ぽふむん
2026-05-30 23:18:52
1700文字
Public ワンドロ
 

潜伏

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負

「しきたり」「回廊」
極楽教潜入if

極楽教には、「あるもの」を祀る奇妙なしきたりのある山村に潜入したしのぶちゃん。
そこは極楽教でした。

極楽教の信者は皆、ある「業」を先祖から引き継いでいて……

微ホラーです

童磨って子供っぽいとこがありますよね……というお話です

回廊に吊るされた、釣り灯篭の仄かな灯りが二人の少女を照らす
先導する少女は、高坏に山盛りに盛った白米、山海の珍味の盛り付けられた盆を持っている。
後続の少女は白酒の入ったとっくりと杯の載せられたお盆を捧げ持ち、楚々と進んでいく。
突き当たりに、扉を金細工で豪奢に飾られた御堂がある。

重そうな扉の前には机があり、朝備えた仏飯がそのままに鎮座していた。

後続の少女、しのぶは当初、これはどこにでもよくある“神様、仏様へのお供え”だとばかり思っていた。

道端のお地蔵様にお供え物をする。
先祖や親、祖父母を偲び毎朝夕供える仏供。
何一つ不自然なところはないと思っていた。

この寺の最長老だという老女の言葉を聞くまでは。

年相応に足腰こそ衰え始め、腰は海老のように曲がっているが矍鑠かくしゃくとした老婆だった。
その老婆が、毎朝昼晩供えるお供えに行くのを渋った先導の少女を叱りつけた、あの言葉。

───たたりじゃ。お供えを怠ればたたりがある。我らには、末代まで祟られておる。少しでもお鎮まりいただくために供え続けねば───

その言葉が脳裏を去来する。

老婆が言うには、老婆の祖父母の代からこの山村は呪われているのだという。
もうかれこれ150年以上は続く呪い

「知らないわよ!馬鹿馬鹿しい。もう明治になって何年だと思っているのだか。あのボケ老人」
少女が吐き捨てるように呟いた。
しのぶは、ただ黙ってそれを聞いていた。

────────────
今からかれこれ150年前のことだという。
その頃、この山寺に反幕府の勢力が集結したのだという。
だが、ある日頭目の夫妻が死んだ。
表向きは心中だが、実際は内ゲバだったと言う。
内ゲバで、頭目の夫人は毒を盛られ、脳を侵された。
毒に侵された錯乱状態で、ありもしない妄言を吐きながら夫を滅多刺しにしたそうだ。
その夫妻には五つになる童子がいたという。
当時は数え年だ
満年齢なら三つかもしれない。

その子どもも死んだそうだ。
餓死だと言う。

一揆を目論見集結したのはいいが、所詮は烏合の衆。
それは発覚し、アジトとなっていたこの山寺は囲まれ兵糧攻めに会った。
周りの大人は身勝手だった。

頭目の遺児に全ての罪を押し付け、自分たちは助かろうとした

そのために、身を守る術をまだ持たない。頭目の遺児という肩書きだけの幼児を利用し

この遺児の死をもって、全てはなかったこととして終結したのだという。

────────────

「馬鹿馬鹿しい。その子が仮にいたとして、即身仏になるってかなりの手間だという話よ?」
少女は叫んだ。

この開かずの間と化した御堂の中には、その幼児の即身仏が祀られているという。
このお膳は、その子に供えるためのもの。

ここにいる信者は、皆、業を背負った大人達の末裔だという。

「その子、餓死じゃなくて人身御供だという話もある。馬鹿馬鹿しい。ただの言い伝えじゃない。そんなものの為に、なんで私達が自分達の幸せを犠牲にまでして、山に籠って祀り続けなければいけないのよ。何か尾ひれがついたに決まってる」
少女の金切り声を、しのぶは黙って聞いていた。

町娘のしのぶにも、馬鹿馬鹿しいと思う気持ちはわかるから。

でも、この後の言い伝えが気になる。

だから、この寺にしのぶは潜入調査に入ることになったのだから。

この後の言い伝え

ある日、その即身仏は忽然と消えた。
そして、件の遺児が生存していたのであれば二十歳になる時
突然、その当時の村人の前に姿を現したという。
五歳ではなく、二十歳の青年の姿で。

そして、ひとりの孕み女を殺して食った。

青年は、人身御供も求めなければ、恨み言も言わなかったという。
だが、村人は“罪滅ぼしに供養を続けろ。末代まで。村人全員子々孫々が絶えるまで”

そう勝手に解釈したそうだ。


ぎい

何かが軋む音がした。

開かずの御堂の扉が内側からうっすら開いた。

閻魔帽を被った何者かが内側から朗らかに笑った。

「やぁ、それは気の毒に。俺が助けてあげる」