Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ほしのまなつ
2026-05-30 23:45:37
2495文字
Public
:一郎×3世短編
Clear cache
🥞&🎩3️⃣ /暗号のワルツ
まるいホットケーキと特別なココア。
ここに帰る理由には、充分だった。
・
・
・
「
……
まて、やり過ぎだ」
――
ゆらり。
暗闇の底で、月のひかりを浴びた銀の髪がたなびく。
白銀の悪魔は今宵もそこに、君臨していた。
「おい、僕の仕事まで奪うんじゃない」
「䷮
…
䷰䷯
…
䷰
……
!」
相変わらず、つよい。
柘榴のような濡れた深紅のひとみで、一瞥しただけ。
あとは悲鳴すら奪われた襲撃者の氷漬けが、みるみると山積みになっていく。
一郎の銃によって撥ね退けた数の倍は、ありそうだ。
『お片付け』すべき対象は報告よりもたいぶ多かったが、問題ないだろう。一刻も早く帰りたいのは、一郎も同じだ。
「䷬䷭
……
䷮
…
䷯䷰
……
!」
「せめて魔界語で話してくれ
……
」
いったいどの文献を漁れば『コレ』と話ができるのだろう。
このしろい悪魔と組まされて、もう一年になる。
ヴァチカンからの依頼は、悪魔祓いから人探し、今夜のような神器の護衛など多岐に渡る。
(くそ
……
これじゃ、ていのいい便利屋だ)
祓魔師のお膝元であるヴァチカンに、千年王国研究所は大きな借りがある
――
らしい。
忌々しいことに、一郎にはそのあたりの記憶がごっそりと抜けている。だが、やることは変わらない。
「これで、全部だな」
「䷮䷯䷰
……
!」
銃に込めた聖銀には、生命を奪うまでの威力はない。
白銀の悪魔によって『氷漬けにされただけ』の小物たちも同じだ。一郎たちがやっているのは、応急処置にすぎない。
闇の底から、規則正しい足音が聞こえてくる。あとはヴァチカン直属の祓魔師たちが、さいごの処理をするだけ
――
「
――
ッ
――
! ふざ、けるな
……
っ」
鈍い痛みが、左肩に走る。
とっさに動いた身体は、どうにか間にあった。
引きつった銃声が、ざらっと耳に障る。
出血はない。
……
聖銀だ。それも、かなり純度の高い
――
「
……
おい。これはどういうことだ?」
黒い制服の集団からは、何の答えもかえってこない。思わず舌打ちが零れた。
人体に害はないが、埋め込まれた銃弾がじわじわと一郎の余裕を奪っていく。
白銀の悪魔に向けられた銃口は、言い逃れしようがない。する必要もないと思われているのか
――
(
――
どいつ、だ?)
ここではない。
ここではない安全な場所で、のうのうと身勝手な嫌がらせを命令した奴がいる。
『悪魔と対峙するのに、眷属でもない悪魔など連れているのか』
そう眉を顰める連中がいることを、一郎は、この一年で嫌と言うほど知った。
馬鹿ばかしい。かつて四大世界を救ったのは、埋れ木真吾と、その使徒である悪魔たちだ。
「䷬䷭
……
! ䷮
…
䷯䷰
……
――
!䷱䷴~~~~!」
「~~~っ、わかった。分かったから、おまえは喋るな」
ぼくにはお前の言葉が分からないのだから、そんなに喚いてもしょうがないのに。
しろい悪魔が喚くたび、月の光を受けた白銀の髪が、ふよふよとゆれる。
口汚く罵ろうとした一郎のシャツの裾を、いつの間にか、ちいさな手がぎゅっと掴んでいた。
いつものことだ。
仕事を終えたばかりの白銀の悪魔は、一郎よりも、ずっと小さなイキモノになってしまう。
おかげで一郎の左肩ひとつで、すむことができたのだけれど。
「䷮
…
䷯䷰
……
っ」
「
――
そうだな、帰ろう」
この子の言葉は、なにひとつわからない。
ちがう。この子の言葉だけじゃない。
――
これが正解なのか。
――
このふたりで、あっているのか。
いちごジャムのような赤い瞳で見上げてくる悪魔が、こくりと頷くのを、一郎は視界の端で確認するだけだ。
▽ ▽ ▽
「
――
……
それで? どうなったの?」
「どうもしない。千年王国研究所として、苦情という形で報告はあげておいた。
書面には残した方がいいからな
……
メフィスト、ホットケーキは二段で良い。その代わりメープルシロップを」
「
……
悪魔くん、肩にケガまでしてるのに?」
ぎゅうっと、まるっこい目が分かりやすく尖る。ケガといっても致命傷ではない。
大げさな痣ができた程度だ。この心配性の従兄弟はシャツの裾をめくったとたん、一郎の青あざよりも顔色を悪くしていたが。
「だがこれで、しばらく家賃には困らないぞ」
「
……
うん」
犯行声明のあった神器の護衛ということで、依頼主の金払いはすこぶる良かった。
一郎が負傷したこともあり、次の依頼までは時間があるだろう。
「ココアもいれてやる。ホイップだって、乗せてやるからな?」
「きみは天才か」
からかうように本音を告げると、目の前で黄色のエプロンがぱあっとひるがえった。
『天才は、悪魔くんの特許でしょ?』などと、甘い匂いをまとわせた従兄弟が、ようやく笑ってくれる。
貴重な上級悪魔の血を引くちいさな従兄弟は、半分どころか少しの魔力もない。
一郎の生活を整え、研究所の雑務をこなし、この部屋で一郎の帰りを一郎の好物とともに待っている。
まるいホットケーキと、特別なココア。
一郎がここに帰ってくる理由には、十分だった。
▽ ▽ ▽
「あくまくん
……
?」
メフィストの声に反応がない。
呼吸にあわせ、心臓は間違いなく動いている。
じっと見つめ、深く息を吐き出した。思い出した記憶は、いまでも胸をしめつける。
「もう、ねちゃった?」
ソファに沈んだまま、まぶたはピクリとも動かない。
無理もない。左肩は、ピクシーさんの薬でも一週間はかかるそうだ。
「苦情、かぁ」
一郎にしては、譲歩した方だと思う。それにしたって随分と下に見られたものだ。
――
前メシアの養い子で、ソロモンの笛に選ばれた天才。
いくらこちらに負い目があるとしたって、この扱いはない。
そもそもメシアの肉体の復活は、あちらにだって利があったはずだ。
約束は、十分すぎるほど果たした。
「
――
おれが
……
メフィストが目のまえで悪魔くんを害されて、タダですむはずねぇだろ」
甘い匂いをまとうエプロンが、
ゆるりとほどけていく。
――
そうして。
ツノのない悪魔は、
暗闇のそこから石のついた杖を
優雅に振りおろすのだった
――
・
・
・
(とある白い悪魔のはなし)
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内