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モモハナ
2026-05-30 23:19:00
6521文字
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十六夜夜話 2
夜魔ノ国の話で、引き続き黒鋼視点です。
色々と幻覚見てます。
戦いに出るのは良いが、俺は桜都国で手に入れた蒼氷を持っているが、ファイには武器がない。
話を終え部屋に戻る前にその旨を夜叉王に伝えた所、気が付かなくてすまなかった、と城の奥にある武器倉庫に案内された。
『黒ぷー、蒼氷あるのに違う刀借りるの?』
俺の腰の蒼氷を指先でつついて此方を見る魔術師の肩を奥に行けという風にとんと軽くたたく。
『え? オレ?』
「俺はコレがあるからいいが、お前武器何も持ってねえだろ。何でもいいから使えそうなもん借りとけ」
左手で蒼氷を指し示してから、続けてあっちという風に武器庫の中を指し示す。
『
……
あっ、オレに武器を貸してくれるって事か。やっぱりここでも戦う事になるんだねぇ』
キョロキョロと俺の顔と蒼氷と武器庫と視線を彷徨わせた後、意図を読み取ったらしいファイがぽん、と掌の上で拳をたたく仕草をして武器庫へと入っていく。
大振りの剣や短刀、薙刀や槍といったものまで多種多様な武具がある中で、数分かけて物色してファイが選び取ったのは弓矢だった。
高麗国ではその場凌ぎとは言え棒術を駆使していたし、似た形状の薙刀辺りを選ぶと思っていただけに、飛び道具を選ぶとは思わなかった。
『弓
…
、昔アシュラ王に教わったっけ。懐かしいなぁ』
借り受けた弓矢を両手で抱えてぽつりと何かを呟いたファイに意外だとは思ったものの、刀で近接攻撃をする俺のサポートをする為に飛び道具を選んだのであれば妥当な選択だな、とも思った。
どの道、俺達は小僧たちが見つかるまでの間の日雇い兵みたいなもんだ。2,3日
…
長くても一週間くらいでお役御免になるだろう、とこの時はそう思っていた。
しかし、現実はそう甘くもなく。
すぐに見つかるだろうと思っていた小僧たちは、どういう訳か一週間経とうが二週間経とうが、一向に俺達の前にその姿を現すこともなければ、これと言った有力情報も得られずに日々は刻々と過ぎていった。
昼間は街に出て情報収集やら、戦いで得た報奨金で必要なものの買い出し等をし、夜・月が昇れば月の城へ赴き修羅ノ国の兵達と戦いを繰り広げる。そんな生活を続けるうちに気が付けば夜魔ノ国に来てからすでに二月が経とうとしていた。
「くっそっ‼ どうなってやがるっ‼? もう二か月だぞっ!? 何で一向にアイツらの情報が何も入ってこねぇんだっ!! アイツら、マジでどこに居やがる‼?」
今日もファイが描いた似顔絵を手に街で聞き込みをしてみたが、小僧たちの情報は一切入ってこない。
二か月も経つというのに、一向に何の進展もない事に苛々する。
部屋に戻ってきたのと同時に、聞き込みついでに買ってきた荷物を置くとどっかりと卓袱台の前に座り込むと、少し遅れて部屋に入ってきたファイが俺の正面に腰を下ろした。
「クロサマ、オチツク。オコル、ヨクナイ」
この二か月の間にファイは夜魔ノ国の言語を自分なりに学び、読み書きはまだ難しいようだが、簡単な会話なら出来る様になってきていた。
夜叉王をはじめ、この国の人間にはファイは訳ありで喋れない、と言う事にしてある。その為、外でファイが何かを話す事はないが、例え片言であっても会話が通じるのは嬉しいらしく、部屋に帰ってくるとよく喋るようになった。
「別に怒ってねぇよ」
「ミケン、シワ。イライラ、ヨクナイ」
「ほっとけ」
「ダイジョブ
…
シャオランタチ、キットミツカル」
片言ではあるものの夜魔ノ国の言葉で話すファイの白い顔にも、流石に疲れが浮かんで見える。
そもそも旅を始めてからこんな長い期間、小僧たちと別れたまま一つの国に留まること自体が初めてだ。ファイにしてみれば、言葉が通じないだけでもしんどい事だろうに、連日続く終わりの見えない戦いで疲れも溜まっているのだろう。
「何の手がかりもねぇのに大丈夫もねぇだろ
…
。つか、お前こそ大丈夫かよ? 最近、あんまり眠れてねぇだろ?」
「
…
オレ? ヘイキ、ダイジョブ」
平気だと笑ってみせるが、ファイの顔色は明らかに悪い。
ここ最近は、ストレスの所為か布団に横になってもあまり眠れていないらしく、その結果ファイの目の下には隈が刻まれている有様だ。
世話係として部屋に来る小姓の星夜も憔悴気味のファイを心配しているのだが、ファイ本人が大丈夫だと言ってきかないのだからどうしようもないのが現状だ。
とりあえず、今日は夕飯を食ったらファイはそのまま布団に寝かせて、戦いには俺一人で行こう。
内心、そう思っていると、ファイがあ、と小さく声を上げて窓の方に視線を向けた。
つられて窓の方へ視線を向ければ、どうやら外は雨が降って来たらしく、ぽつぽつと大粒の水滴がガラスに吹き付けているのが目に入った。
「
…
雨、降ってきちまったのか」
「キョウ、ツキデナイ?」
「あぁ
…
、この分じゃ今日は戦は無しだな」
月が昇らなければ、戦場の舞台である月の城にも行けないので、戦いは行われない。
見た所、天気雨という感じでもないので今日は戦は無いと見て間違いは無いだろう。
「今夜は久々にゆっくり眠れそうだな。お前も、今日は飯食ったらさっさと寝ろ。いいな」
「サケハ? ノマナイ?」
「酒は飲むに決まってるだろ」
「オレモサケノム!」
「そうかよ。好きにしろ」
酒、酒、と嬉しそうに言う様子に、そう言えば此奴も結構な酒豪だったな、と紗羅ノ国での飲みっぷりを思い出してククッと小さく笑っていると、ファイが早速先ほど買ってきた荷物を漁り始めた。
本当は今日の戦いの後に飲むつもりだったが、戦いがないのであれば今から飲んだって何も問題は無いだろう。
「おい、酒も飲むがその前に飯食うぞ。そろそろ頼んだ飯が届く頃だから、一旦そこ片付けろ」
すでに飲む気満々で卓袱台の上に買ってきた酒瓶とグラスを置き始めていたファイに言えば、程なくして部屋の扉が控えめにノックされた。
「失礼します。夕食をお持ちしました」
からりと扉を開けて顔を出した小姓の星夜は、そのまま台車を転がしてゆっくりと室内へ入ってくると、テキパキと卓袱台に二人分の食事を並べていく。
「いつも悪いな」
「セイヤ! アリガト!」
「恐れ入ります。
…
ファイ様、やっぱり顔色があまりよくありませんね。今夜は雨で月も出ませんので、ゆっくり休んでくださいね」
卓袱台に食事を並べ終えて、こちらに向き直った星夜はぺこりと小さく頭を下げると、やはりファイの顔色が気になるらしく心配そうに眉間に皺を寄せた。
「やっぱり、今日は戦は無しか」
「はい。ですので、夜はゆっくりお過ごしください。
…
その、色事に興味がおありでしたら、そう言った店も街にはございますので
…
」
何せ血気盛んな男たちが多い所だ。
休戦日にそう言った店に通う兵士も少なくないのだと、告げる星夜の頬は恥ずかしさからか心なしか赤く染まっている。
星夜は年の割にしっかりしている子供ではあるが、やはりまだそう言った事には慣れてないのだろう。
初々しい反応を見せる星夜に笑みを浮かべていると、黙って話を聞いていたファイが俺の顔を覗き込んできた。
「クロサマ
…
? ドコカデカケル?」
「あ? 別にどこも行かねぇから安心しろ」
不安そうに声を掛けてきたファイにそう返事を返すと、大丈夫だという様にその柔らかい金糸をくしゃりと撫でる。
その様子を見つめていた星夜は何か勘違いをしたらしく、ますます顔を赤く染め上げた。
「そ、そっか! 黒鋼様にはファイ様がいらっしゃいますよね。僕、余計な事言っちゃいましたっ!」
「おい、何勘違いしてやがる。俺とこいつはただの旅の仲間で、そういうんじゃねぇよ」
「大丈夫ですよ! 此処にはその、男色家の方も少なからずいらっしゃいますし、他の人には言いませんからっ‼」
「だからちげぇってッ‼」
「では、失礼します
…
っ!」
俺とファイを交互に見て、再度頭を下げると星夜はとんでもない勘違いをしたまま、部屋から出て行ってしまった。
「
…
ったく、あいつとんでもねぇ勘違いしやがって。
…
まあいい。とりあえず飯食うぞ」
「メシ! イタダキマス?」
「おぅ。頂きます、だ」
とりあえず、明日来た時にもう一度ちゃんと話して誤解を解こう、と心に決めて、少し早めの夕飯を食べ始めた。
用意して貰った飯を三分の二程食べた所でファイが御馳走さまと言って、残りを此方に寄越してきた。残しておくのも勿体ないのでそれも平らげて、空になった食器を片付ける。
綺麗になった卓袱台に、改めて街で買ってきた木の実や魚の干物を並べると、それを肴にして晩酌を始めた。
夜魔ノ国の酒は辛口で大味ではあるものの、紗羅ノ国で飲んだものに似た風味で比較的飲みやすい。どちらかと言えば、果実酒を好むファイには原液のままだと飲みにくいようだったので、前に一度少量の冷茶で割ったものを飲ませてみた所、そっちは口にも合うらしく、以降は冷茶や街で買った果物のジュース等で割ったものを自分で作って飲むようになった。
酒が入った事で僅かに赤く色づくファイの顔を眺めながら、ぐいと酒を呷った。
二本目の瓶を飲み切り、空になったグラスに新しく酒を注ごうとしたファイの手をおい、と言って掴んで止めさせた。
「お前はそろそろ終わりにしとけ。体調がよくねぇんだから、深酒は駄目だ」
『え~。このくらい平気だよ~。黒ぷーは心配性だなぁ』
「言葉戻ってるぞ
…
。とにかく、今日は酒は程ほどにしてさっさと寝ろ」
布団敷いてやる、と言って立ち上がると部屋の隅に畳んで置かれた布団を一組運んで卓袱台の横に手早く敷いた。
「おら、敷けたぞ」
「
…
ヤダ、マダネナイ」
「お前なぁ
…
、休める時に休まねぇでどうする。酒は調子いい時に飲みゃあ良いだろ」
「
……
ナラ、クロサマモ、ネル」
「あぁ? 俺が寝ればお前も寝るってのか?」
俺にも寝ろと言ってくるファイに面倒くさいと思いつつも聞き返せば、ファイはこくりと小さく頷いて見せる。
「
…
ヒトリ、ヤダ」
「
…
ったく、しょうがねぇなぁ」
正直、俺はまだ全然眠くはないがファイを眠らせる事が先決だ。
晩酌の続きはファイが眠った後にすればいいか、と思いながら卓袱台を移動させるために伸ばした俺の腕を布団に横になったファイが思いっきり引っ張ってきた。
『隙ありっ』
「うわっ!? てめっ、いきなり引っ張んなっ!! 危ねぇだろうがっ!!」
急に腕を引っ張られていくらかバランスはくずしたものの、咄嗟に両腕を伸ばして掌を布団に付く事で、ファイの上に倒れ込むことは防いだ。
その結果ぼすんっ、と音を立てて両腕でファイを挟み込む様な形で布団に覆いかぶさる形となっていた。
「クロサマ、ビックリ?」
「てめぇ
…
っ!」
眼下で悪戯が成功した子供の様に笑うファイに、一瞬イラっとしたものの、ファイを潰さなくて良かったと内心ホッとする。
この体勢の所為で図らずも至近距離でファイの顔を見ることとなり、その整った容姿に思わず魅入ってしまった。
「
……
っ」
白い肌に透けるような金髪。今は黒く染まっているが、本来は湖を彷彿させるような透き通った蒼い瞳。そして薄く形の整った唇。
これだけ見目が良ければ、元居た国ではさぞや女にもモテた事だろう事も想像に難くない。
そう言えば、ここに来てからも街の女だけでなく男からも時々そういった目を感じる事が度々あったと、ふと思い出した。
その上、先ほどの星夜の男色家も少なくない、と言う発言が脳裏を過り、変に意識してしまいドキリと心臓が跳ね上がった。
妙な緊張感が身体に走り、同時に体温が僅かに上昇する。口内にいつの間にか溜まっていた唾液をごくりと飲み込んで、深呼吸をすると気持ちが幾分か落ち着いた。
どことなくとろんとした眼差しで俺の顔を見上げてくるファイに、おい、と小さな声で問いかけた。
「まさかとは思うが、あの程度の酒で酔ったのか?」
紗羅ノ国で大量の酒を夜通し飲んでも顔色一つ変えていなかったこいつが、たった二本分で酔うとは思えない。しかし、元々あまり体調が良くない状態での飲酒なのだから、普段なら平気な量でも酔いやすくなっていても可笑しくはない。
そう思い問いかけたのだが、それに大してファイは首を横に振った。
「サケハヘイキー。デモ、ツヨイチカラ、カンジル
…
ズット」
「強い力
…
? 魔力って事か?」
「ワカンナイ
…
。コノクニ、フシギ。ヤシャオウモ
…
」
そこまで言うと、ファイは何かを探す様に視線を彷徨わせる。しかし、特に何かが見つけられた様子もなく、ファイは諦めたようにゆっくりと瞳を閉じた。
程なくして、すぅすぅと穏やかな寝息を立て始めたファイに寝たのか、と確認する様に小さく問いかけた。
「
……
」
当然ながら眠っている相手から返事が返ってくる事はなく、起こさないようにゆっくりと身体を起こすと、ファイの身体に掛布団を掛けてやる。
そのまま卓袱台の方に向き直ると、先ほど飲みかけのまま放置しておいた酒を飲み干した。
「意味深な事言い残して寝落ちすんな、阿呆」
空になったグラスに追加の酒を注ぎながら、先ほどのファイの言葉を脳内で反芻する。
ーツヨイチカラ、カンジル
…
ズット
ーコノクニ、フシギ。ヤシャオウモ
…
確かにファイはそう言っていた。
魔法や魔術に関しては俺には一切理解できないが、黒く染まった瞳や桜都国の時の様な魔力酔いに近い状態のファイの様子からして、この国は何か強い力で覆われているのは確かだろう。
夜叉王に関しても未だに謎が多すぎる。
「
…
夜叉王、か。あいつは一体何者なんだ? 紗羅ノ国の陣社で見た守り神の像と似てるが、何か関係があるのか
…
」
初めて見た時から思っていたが、他人の空似だとしても似すぎている。違う所と言えばあちらの像には右目に傷があった所くらいだろう。
それに、月の城で修羅ノ国の阿修羅王と刃を交えている様を何度も見ているからこそ分かるが、その実力は間違いなく本物だ。だが何か、腹の中に隠している事がある気がしてならない。
そして、もう一つ気になるのはその夜叉王と常に相対する阿修羅王の事だ。
ただ月の城の宝を巡り合い、夜叉王と刃を交えている風には思えない。阿修羅王の夜叉王を見つめる目には、それだけではない強い感情が見え隠れしているのを感じる。
「此処に来て二か月経つが、まだ分かんねぇ事が多すぎるな
…
」
グラスに注いだ酒を飲みながら考えに耽っていると、ファイがもぞもぞと身じろぐ気配がした。
『アシュラ王
…
、まだ
…
ない、で
…
』
「アシュラ
…
?」
俯せになったファイがセレス国の言葉で紡いだ寝言の中に、"アシュラ"と言う名が聞こえた気がして、思わずそちらへ視線を向けた。
こちらに背を向けている為、表情は分からないが泣いている訳では無いようだ。
「
…
てめぇの言うアシュラ王は何者だ? てめぇは何を隠してやがる
……
」
紗羅ノ国で守り神の話が出た時も、此処に来て夜叉王の話を聞いた時も、阿修羅王の名が出た瞬間、ファイはあからさまに動揺していた。反対に、月の城で初めて阿修羅王の姿を見た時は、分かりやすいくらいにファイはホッと安堵の息を吐いていた。
紗羅ノ国でも一度アシュラ王について言及してみたが、この食えない魔術師はのらりくらりと躱し、本音を語る事はなかった。おそらく、今また改めて聞いた所で、結果は同じだろう。
「
…
チッ」
何もかもが思い通りにならなくて苛々する。
小僧達と会えない事にも、何の手掛かりが得られない事にも。
何時まで続くかも分からないこの国での生活にも、本性が見えないこの国の王にも。
そして、本心を隠し続ける魔術師の事にも。
胸中に燻る何もかもを流し込むかのように、グラスに並々注いだ酒をぐいっと一気に飲み干した。
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