねぇ」
優勝したいに決まっていると言ったあの日と同じように拳を強く握った松本。深津はベッドから下り、松本に向き合う形で床に膝をついた。その拳に手を重ねたのは無意識だった。
「深津?」
「松本には楽しくバスケしててほしいベシ」
……それじゃ勝てねぇんだよ」
「オレがゲームメイクするからだから
あの頃のように笑っていてほしい。
そんな深津の願いは重なった唇のせいで言葉にならなかった。
「すぐに追いつくから待っててくれ」
何事もなかったかのように立ち上がった松本は振り返ることなく部屋を出ていった。ひとり残された深津は状況が理解できずにベッドに顔を伏せた。

「なぁ、今そこで松本とすれ違ったんだけどさ、あいつオレのこと無視ってえ?深津!?」
戻ってきた一之倉がその視界に深津を捉えて切れ長の瞳を大きくさせた。なぜならベッドに伏せっている深津の首までが真っ赤に染まっているからだ。
……何が起きたか……わからん、ベシ
近くに寄ると深津の周りだけ心なしか温度が高い気さえする。
「ちょっと大丈夫?発熱?」
……大丈夫……ベシ」
一之倉は、顔を上げ瞳を揺らしている深津の姿を見て、先ほどすれ違った松本の様子を思い返す。そして松本は一之倉を無視したのではなく、深津のことで頭がいっぱいで視界にすら入っていなかったのではないかと推測した。
「フッ、ふはっ!うまくいったってこと?」
良かったな!と丸まる深津の背中を叩いた一之倉は悪戯っ子のようににやりと笑った。