白殊皎(しらよし こう)
2026-05-30 21:00:00
4310文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

束の間のアンビバレンス

黒の剣士は朝からずっと土方の部屋にいた。
無関心を装ってはいるがその実なにやら思うところがあるようで?

この作品は2026年4月4日・5日に開催された、ぐだぐだ鯖WEBオンリー「ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~」での白殊独自のリクエスト受付企画【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけようVol.2】でリクエストいただいたものです。

◆リクエスト内容◆
キスをしたい・してほしいけどなかなか素直になれずモジモジする黒剣ちゃんと、そんな様子に気付きつつも黒剣ちゃんから行動してほしくて意地悪してしまう土方さん。

もぢもぢする黒剣ちゃんは可愛いですね……!
タイトルの【アンビバレンス】とは『対象に対して、相反する感情を同時に持ったり、相反する態度を同時に示すこと』なので構って欲しいけど自分からはやだ、好きだけど意地悪する歳はやだ、という黒剣ちゃんにちょうどいいのかなーと。
でも結局土方さんにメロメロにされちゃうのですが……!

 近藤さんが朝からずっと俺の部屋にいる。
 それ自体は普通のことなので一向に構わない、というかいてくれて嬉しいし、特に問題もない。
 霊基は黒の剣士。
 雰囲気はどこか『近寄るな放っておいてくれ』と言っているように感じる。
 そのお望み通り俺は構っていない。
 先ほどから和風に整えた部屋の、中央に据えた卓に向かい合わせで座り、一言も口を利いていない。
 さて、近藤さんはどう出るか。
 俺は俳句の本をめくりながらちらりと様子をうかがった。

 近藤は卓の木目を数えつつ、その実全然別のことを考えていた。
──構って欲しい、なんなら口吸いとか、その先とか。
 でもそれを口に出すのはなんとなく嫌で、土方の方から行動を起こして欲しかった。
 いつもなら先回りするように自分の意図を汲んでくれる土方だが、今日は本に目を落としずっと無言でいる。
 きっと、自分が何か行動を起こすのを面白がりながら待っている。
 それがしゃくで、自分も対抗するように無言を貫いていた。
「近藤さん」
 土方が口を開いた。
「ん」
 やっと何か、と思ったが短く返事をして次を待つ。
「菓子があるぜ。食うか?」
──そうじゃない、自分は子供か。
「いらない」
 近藤はぶっきらぼうに答えて顔を横に向けた。
「そうか」
 土方は取り出しかけていた菓子器をさげて、また本に視線を落とした。
 卑怯だ、と近藤は思った。
 自分にはそうやって目を逸らす材料がない。
 土方が俳句が趣味なのは本当なので、その行動は矛盾はしていない。
 でも巧く自分をかわし意識を別に向ける材料になっているのだから、やっぱり卑怯だと思う。
 こうも意地悪に無関心を装うのはこの霊基だからなのかとも考えてみる。
 それはそうだろう。
 この姿はあの特異点で、自分を殺し新選組を消そうとした、闇に墜ち、穢れた姿だ。
 新選組を最後まで守ろうとし、自分こそが新選組だと叫び、走り続けた彼にとって赦せるものではないだろう。
 だからといってここで霊基を変えるのも負けたような気がして嫌だった。
「歳」
 今度は近藤が口を開く。
「なんだ?」
「その本はなんだ」
 手放して自分を見ろ、というように彼を見つめる。
「当世の歳時記だ。俳句や季節の手引き書といったところだな」
「面白いのか?」
「あぁ、昔より季語も増えているし、当世の文化を知ることにも繋がってなかなかのものだ」
「ふーん」
 本から目を離さず答える土方に、近藤はもやもやとしたものを感じた。
 これ以上踏み込むと、自分から構えと言うのと同じだと思って口を閉じる。
「何冊もあるから、読んでみるか?」
 乗ってこないと思った土方が話を続ける。
「俺にそんな高尚な趣味があると思うか?」
「読めば変わるかもしれないぞ」
 やはり本のことでだったのでちょっと唇を尖らせて反論したが、あっさりと言われた。
「いらない」
 ジト目で土方を見て断りを入れる。
 土方はふふ、と微かに笑って一時的に近藤に落としていた視線をまた本に戻した。
──完全に面白がられている。
 悔しくて卓に顎を乗せて頬を膨らませる。
 そんな自分の態度も全部見えているだろうに、土方は穏やかな顔のまま静かにページを繰っているのがまた、小憎らしいと思った。

 近藤が可愛い。
 いつもは先回りもいいことに行動してはいるが、たまにこうやって焦らすとこんなにも可愛く自分への感情を向けてくる。
 それは黒の剣士の霊基時が特に顕著で、自覚はないのだろうがその表情も、態度も本当に可愛らしい。
 もうしばらくそれを眺めていたいが、そろそろ近藤は我慢の限界だろう。
 きっと、あの台詞が出る。

「歳は俺が嫌いだろう」
 不服そうな表情のまま黒の剣士は伝家の宝刀を抜いた。
「嫌いだったら普段手を出したりしないし、まず部屋に入れないぜ」
 土方はやっぱりな、と思った。
 彼にとって、それが一番土方の気を引ける言葉だと理解しているのだ。
 しかし今回はあっさりとかわされた。
「む」
 あ、負けた──近藤はそう思った。
 今日の土方には何も通用せず、自分は完全に彼の手のひらで踊らされているのだとわかった。
……キス、していいか」
 これ以上は惨めだから、素直に甘えた方がよいのではと卓の縁を回り、土方ににじり寄る。
 ここで拒まれたら轟沈してしまいそうだが、そんなことはしないはずだ。
「いいぜ」
 土方はそこでやっと本を手放し、近藤の方を向いた。
 近藤は両手を頬に添えて、その唇に自分の口を合わせる。
「ん…………
 短いそれで終わらせたくなかったが、土方からその様子はなかったので、自分から舌を差し入れ絡めていく。
 巧みな土方と違って、余りに稚拙だとは思ったけれど、精一杯の気持ちを込める。
「ふ、は……
 長い口吸いを終わらせ、土方の顔を覗き込むと、スッと自分の腰に彼の手が回り込み、そのまま畳の上に押し倒された。
「歳……?」
 戸惑いを持って見上げれば、余裕に満ちた顔がそこにあった。
「こんなに情熱的な〝キス〟をしておいて、それで終わりじゃないだろう?」
 その言葉に近藤の頬はみるみると赤く染まっていった。
 確かにその先をされてもいい──むしろして欲しいと思っていたけれど。
「待った、ちょっと待って……心の準備が……
「とっくにできているもんだと思ってたが?」
「できてない、全然できてない!!」
 その返事を聞いて土方は次は自分から軽く近藤に口吸いをして身体を離した。
「じゃあ、準備ができたらまたあんたからしてくれ」
「うっ」
 気負う様子もなく涼やかに言われて近藤は耳から首まで、ついでにいうなら指の先まで真っ赤に染めた。
「あぅ……
 両手で顔を覆い、近藤は首をふるふると横に振る。
 完全敗北──そんな言葉が近藤の頭をよぎった。
「いじわるぅ……
 それでもなんとか一矢報いたくて言葉を絞り出す。
「そりゃ、あんたがこんなに可愛くお誘いをしてくれるなら、意地悪もしたくなるものさ」
 その朱鷺色の髪をくしゃりと撫でて脇の一房を手元に引き寄せる。
「可愛くなんてない……! おまえの目がおかしい!!」
 ひねくれて全く素直じゃない自分の、どこが可愛いのかと指の間から睨み付けた。
「そうだな、まず俺に構って欲しくてわざと素っ気ない態度を取る時」
「う」
「それから、自分からそうしておいて実際俺が構わないとどんどん深みにはまっていくその様子」
「うぅ」
「そうこうして、俺の機嫌を損ねるんじゃないかと心配になってだんだんと近づいてくるその行動」
「ううぅ」
「最終的に我慢ができなくなって、自分からとんでもなく大胆な事をしてくるところ」
「うううぅ……
「そんなあんたの全部が可愛い」
「~~~~~ッ」
 近藤は本当にゆでだこのようになって畳の上で身悶えた。
「さて、そろそろ心の準備ができたんじゃないか?」
 そんな近藤を見て、土方はちょいちょいと自分の唇を触った。
──まるで〝キス〟をするならここだぜ? とでも言いたそうに。
「できるか! ばかぁ!!」
 半ベソをかいて近藤は上半身を浮かせて後退りをする。
「そりゃ残念だ」
 土方はおやおや、といった感じでわざとらしく手をひらひらとさせて近藤の上から退いた。
「あぁ、そいうやあいつマスターから呼び出されてたな。そろそろ時間だ」
 ちらり、と時計を見遣って土方は席を立ちかける。
「い、行くな!」
 煽られているし、きっとそんな予定はないとは瞬時に悟ったけれど、近藤は起き上がって土方の袖を掴んだ。
「他ならぬマスターの呼び出しだぜ? 従わなきゃダメだろう」
「俺とマスターとどっちが大事なんだ!!」
 ついには近藤は今世のドラマなどで聞くような台詞を言って土方の腕に縋りついた。
「そりゃ──のが大事だな」
「そうか…………ん?」
 返事がはっきりと聞き取れず、『マスターだ』と答えられたと思った近藤は顔を伏せたが、土方に振り払われる様子もなくむしろ距離を詰めてきた事に疑問符を浮かべる。
「俺は、あんたのが大事だな」
 その近藤に今度はもう一度はっきりと強調するように土方は言ってその頬に手を添えた。
 口吸いをされる、と思って近藤はぎゅっと目を閉じたが、それはやってこなかった。
「するのなら、心の準備ができたあんたから。そう言ったろ?」
 つい、と近藤の唇を指でなぞり土方は囁いた。
「~~~!!」
 ニヤリと笑って言われて近藤は土方の腕に縋ったままがくりと項垂れる。
 そのまま動かなかった近藤だが、しばらくしてゆっくりと顔を上げた。
 そうして中腰で立ち上がり土方の腕を引っ張って屈ませると自分から土方の唇に口吸いをした。
「準備、できた……
 唇を離しぽつりと呟く。
 これ以上焦らされたらおかしくなってしまいそうで、それが近藤の今できる精一杯だった。
「いい子だ」
 土方は優しい笑みを浮かべて近藤の唇、頬、首筋と口吸いをした。
「ベッドで……
 癖のある土方の髪に指を絡ませ、近藤は囁く。
「当たり前だ」
 土方はその身を包む漆黒のコートを脱がせると近藤を抱え上げ、屏風の奥の寝台へと運びそこに縫い付けた。
「いつも、それくらい素直でいいんだぜ」
「今日は、特別だ……
 近藤はちょっと眉根を寄せて唇を尖らせた。
「そういうことにしておいてやるよ」
「いじわる……
「あんたが可愛いからな」
「可愛くない……こんな意地っ張り」
「そこが可愛い」
 耳元で囁かれ近藤はまた頬が熱くなるのを感じた。
 襟をくつろがされ、腰紐を緩められる。
 インナーの上から胸を触れられて身体が震えるのがわかった。
「じゃあ、うんと可愛がって」
「あぁ。これ以上ないくらい可愛がってやる」
 熱を帯び始めた自分の身体と土方の息を感じながら、近藤はうっとりとした表情で土方の肩から背に腕を回し、その端正な顔を見つめた。
 それに合わせて優しい口吸いが降りてくる。
 素直になれば、こうして優しく扱ってくれる。
 そうはわかっていても意地を張ってしまう自分は、きっと土方にどうしようもなく甘えているのだろう。
「愛してる」
 当世風の言葉でそう囁いてみる。
「あぁ、俺もだ」
 インナーの下に手が入り込み、肌を撫でる感覚に腰の辺りに甘い疼きを感じた。
 この愛しい男と過ごせるこのときを大切にしよう。
 そう思いつつ、近藤はゆっくりと目を閉じた。