押し寄せるゾンビの群れ。名もなき登場人物が、怪物の晩餐会に埋もれていく。ソファーの背もたれに寄りかかった泉は、「うげえ」と眉を潜めた。Netflixのランキング上位から適当に選んだドラマだが、思いのほか見入っているらしい。
支払いはおれだけど、セナがこうやって楽しんでくれるなら万々歳だ。おまえが望むサブスクに、いつでも加入してやろう! ───あぐらに乗せた肘で頬杖をつくと、レオは満足げに口角を上げた。
「あー、馬鹿馬鹿。トイレに隠れたところでドア蹴破られるっての。……ほら!」
「わはは。おれを血眼になって探し回るセナみたい」
「はあ? 醜くて汚いこいつらと一緒にしないでよ。……れおくんだって、ゾンビになったら何をしでかすかわかんなくない?」
足を組み直して、おもむろに振り向いた。ネトフリ観てるだけなのに、絵になるよなあ。レオが長いまつ毛に見惚れているあいだに、泉は続ける。
「ただでさえ、スキンシップ過多だからねえ。凄まじい勢いで抱きついて、俺の血管にがぶりと噛みつくんじゃないの」
「意義あり! おれがセナを食べるわけないだろ。誰彼構わず襲いかかるゾンビに成り下がったって、大切なおまえのことは忘れませ〜ん。眉間のど真ん中を撃たれるまでは、絶対に!」
「そうかな? だって、れおくんさあ」
黒のハイネックをずり下げて、細い首を露出させる。色素薄めの肌が際立つその部分に、髪のしっぽがたまらず浮いた。
「キスマーク、付けたがるじゃん。信用ならないんだけど」
むらっ! ───理性の地下牢に閉じ込めていた怪物が、南京錠を突き破って放出される。怒涛の展開が繰り広げられるドラマに釘づけで、すこんと忘れていたけれど。昨今の働き詰めなスケジュールでは珍しく、明日はふたり揃ってオフなのだ。
そろり、そろり……。レオは小指をそっと絡めて、とびっきりの甘え声で「セナぁ」と鳴いた。
「……あのさぁ」
「ちょっと静かにして。字幕に集中させてよ」
「……えっちしたい」
「シャワー浴びてないから駄目」
「セナぁ〜」
「あっ、こら!」
吸いついた首筋から、甘い香りがする。入浴はまだ済ませていないのに、とろけた蜜が溢れているようだった。欲しくてほしくてたまらない。セナ、おれのセナ、全部ちょうだい。脳のあらゆる部位がウイルスに侵されてしまっている。たぶん出会ったときから、ずっと。
「れおくん……駄目、だってば……」
ちゅうちゅう味わっているうちに、泉の抵抗が弱まっていく。すっかり気を良くしたレオは、リモコンで画面を消した。
ぷつん。
ゾンビに成り代わる瞬間も、きっとこの音が聞こえるのかもしれない。
やっぱり食べちゃうかも。
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